ある朝
ある日の事である。
シバはカクセール伯爵に呼ばれて、朝一番に伯爵が宿泊する公館に赴いた。
「なんですか? こんな朝早くから……提督」
開口一番、眠たそうな顔をしたシバは不満げに聞いた。
「何が朝早くだ。普通はもう起きて一仕事終わっている頃だぞ。どうせまだ寝ていたんだろう?」
「起きてましたよ。僕にだってやる事があるんですよ」
と言いつつもシバはまだ寝足りなさそうな顔だったが、シバの言葉には嘘は無かった。今朝はこの後クロードに稽古をつけるつもりだった。ソフィアからクロードの成長ぶりを聞かされて以来、シバも気になっていたので、それを今朝確認するつもりだった。
「そうか。それは失礼な事を言った。忙しい時に済まぬの……実はな、そろそろわしらは本国に戻らねばならないのだ。次の交易便で帰る予定にしている」
と伯爵は告げた。
「そうなんですか。まぁ、ブリアイル王国連合の重鎮がこんなところでいつまでも油を売ってちゃダメでしょうねぇ……王様も寂しがっているんじゃないですか?」
とシバは納得したように頷いた。
「ふん。余計なお世話じゃ。しかしいつまでもここで油を売っておる訳にもいかんのは、お主の言う通りだな」
「なるほど。ところで、ここの酒は堪能されましたか?」
「うむ。堪能した。持って帰るのも大変だわい」
と伯爵はここで初めて笑顔を見せた。シバと同様伯爵も無類の酒好きである。
しかしその笑顔も直ぐに消え、改まってシバに
「ところで一つ聞きたいのだが……」
と伯爵は話を切り出した。
「何をですか?」
「実はモルタリア帝国の皇女殿下を我が国の王子の妃にと考えておるのだが、お主はどう思う?」
「はぁ?……ブリアイル王国連合の王太子にソフィアですか?」
唐突な話にシバは驚きを隠せなかった。
「そうじゃ」
「朝一番に何を寝言みたいなことを言っているんですか? 提督」
とシバは聞き返した。さっきまでの眠たげな表情は消し飛んでいたというか、伯爵のひとことで完全に目が覚めてしまった。
「寝言ではない。失敬な」
と今度は伯爵は憤ったが、
「じゃあ、マジですか? あのバカ王子ですか? ソフィアが首を斬り飛ばしますよ?」
と更にシバは畳みかけるように詰め寄った。
「他人の国の王子をバカ呼ばわりするでない! それに第一、王太子はバカではない!」
と伯爵は更に憤って言い返した。
「はぁ……なんでもいいですけど、それって本気ですか?」
とシバは力が抜けたように肩を落として聞いた。
「いや……本気というか……ちょっと聞いてみたというか……思いついたというか……」
と伯爵の言葉がどうも煮え切らない。
流石にシバもそれには気が付いて
「何かありましたね?」
と真顔で聞いた。
「うむ」
「教えてくださいよ。相談ぐらいには乗りますよ」
とシバは少し興味が湧いてきていた。
「ここだけの話だぞ」
とカクセール伯爵は観念したように話し出した。




