アキトの記憶
「でもこの実は秋にしか穫れないからね。もう冬が近いからどうかな? って思っていたんだけど、まだ有って良かったよ。残り福だな」
とアキトは満足そうに笑った。
「本当に残り福で良かったよな」
とシバも同意するように何度もうなずいた。
「この樹海の樹になる実は素晴らしいですね」
と何もしなくても『危険察知能力』を手に入れたソフィアは本当に嬉しそうに言った。
――今度は秋たけなわに来なければ……食欲の秋ともいうしね――
とソフィアは密かに心に誓っていた。
「でもね、今ソフィアが食べた実は当たりだったけど、昔、アキトが食べた実で、最悪なのがあったよなぁ?」
とシバは思い出したようにアキトに振り向いて聞いた。
「ああ、あれね。あんなものが出るとはな……お前も今更、そんないやな事を思い出させるな」
とアキトは眉間に皺を寄せて言った。
「何が出たんですか?」
とソフィアは聞いた。さっきまで『良いスキルを手に入れた』と喜んでいたソフィアは、不安そうな表情を浮かべていた。
「それはね『下ネタ満載の替え歌を作る』と言う訳の分からん経験の記憶の実だったんだよ」
とアキトに代わってシバも顔をしかめながら言った。その割にはどこか愉快そうな表情が見え隠れしていた。
「あれは本当に失敗だった。頭の中で暫く下品な歌が鳴り響いていたからな」
と思い出すのもおぞましいといった顔でアキトも顔をしかめた。
「なに言ってんだよ。そのお下劣な歌を暫く耳もとで、何日間も聞かされた俺の方が最悪だよ」
とシバもうんざりした表情で言った。流石にこれは本気で迷惑だったようだ。
「当たり前だ。こんな苦痛は分け合わないと割に合わん」
とアキトはひとことでシバの言葉を切って捨てた。
「それに歌詞は最悪だけど曲は中々良かったりしたので、頭にそのフレーズが残るんだよなぁ……」
とアキトは更に嫌な事を思い出してげっそりした表情で言った。
「そうそう……下品な歌詞が頭の中で何度もリフレインするのは地獄だった」
とシバも余計な過去を思い出して頷いていた。
「そう言えば、アキトもやけになってその歌を、飲みの席で誰かれ無しに酔った勢いで聞かせていたな」
「そうでもしないと気が収まらんかったからな」
とアキトはここでやっと吹っ切れた様な表情になって言った。
「え~!! もしかしたら私もそういう目に遭っていたかもしれないんですかぁ?」
とソフィアは唐突に叫んだ。
「流石にもうアキトが歌って聞かせる事は無いから安心してね」
とシバも表情を緩めて言った。
「いえ、そういう意味ではなく、私がその歌の実みたいなものを食べていた可能性もあったんですよね?」
「うん。ないとは言えなかったなぁ」
とシバは答えた。
「うん。そうだな。同じ記憶は二度と出ないなんて事は無いはずだからな」
とアキトもシバの意見に同意した。
「え~~!!」
とソフィアは絶句した。
それを見たシバとアキトに
「ま、何事も経験という事だよ」
と真顔で同時に言われた。
「はぁ……そうですか……」
とソフィアは全身から力が抜けていくような気分になった。
――当たりを引いて良かった。でもこんなところで木の実ガチャをさせられるとは思わなかったわ――
と心の中では密かに憤りながら……。




