ソフィア
――ああ……幻聴まで聞こえ出したの……――
と千灯は自らの限界を感じたが、今度は肩を持ち上げられて抱きかかえられながら
「返事をして! 大丈夫?」
とはっきりと声が聞こえた。
薄っすらと開いた瞳の先に見えたのは、頭からフードを被ったマント姿の若い女性だった。
「あ……あなたは?」
と千灯は聞いた。
「私はソフィアと申します。間に合って良かったわ」
と言ってフードを脱いで千灯を抱きしめた。その瞬間ソフィアの身体が光り輝き黄金の光を発した。
ソフィアは聖なる力で千灯を癒した。
「もう大丈夫」
と千灯から身体を離すと微笑んで言った。
「あぁ……暖かい……体力が戻って行く……本当に助けて頂いてありがとうございます」
と千灯は自らの身体に体力が戻った事を実感しながら礼を述べた。
「いいえ。こちらこそ遅くなってごめんなさい」
とソフィアは謝った。
「もしかして皇女殿下ですか? ……あのシバさんと同じ艇に乗ってこられたという……」
と千灯は聞いた。千灯もモルタリア帝国の皇女殿下がシバの艇でこの国へ一緒に来た事は、祖父伊織から聞かされて知っていた。
「そうですよ。でも本当に遅くなってごめんなさい」
とソフィアは再び頭を下げた。
「いえいえ。とんでもないです。それよりも皇女殿下がどうしてここへ?」
「それはシバさんに頼まれたからです。でもね。シバさんたら『炎杜の家長が無理を押して神殿に向かうから何かあったら助けてあげてくれ』と言うから私ずっと家の前で伊織さんが出てくるのを待っていたの……」
とソフィアは状況を説明し始めた。
ソフィアはシバの申し付け通りに、炎杜家の屋敷から出てくる伊織を隠れて延々待ち続けていたが、一向に出てこないので不審に思った。そこで炎杜家に赴き事情を直接聞いたところ、既に孫娘が向かったと聞いて慌てて追いかけてきたようだった。既に姫巫女の眷属となったソフィアは、この辺りはどこへでも瞬間移動できた。
それにしても大っぴらに随行すれば伊織が嫌がるだろうというシバの判断が、完全に裏目になるところであった。
――帝国の皇女殿下にそんな事を普通頼みますか? シバさんって何者?――
と千灯は思ったが声には出さなかった。
「立てますか?」
ソフィアは手を取って千灯を立たせながら聞いた。
「大丈夫です。お陰様で体力も戻りました。皇女殿下は聖魔法もお使いになられるんですね」
と千灯は答えた。
「ソフィアで良いですよ。ここからは私も一緒にご同行しますね」
「ありがとうございます。でも……」
と千灯は答えながら不安げに参道に目をやった。
ソフィアの目にも灯籠の全ての灯りが消えた参道が目に映った。
「いつもならこの全て石灯籠に火が灯っているのですが……何故なんでしょう?」
と千灯はソフィアに聞いた。
「本当ね……これはこの吹雪の中に隠れている邪気のせいですね」
とソフィアは暗がりを見つめて言った。ソフィアにはこの吹雪の中に紛れている邪気を感じ取る事が出来ていた。




