姫巫女様の件
「いえ。そういう訳ではありませんけどね。ちょっとね」
とダミアンは答えた。
「ふむ。お前も長の体調の事は知っていたのか?」
とシバは腕組みをしたままダミアンに確認した。
「そりゃね。それ位の情報はすぐに俺の耳に入りますよ」
とダミアンは答えた。流石『ミカサの諜報部門』と言われるだけあって、この国へ来てからも情報収集には余念がなかった。
「流石だな。しかしお前が危惧するほど、長の体調はすぐれないのか?」
とシバは心配そうに聞いた。シバ自身も長の体調が寄る年波に勝てなくなってきているという事は知っていたが、ダミアンが危惧するほどとは思ってもいなかった。
「いえ、そういう訳ではないです。ただ長も結構なお歳でしょう? 『御神火の儀』は体力を相当使うみたいですよ。その後に樹海を抜け、霊峰サザンの中腹まで登る訳ですからね……誰だって心配しますよ」
とダミアンも不安そうな表情を見せた。彼も長とは顔見知りであった上に、『御神火の儀』に関してはシバよりも知見があったのでその状況を予想したのだった。
「なるほどね……それはきついかもな……」
とシバも納得したようにうなずいた。
――今度、暇を見つけて会いに行ってみるか。場合によっては依頼されなくても、ミカサに乗っていただく必要があるかもしれん――
と考えていた。
丁度その時、ソフィアが道場に顔を出した。
「おはようございます……って、どうしたんですか? シバさん、難しい事を何か考え事中ですか?」
とソフィアは挨拶もそこそこにシバの顔を覗き込むように聞いた。シバは思った以上に深刻な顔をしていたようだった。
「いや、何でもないよ。ちょっとダミアンと話し込んでいただけだよ」
とシバは腕組みをほどきソフィアに笑顔を見せて言った。
「そうなんですね」
とソフィアは安心したように笑顔を見せた。
「あ、そうだ。ちょうどいいところに来た。ソフィアは姫巫女様の事は聞いた事があるかい?」
とシバは思いついたようにソフィアに聞いた。ダミアンの話から姫巫女様の事を思い出していた。
「姫巫女様? はて? 聞いた事ないです。どういう方なんですか?」
とシバに聞き返して来た。
「そっかぁ、聞いていないかぁ……姫巫女様と言うのは、この国で唯一『神の声を聞く』と言われる斎宮と呼ばれる姫巫女様の事だよ……というか姫巫女様自体が神みたいなものかもしれんけど」
――斎宮様だなんて……なんだか懐かしい言葉の響きだわ――
とソフィアは少し感動しながらも
「初めて聞きました。そんな巫女様がこの国にはいるんですね」
と聞き返した。
「うん。いるよ。いずれソフィアも会う事があるだろうね。年末にはその姫巫女様の神事もあるし……」
とシバは言った。
「そうなんですね」
とソフィアは答えた。
「いや……その前に会っておいてもらった方が良いかもな……」
とシバは呟いたがその言葉はソフィアには聞こえていなかった。そしてこの話が、この場でこれ以上続く事は無かった。




