後日談 第2話 黒のカード使いと王女の初陣
後日談 第2話 黒のカード使いと王女の初陣
王女アリア・フォン・アルセリアがカードの力に目覚めてから数週間が経過していたのだが、その間に彼女は毎日のように母エリシアからカードの扱い方を教わっており、かつて世界最強プレイヤーだった王妃による指導は容赦がなく、朝は基礎理論、昼は召喚訓練、夜は模擬戦とまるで英才教育そのものだったため、アリアは自分が王女なのか見習いカード使いなのか分からなくなりながらも必死に頑張っていた。
「カード使いに必要なのは知識と判断力よ」
エリシアが真剣な顔で言う。
「はいお母様」
「そして何より運」
「運なんですか」
「運よ」
真顔だった。
アリアは少し不安になった。
相変わらず母親は凄い人なのか適当な人なのか分からない。
そんなある日のことだった。
王都郊外の遺跡調査隊が全滅したという報告が王城へ届く。
死者こそ出ていないものの、調査隊全員が正体不明の召喚獣によって撃退されたらしい。
謁見の間は騒然となる。
騎士団長も険しい顔をしている。
するとエリシアが静かに立ち上がった。
「行ってきなさい」
「え?」
アリアは固まる。
「私が?」
「実戦経験は必要よ」
簡単に言う。
あまりにも簡単に。
横では国王レオンハルトが苦笑していた。
「昔からこうなんだ」
「お父様止めてください」
「無理だ」
諦めた顔だった。
長年夫婦をやってきた結果らしい。
結局アリアは護衛の騎士たちと共に問題の遺跡へ向かうことになり、その途中で何度も帰りたいと思ったものの引き返した瞬間に母親から追加訓練が飛んできそうな気がしたので大人しく前進し続け、やがて問題の遺跡へ到着すると周囲には明らかに不気味な魔力が漂っており、普通の魔物ではないことくらいは初心者である彼女にも理解できた。
「王女殿下」
隊長格の騎士が前へ出る。
「下がってください」
その瞬間だった。
遺跡の奥から拍手が聞こえた。
一つ。
二つ。
三つ。
ゆっくりとした拍手。
そして。
黒いローブの少年が姿を現した。
銀色の髪。
赤い瞳。
年齢はアリアと同じくらい。
だが雰囲気だけは異様だった。
「やっと会えた」
少年が微笑む。
「王妃エリシアの娘」
アリアは警戒する。
彼の右手にはカードがあった。
黒いカード。
見たことのないカードだった。
「君は誰?」
「カイン」
少年は答える。
「黒のカード使いカイン」
次の瞬間。
彼がカードを掲げた。
膨大な闇の魔力が噴き出す。
騎士団がざわめく。
アリアも思わず息を呑む。
そしてカインは高らかに宣言した。
「召喚せよ!」
黒い魔法陣が広がる。
地面が割れる。
闇が吹き荒れる。
「《深淵竜アビスドレイク》!!」
巨大な黒竜が出現した。
体長二十メートル近い巨体。
周囲の木々が揺れる。
騎士たちが後退する。
カインはまるでカードアニメの主人公のように能力を叫ぶ。
「深淵竜アビスドレイクの召喚時能力発動! このカードはフィールド上の闇属性魔力を吸収し自身の攻撃力を上昇させる! さらに敵ユニット全体へ恐怖状態を付与する!」
黒竜が咆哮する。
衝撃波だけで騎士たちの動きが鈍る。
経験豊富な騎士ですら青ざめていた。
だが。
アリアは逃げなかった。
怖い。
正直凄く怖い。
けれど。
母も。
父も。
皆も。
逃げなかった。
だから自分も逃げたくなかった。
アリアは震える手でカードを構える。
「わ、私だって!」
カードが輝く。
月色の光。
彼女が最初に召喚した相棒。
「召喚!」
白い魔法陣が広がる。
「《月光狐ミルフィ》!」
白狐が現れる。
ふわふわだった。
可愛い。
凄く可愛い。
そして対面は深淵竜である。
戦力差が酷い。
騎士たちも不安そうだった。
しかし。
アリアは叫ぶ。
「月光狐ミルフィの特殊能力発動!」
ミルフィが元気よく鳴く。
「このカードは召喚者との信頼度に応じて魔力出力が上昇する! さらに月属性ユニットの能力を強化する!」
白い光が広がる。
ミルフィの身体が大きくなる。
一回り。
二回り。
三回り。
ついには狼ほどの大きさになった。
カインが初めて驚く。
「成長型カードか」
アリアは少しだけ笑った。
母ほど強くない。
伝説級カードもまだない。
だけど。
自分には自分の戦い方がある。
月光狐がアリアの前へ立つ。
その姿は小さくても頼もしかった。
そしてカインもまた笑みを浮かべる。
「面白い」
その瞳には敵意だけではない何かがあった。
「やっぱり君は他とは違う」
黒のカード使い。
王女アリア。
二人の出会いは偶然ではない。
そして。
この戦いの先で。
世界の歴史に隠された真実が明らかになることを今のアリアはまだ知らなかった。




