伯爵の思いつき
「みえみえの西側諸国への牽制の為の婚姻と分かっていながら、この話を黙って見過ごすわけにはいかん。それこそ我が国の後顧の憂いとなるのは必然である。しかし我が王にはそれが見えていない」
「喜んでこの話を受けそうなんですね」
「そうだ」
と伯爵は残念そうな表情を見せた。
「なるほど……バカなのは王子ではなく国王だったのか……」
「シバよ。たとえそうであっても他人の国の国王をバカ呼ばわりするでないわ。……という事で、ラシール帝国の企みを阻止するために、この話が来る前にモルタリア帝国の第一皇女を我が王太子の嫁にと思ったのじゃが……」
――バカは否定しないんだな――
とシバは思いながらも
「それ、本気で言っていますか?」
と聞き返した。
「いや、今朝、思いついた話だ」
「こんな話を皇帝に言ったら、モルタリア帝国にラシール帝国よりも先にブリアイル王国が滅ぼされますよ」
とシバは本気で呆れかえりながら言った。
「やはりそうか……」
と伯爵は肩を落として落胆した。
「やはりって……朝から勘弁してくださいよ。フェリーの親バカぶりは御存じでしょう?」
「まぁ……それは西側諸国で知らぬ者はおらんからな……」
「いや、流石にそこまで有名ではないでしょう?」
と自分で言っておきながらシバは驚いたように聞き返した。
「何を言う。そういう情報こそ大事なのじゃよ」
と伯爵は真顔で言った。
――もっと他に重要な情報もあるだろうに……――
「そうなんですか……本当にこの世界は平和ですねぇ……」
とシバは今度は違う意味で呆れ返っていた。
「まぁ、今の話はネタとして聞いておきますけどね。その縁談が進まないうちにどっかの王族と王太子の婚約発表でもしたらどうですか? まだラシール帝国は少佐が情報を漏らしまくった事を知らないんでしょ? というかスパイである事がばれてしまっている事も知らないでしょう?」
「そうだ。まだお主には言っておらなんだが、スミス少佐には二重スパイとして、これからもラシールの情報を逐一提供してもらう事にした。ここだけの話だぞ。誰にも言うなよ」
と伯爵は世間話でもするかのように、機密事項をシバに話した。
「え? そうなんですか?」
とシバは驚いた。もう既に彼は処分されているものだと思っていた。まさか生きていた上に二重スパイとして利用されているとは想像もしていなかった。
それにしても伯爵は普通では口外できないような内容の機密事項をシバに語っていたが、こうやって国家の機密事項をシバに相談する事は、この二人にとって珍しい事ではなかった。
これまでシバに何かを依頼する時は、そのほとんどが機密事項に属する内容を含むことが多かった。
今回のトウイの国への依頼もその部類の案件とも言えた。
その為か、伯爵はシバにはそれなりに国内の内情を話す事が多かったし、シバもその辺りは心得ていた。
ある意味この二人には信頼関係が出来上がっていた。
そもそもシバ達は単なる運送屋ではなく、国家間の重要な人・物・金・情報を間違いなく届けられるこの世界唯一の存在でもあった。故に関わりの深浅は国によって異なるものの、シバ達は国家間の情報をある程度は得る立場にいた。勿論それをシバ達が口外する事は無かった。
2026.11.08 誤字修正。




