草庵
暫く三人は魔獣に出遭う事も幻獣に遭遇する事もなく、深緑の不思議な光に輝く樹海の道を歩いていた。
急に目の前の森が開け、目の前に広場が現れた。その広場の真ん中にこじんまりとした、切妻づくりのこけら葺き屋根の草庵が見えた。
「あれが姫巫女様の神殿ですか?」
と足を止めたソフィアがシバに聞いた。
「いや、違うよ。あれは幻獣の住む庵だよ。今は何が居たっけかなぁ?……まぁ、いいや。行ってみようか」
とシバはソフィアの質問に適当に答えながら歩き出した。実は歩きながらシバは記憶を辿っていた。
――今の時期はどんな幻獣が居たっけ?――
そんなシバの後をソフィアとアキトがついて行くような形で、三人はその草庵に近づいて行った。
近づくと草庵から張り出すようにこしらえられた板張りの濡れ縁に、小さな子狼がちょこんと座っている姿が三人の目に入った。
白い神聖な毛並みに、エメラルドグリーンの光る紋様が走る子狼。その額には聖樹の結晶でできた小さな角が生えていた。
「ほほぉ……エルド・ヴェルデだったか……?」
とシバが少し首を傾げながら呟いた。
「え?」
とソフィアが聞き返した。
「ソフィアが見たがっていた幻獣だよ。小さいフェンリルみたいだけど、その上位種みたいなもんだな。あれは『聖域の代行者』と呼ばれる幻獣でね、この聖域を護る結界は全てあの幻獣が張っているんだよ」
とシバはソフィアに説明した。
「あれが、幻獣……」
とソフィアは感動したように呟いた。
「そうだよ」
「綺麗……」
「うん? そうだね」
「そして可愛い……」
とソフィアは今にもその幻獣を抱きかかえて頬ずりしそうな雰囲気を醸し出していた。
「え? ダメだよ。抱きついちゃ……一応幻獣だし、姫巫女様の眷属だからね」
とシバは思わずソフィアにそう注意した。
「はい……」
とソフィアは残念そうに答えた。シバが言わなければ幻獣を抱き上げていたかもしれない。
三人は歩みを進め草庵の前に立った。
シバは一人前に進み出て幻獣『エルド・ヴェルデ』を見下ろすようにその前に立った。
「元気か?」
「うん。元気だよ」
と幻獣『エルド・ヴェルデ』はシバを見上げて、幼女のような可愛い声で答えた。
それを聞いてソフィアは
「やっぱり可愛い……」
とまた呟いた。
「今日、シバ達が来ることは姫巫女様に聞いていたよ。その彼女がモルタリア帝国の皇女殿下ソフィアだね?」
と幻獣はソフィアを品定めでもするかの如く、じっと見つめて聞いた。
「その通りだ」
「ふ~ん」
と答えるやいなや幻獣『エルド・ヴェルデ』は毛並みを逆立て、エメラルドグリーンに光る模様が更に鮮やかに光ったかと思うと、一気に巨大化し
「我が名はエルド・ヴェルデ。その名を汝の魂に刻むが良い!」
と腹に響くような重い声で威嚇するように立ち塞がった。




