後日談 第1話 王女アリアと伝説の母
第1話 王女アリアと伝説の母
王国史上最高の名君と呼ばれた国王レオンハルトと偉大なる王妃エリシアの間に生まれた長女アリア・フォン・アルセリアは十歳になっていたのだが、その人生は順風満帆とは程遠く、周囲からは常に伝説の王妃の娘として比較され続け、学問も魔法も十分優秀であるにもかかわらず母があまりにも規格外だったため何をやっても「王妃様ほどではありませんね」と言われてしまう日々を送っており、本人も表には出さないものの大きな悩みを抱えていた。
「お母様は十歳で領地改革をしていたそうです」
「そうね」
「竜を召喚したそうです」
「そうね」
「魔物の軍勢を倒したそうです」
「そうね」
「私まだ宿題で褒められたくらいなんですけど」
エリシアは紅茶を吹き出しそうになった。
目の前で娘が真顔で落ち込んでいる。
ちなみに事実だった。
比較対象が悪すぎる。
王妃エリシアは少し考えた後、立ち上がって部屋の奥へ向かう。
そして厳重に封印されていた宝箱を持ち出した。
「え?」
アリアが首を傾げる。
エリシアは微笑んだ。
「これはね」
鍵が開く。
光が漏れる。
そして。
大量のカードが現れた。
虹色。
金色。
銀色。
伝説級。
神話級。
世界ランカーだった皇結衣が集めたカード群そのものだった。
アリアの目が丸くなる。
「綺麗……」
「お母様の宝物」
エリシアは一枚のカードを取り出した。
そして娘へ差し出す。
「アリア」
「はい」
「これは貴女へ譲るわ」
カードが輝く。
すると突然アリアの身体から魔力が溢れ出した。
王妃の加護。
王家の血。
そしてカードの適性。
全てが共鳴する。
エリシアは驚いた。
予想以上だった。
「まさか」
カードが浮かび上がる。
魔法陣が展開される。
幼い王女が慌てる。
「お、お母様!?」
光が膨れ上がる。
そして少女の前へ一体のユニットが現れた。
白い狐だった。
ふわふわだった。
とても可愛い。
カードにはこう書かれている。
《月光狐ミルフィ》
Rカード。
完全に序盤用だった。
しかし。
初召喚で成功すること自体が異常だった。
「すごい」
エリシアが呟く。
「え?」
「お母様より才能あるかもしれない」
今度はアリアが固まった。
生まれて初めてだった。
母親に認められた気がした。
そして。
その日の夜。
アリアは眠れなかった。
自分にもカードが使える。
母と同じ力がある。
嬉しかった。
ワクワクしていた。
だが。
その時。
王都の地下深く。
封印されていたはずの遺跡で。
一枚の黒いカードが目覚めていた。
「見つけました」
ローブ姿の少年が不気味に笑う。
年齢はアリアと同じくらい。
しかし瞳は異様だった。
彼の手にもカードがあった。
漆黒の。
禍々しいカードが。
「次の時代のカード使いが現れた」
少年は笑う。
「では始めましょうか」
彼の背後で巨大な魔法陣が開き始める。
誰もまだ知らない。
伝説の王妃エリシアの物語が終わったその先で、
新たなカード使いたちの物語が始まろうとしていることを。




