これは何?
「いや、あれはどう見てもフェンリルだろ?」
とアキトは今まで見た異世界モノのアニメとラノベの知識を思い返していた。
「だよな。それって強くね?」
「確か……神獣と言われているらしい」
「だよな。なんでそんな神獣がここに居るんだ? 精霊と遊ぶんじゃなかったっけ?」
とシバが憤りを込めて言った。
「そのはずだが……」
「フェンリルって精霊の一種か何かだっけ?」
「いや、違うと思う」
「だよな。という事は、まずはあれを倒せという事か?」
とシバはメリッサに大きな声を張り上げて聞いた。
「さあ? どうぞ。ご自由に」
とメリッサは投げやりな態度で答えた。
「じゃあ、やるか」
と二人の意見が一致した。
そこでシバが歩み出て
「お~い、そこの珍獣。お前はフェンリルで良いのか?」
と取り敢えずは確認してみた。
魔獣の表情に怒りが加わったように見えたが
「如何にも」
とその魔獣は重々しい声で答えた。
「で、俺たちは精霊と遊びに来たんだけど何か用?」
「ほほぉ。それでは儂と遊んでもらおうか?」
「なにして?」
とシバが聞くやいなやフェンリルが飛び掛かって来た。
その瞬間シバとアキトは後ろに飛び退いた。
「そのデカい巨体で飛びつかれたら堪らんな」
とシバはフェンリルに向かって言った。
「ほほぉ。我が爪を避けるとは」
とフェンリルは感心したように言った。
「あ、そう言う事ね。じゃれついたんでは無く攻撃してきた訳ね」
とシバは納得したように呟くと
「じゃあ、遠慮なく」
と武器屋で買ったばかりのミスリルのロングソードを抜いた。
その様子を見たアキトが
「シバ、ちょっと後ろに下がって待て。俺に任せろ」
と言ってシバを止めた。
「うん? 分かった」
とシバがアキトの後ろに下がるのを待って、改めてアキトはフェンリルに立ち向かうと、ファイアーボールを放った。
「ふん!」
とひとことでフェンリルはその火の玉を退けた。
フェンリルがその火の玉に気を取られた瞬間、
「エクスプローション!」
とアキトは叫んで巨大な火の玉を空からフェンリルに向けて落とした。
フェンリルは大きな爆発音とともに巨大な爆焔に包まれた。そして泉共々吹き飛ばされた。
暫くしてシバたちの目の前には跡形もなくなった泉と抉られた地面が広がっていた。
「うわ。盛大にやったな」
とシバがアキトに声を掛けた。
「まあね。一度これを打ち込んでみたかったんだ。やっとそのチャンスが来た」
とまんざらではない表情でアキトは答えた。
――あ~スッキリした。流石に街中やダンジョンの中では打ち込めないからな――
とアキトは満足感に浸っていた。
その時
「あんたら! なんて事をするの!!」
とメリッサが怒鳴った。
「なにって……フェンリルが襲ってきたから、そのお返しをしただけだろ」
とシバが事もなげに答えた。
「バカ! それはフェンリルなんかじゃないよ!」
とメリッサは呆れたように大きな声で言った。
「へ?」
とシバとアキトは聞き返した。
「あれは水の精霊王ウンディーネ様の眷属だよ。フェンリルの姿は見せかけだよ」
とメリッサは言った。
「へ?」
――あれは誰がどう見てもフェンリルそのものだろう? 何を言っているんだこの女――
二人は彼女が何を言っているのか全く理解できていなかった。
これまでのシバとアキトが知りえた異世界モノの常識では、これはフェンリル以外の何物でもなかった。




