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第7話 恋のライバルと悪役令嬢

 第7話 恋のライバルと悪役令嬢


 収穫祭でゴーレム暴走事件を解決してからというものエリシア・フォン・ローゼンベルクの名前は王都中に広まり始めており、豊穣の奇跡を起こした妖精契約者という噂に加えて王城で召喚魔法を披露した少女としても注目を集めるようになっていたため、エリシア本人はただでさえ苦手な社交の場で次々と話しかけられて疲れ切っていたのだが、その一方で第一王子レオンハルトからは何故か妙に気に入られてしまい、会場内で顔を合わせるたびに声を掛けられるようになっていた。


 そして当然ながら。


 それを面白く思わない人物もいる。


「エリシア様」


 翌日の庭園で呼び止められたエリシアが振り返ると、そこには公爵令嬢セリーナ・アークライトが立っていた。


 相変わらず完璧な美少女だった。


 完璧すぎて背景に薔薇でも咲きそうだった。


「おはようございます」


「おはようございます」


 しばし沈黙。


 周囲の令嬢たちが緊張する。


 二人の美少女。


 将来の王妃候補。


 そして昨日は王子との接触もあった。


 どう見ても恋のライバルである。


 実際。


 セリーナは堂々と言った。


「勝負しましょう」


「え?」


 思わず間抜けな声が出た。


「勝負です」


「え?」


「三回も言わせないでください」


 話が早い。


 あまりにも早い。


 だがセリーナは真顔だった。


「昨日の件で理解しました、貴女は強敵です」


「いやいやいや」


「ですので決めましょう」


「何をですか」


「どちらがレオンハルト殿下に相応しいかを」


 エリシアは頭を抱えた。


 完全に恋愛バトル漫画の流れだった。


 しかしセリーナは予想に反して嫌味な性格ではなく、ただ真面目で努力家なだけらしい。


 つまり。


 天然だった。


 少し方向性がおかしいだけで。


「勝負内容は?」


「カードです」


 その返答にエリシアは固まった。


「カード?」


「いえ失礼しました」


 セリーナは咳払いする。


「魔法競技です」


 だがどう考えても本人もテンションが上がっていた。


 会場として用意されたのは王城の演習場だった。


 観客席には貴族の子息令嬢たち。


 王族関係者。


 騎士団関係者。


 そして何故かレオンハルト本人までいる。


「どうして見に来てるんですか」


「面白そうだから」


 爽やかに答える王子。


 イケメンだから許されているだけでかなり酷い。


 そして試合開始直前。


 新たな声が響いた。


「面白そうじゃない」


 その瞬間。


 エリシアの背筋に寒気が走った。


 現れた少女は美しかった。


 漆黒の髪。


 妖艶な笑み。


 真紅のドレス。


 年齢はエリシアたちと同じくらい。


 だが。


 知っている。


 結衣は前世の記憶から知っていた。


 この世界には存在しないはずの違和感を。


 その少女の胸元には前世で見慣れたカードホルダーがあった。


 完全に。


 カードゲーマーだった。


「初めまして皆様」


 少女は優雅に一礼する。


「リリアナ・ブラッドローズと申します」


 伯爵令嬢。


 だがその名前はゲーム本編に存在しない。


 それなのに。


 彼女の視線は真っ直ぐエリシアを見ていた。


 そして。


 口元が歪む。


「まさか同類がいるなんてね」


 その一言で確信した。


 転生者だ。


 しかも。


 カード使い。


 結衣と同じ。


「君も……」


「ええ」


 リリアナが笑う。


「まさか世界ランカー様とは思わなかったけど」


 エリシアの瞳が見開かれる。


 知っている。


 こちらの正体を。


 つまり。


 前世の知識を持った転生者で確定だった。


 周囲は何も理解できていない。


 だが当人同士には伝わっていた。


 そして。


 リリアナは高らかに宣言する。


「なら私も参加させてもらうわ」


 その場に魔法陣が展開された。


 真っ黒なカード。


 嫌な予感しかしない。


 少女が笑う。


「召喚!」


 闇が噴き上がる。


 巨大な狼が現れる。


 観客から悲鳴が上がった。


 リリアナはまるでアニメの悪役のように叫ぶ。


「モンスターカード《魔界狼フェンリル》召喚! このカードは墓地の闇属性枚数に応じて攻撃力を上昇させる! さらに相手フィールドの光属性ユニットへ特攻ダメージを与える!」


 エリシアは思わず顔をしかめた。


 知っているカードだった。


 対人戦で嫌われまくったテンプレ環境デッキの一枚である。


「うわぁ」


 思わず素が出る。


「あんた絶対性格悪いでしょ」


「褒め言葉として受け取るわ」


 否定しなかった。


 酷い。


 その時。


 フェンリルが突然観客席へ向けて襲い掛かった。


 悲鳴。


 逃げ惑う貴族たち。


 エリシアの表情が変わる。


 遊びではない。


 リリアナは最初からこういうつもりだった。


 混乱を起こし英雄役を奪い王子へ接近する。


 そういうタイプの人間だ。


 だが。


 それが通用する相手ではない。


 エリシアはカードを構える。


「ガーディアン召喚!」


 黄金の光。


「《聖盾姫アストレア》!」


 純白の鎧に身を包んだ少女騎士が出現する。


 エリシアは高らかに宣言した。


「聖盾姫アストレアの特殊能力発動! 味方への攻撃対象を強制変更! さらに防御成功時に反撃ダメージを発生させる!」


 巨大な盾。


 激突。


 フェンリルが弾き飛ばされる。


 観客席から歓声が上がった。


 しかし驚いたのはセリーナだった。


「私も戦います!」


 公爵令嬢が魔法陣を展開する。


 風属性魔法。


 数十本の風槍。


 一斉射撃。


 フェンリルへ命中する。


 リリアナが眉をひそめた。


「へえ」


「エリシア様だけに任せませんわ」


 少し前まで恋のライバルとして睨み合っていた少女が隣へ並ぶ。


 その姿にエリシアは思わず笑った。


「ありがとう」


「勘違いしないでください」


 セリーナが少し顔を赤くする。


「貴女はまだ私のライバルです」


「うん」


「ですが」


 彼女は小さく微笑んだ。


「友人にならないとは言ってませんわ」


 その瞬間。


 エリシアも微笑んだ。


 なんだ。


 思っていたよりずっと良い子だった。


 そして二人は同時に前を向く。


 悪役令嬢リリアナを見据えながら。


「行こうセリーナさん」


「ええエリシア様」


 こうして。


 恋のライバルだった二人は。


 同じ敵を前にして初めて背中を預け合うことになるのだった。

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