千灯
聖樹海の雪の舞う夜道を千灯は一人歩いていた。雪はどんどん降り積もり、吹雪きだして来た。
それでも千灯は周りの明るく輝く森を見て気丈にも
「綺麗」
と呟いた。
祖父の代わりに『御神火』を無事に姫巫女様のもとへ届ける事……それだけを考えて千灯は道を急いだ。
幸いこの季節、聖樹海の森は光り輝く季節であった。吹雪で視界は悪かったが、道を見失う事は無かった。しかしこの吹雪は徐々にこの孫娘の体力を奪っていった。伊織が気がついていたように、この吹雪には邪気が含まれていた。千灯の体力はその邪気に徐々に奪われていた。
それはしばらくして千灯の身体に現れだした。
聖樹海を進むにつれて千灯の足の運びがおぼつかなくなってきた。
「おかしい……こんなところで力が尽きるなんて……何故?」
と千灯も気が付いたが、歩みを止める事は無かった。
「お父様、千灯にお力をお貸しください。おじい様との約束を守らせてください」
と千灯は今は無き父迦炎に祈るように雪が降りそそぐ天を仰いだ。
それでも何とか聖樹海を抜けると辺りは徐々に暗くなってきた。光り輝いているのは聖樹海の中だけである。参道にまでその力は及ばない。
千灯は霊峰サザンの参道の中腹まで登って来たが、吹雪は更に強まり灯も手元の『御神火』だけとなった。『御神火』と言ってもまだこの時点では種火のようなものである。その灯は弱く小さく儚い。
「もう少し頑張れば石灯籠の階段に出るはず。そこまで行けばあと少しだわ」
と自らを奮い立たせるように言って聞かせた。
何とか参道を登り、神殿へ続く参道が山道から石畳の階段へ変わったところで、千灯は立ち尽くした。
いつもであればここから神殿に続く参道の両脇にある無数の石灯籠が光り輝いているはずだが、目の前の石灯籠の火はすべて消えていた。参道は暗闇の中へと吸い込まれていた。
千灯の前には暗い参道の階段が続いていただけであった。
「何故、灯が消えているの?」
と泣きそうな顔で千灯は呟いた。そしてそこで力が尽き、膝から崩れ落ちた。心も折れる寸前だったが、それはまだ折れ切ってはいなかった。
「まだ歩ける……まだ歩ける……動いて私の両足!」
と声にならない、か細い叫びが吹雪く夜空に吸い込まれていく。
「このままでは私のせいで神様を暗がりに置き去りにしてしまう。おじい様の役目を果たす事が出来なくなる……」
と千灯は暗闇の中にあるであろう姫巫女の住まう神殿に向かって呟いた。
それでも千灯は立てなくなった足を引きずりながら、片手でランタンを持ちながら、階段を両肘を使って這いずって登ろうとしていた。
既に両肘は赤く染まり出していた。
笠と蓑には雪が積もり出した。千灯はこのまま雪の中に埋もれてしまうかと覚悟した。
その時だった。
「千灯さん、大丈夫?」
と声を聞いた。




