忘れられていた男
「ウンディーネ様。私は師匠から『この二人の面倒を見ろ』と仰せつかっておりますので、これからは私がこの二人をちゃんと教育していきますので、今回の事はお許しください」
とメリッサも頭を下げて言った。
「あなたがちゃんとついているのであれば、大丈夫でしょう。よろしく頼みますよ」
とウンディーネはそう言って微笑んだ。
それと同時に消え去った泉が、また元の姿でシバたちの目の前に現れた。
「はい分かりました。責任をもって私が監視します」
とメリッサはウンディーネに約束した。
――良かった……ウンディーネ様が怒っていなくて――
と安堵しながら。
「なんだか、申し訳なかったねぇ。でも助かったよ」
とシバがメリッサに頭を下げた。
彼もメリッサが口添えしてくれたおかげで、大事にならずに丸く収まったと理解していた。
「それにしてもこの世界には本当に精霊とかいるんだなぁ」
とアキトが感心したように言った。
「あんたたちの世界には居ないのかい?」
とメリッサは不思議そうな表情で聞いた。
「ああ居ない。居たとしても見えない。勿論魔獣の類もいない」
とシバが答えた。
「そうなんだ……」
とメリッサは呟いた。彼女にしてみたら精霊や魔獣の類が居ない世界が信じられなかった。
「でも、これでここが俺たちが居た世界とは全く違う世界だとは実感できたな」
とアキトがシバの肩を軽く叩いて言った。
「そうだな。精霊王に会うなんて、これまでの人生になかったからな」
とシバも全くの同意見だった。
「ところで精霊王様」
とシバは唐突にウンディーネに話しかけた。
「ウンディーネで良いですよ」
と精霊王ウンディーネは微笑んで言った。
「それではウンディーネ様。おいら達はここで『精霊たちと遊んでこい』と言われたんだけどどうすれば良いんでしょうか?」
とシバは聞いた。アガサの婆さんに『遊んで来い』と言われただけで、それ以外は何の指示もされていなかった。
「そうですねえ……」
とウンディーネが言いかけたその時にメリッサが
「私がこの者たちにこの森での過ごし方を教えますので、この森での暫しの滞在をお許し願えますか?」
と二人との同行を願い出た。
――この二人をここで放置したら何をしでかすか分かったもんではない――
と危惧していた。それはまさにアガサがメリッサに二人の事を託した理由でもあった。
「そうですね。あなたにこの二人の事は任せましょう。この森の事をちゃんと言い聞かせておいてください。私の方からもこの二人に余計な悪戯をしないように精霊たちに言い聞かせておきましょう」
という言葉を残してウンディーネは姿を消した。
「という事で暫く、私もあんたたちと一緒に行動するわ。良いわよね?」
とメリッサは二人に言った。
「俺は全然構わないけど、この死にそこないの兄ちゃんはどうする? 誰が連れて帰る?」
とアキトがこの様子を茫然と見ていたフレデリックに視線を向けて言った。
「あ! 居たな。この人」
とシバは既にフレデリックの存在を忘れていた。
「あのぉ……できれば私もお仲間に入れて貰えればありがたいのだが……」
とフレデリックは消え入りそうな声で懇願した。流石のフレデリックも、このままここで放置されればどうなるか位は予想がついた。
「まあ、ここで見捨てる訳にもいかないかぁ……」
とシバはアキトの顔を見て言った。
「だな」
とアキトもその意見に同意した。




