ニセ情報
「あの少佐の生きる道はそれしかないからな。スペンサー大佐にかかったらこんな事は造作もない話だよ。拒否すればあの大佐は一族全てを根絶やしにしかねない男だからな」
と伯爵は眉間に皺を寄せながら言った。
「それはきついですねえ……」
とシバは初めて会った時にスミス少佐を見下したスペンサー大佐の冷徹な瞳を思い出していた。
――あり得ない話でもないか――
「その通り。あの大佐に目をつけられたら終わりだ。まだ、二重スパイで居られるだけマシだという事だな。その間は家族も生きていられるし、たとえバレたとしても粛清されるのは少佐一人で済む……どうだ、我が国の情報部も優秀だろう?」
と言葉とは裏腹に伯爵はうんざりした様な表情を見せて言った。
伯爵としては納得はしていないが、彼の手腕とその必要性は認めていたというところであろう。
「お主らとは違う意味で敵には回したくない男という事だ」
と伯爵は呟くように言葉を付け足した。
「本当に優秀な諜報部門をお持ちで良かったじゃないですか。だったらスミス少佐を使って王太子の偽情報でも流したらどうです?」
「偽情報? どんな?」
「例えば王太子は不治の性病に罹っているとか、実は廃嫡予定だとか、人格破綻者だとか、妃になったら一生不幸になりそうだとか……こんなところに娘を嫁にやる訳にはいかんと思わせるとかは?」
「よくもまぁ、そんなに人を貶める言葉がポンポンと出てくるな……そんな情報を流せるわけがないだろう?」
と伯爵は呆れたように即座に却下した。
「やっぱり、ダメですか?」
とシバは残念そうな表情を見せた。
「当たり前だ。もしかしてお主、面白がってはいないか?」
と伯爵は訝しげに聞いた。
「いえ。とんでもない。とんでもない」
とシバは激しく首を振ったが、明らかに面白がっていた。
「そうかのぉ……何故か悪意しか感じないが……」
「そんな事ある訳ないでしょう」
とシバは大きく目を見開いて直訴した。
「そうじゃのぉ……しかしその案は却下じゃ。流石に王太子を人格破綻者にはできぬ」
と伯爵は怪しみながらもそれ以上の追及はしなかった。
「でしょうねぇ……」
と少し残念そうにシバは答えた。そして
「……でもね、提督」
と言葉を続けた。
「うん?」
「いやしくもブリアイル王国連合は強大な国家ですよ? 忘れていません?」
とシバは打って変わって真顔で言った。
「ん? 何が言いたい?」
と伯爵は怪訝な表情でシバを見た。
「いやね。だったら、そんな縁談、もし来ても普通に断れば良いんですよ。シェベア共和国のような小国ならまだしも、仮にもブリアイル王国連合ですよ。ラシール帝国がこの縁談を蹴られたからと言って、それを理由にブリアイルに攻め込むなんてあり得ないでしょう? 多少恨まれるかもしれませんけど、どうってことないでしょう?」
「確かにそうであるな」
と伯爵は腑に落ちたという表情を見せてシバの意見に納得した。
「ま、この縁談の本当の目的が分かっているんだから、いざとなったら縁談を断った後に、名目上でも平和条約でも結べばいいんじゃないですか。今更ラシール帝国がブリアイル連合王国と事を構えるなんて、無意味過ぎますし、そんなに気に病むような話でもないでしょう……あ、そうだ!」
とシバは何か思いついた事でもあったのか、急に大きな声をあげた。




