後日談 最終話 月光の王女と黒のカード使い
後日談 最終話 月光の王女と黒のカード使い
月光狐ミルフィと深淵竜アビスドレイクが睨み合う遺跡の中心では膨大な魔力がぶつかり合って空気そのものが震えており、騎士たちはいつでも介入できるよう警戒を続けていたものの、この戦いだけは彼らではなく二人のカード使い自身が決着を付けなければならないと本能的に理解していたため誰も動くことができず、アリアとカインもまた互いの瞳から目を逸らさないまま静かに相手の出方を窺っていた。
だが不意に。
遺跡の最深部から大地を揺るがすような轟音が響いた。
次の瞬間。
巨大な魔法陣が遺跡全体へ広がる。
「なにこれ……」
アリアが息を呑む。
カインの表情も初めて曇った。
予定外だったらしい。
床が砕ける。
壁が崩れる。
そして。
闇の底から一枚のカードが浮かび上がった。
禍々しい黒と金に彩られたカード。
その存在を見た瞬間。
アリアの中にある王妃エリシアの加護が警鐘を鳴らす。
危険。
あまりにも危険。
するとカインが叫んだ。
「下がれ!」
アリアは驚く。
さっきまで敵だった少年が警告している。
しかし遅かった。
カードが勝手に発動する。
漆黒の光が天井を突き抜ける。
無数の魔法陣。
そして。
世界が震えた。
巨大な影が闇の中から現れる。
竜でもない。
魔王でもない。
数百本もの腕と翼を持つ異形の怪物だった。
カインが苦々しく呟く。
「封印されていた古代カードか」
アリアも理解する。
これが真犯人だった。
遺跡事件の原因。
そして二人が巡り会った理由。
怪物は咆哮する。
衝撃波だけで周囲の柱が砕け散った。
騎士たちが吹き飛ばされる。
アリアは慌ててカードを構える。
「ミルフィ!」
白狐が飛び出す。
しかし相手が大きすぎた。
圧倒的だった。
そこでカインが前へ出る。
「共同戦線だ」
「え?」
「嫌なら好きにしろ」
ぶっきらぼうだった。
だが。
耳が少し赤い。
なぜかアリアはそれに気付いてしまった。
「分かった」
思わず微笑む。
その笑顔を見たカインは露骨に視線を逸らした。
「早くしろ」
「うん」
その様子を見た騎士たちは何とも言えない顔になる。
まだ十歳前後なのに少し雰囲気がおかしかった。
そして戦いが始まる。
アリアはカードを掲げた。
「サポートカード発動!」
月色の光が広がる。
「《月光の祝福》!」
カードが輝く。
アリアは母譲りの勢いで能力を読み上げる。
「月光の祝福の特殊能力発動! 味方の月属性ユニット全ての能力値を二倍化! さらに戦闘不能を一度だけ無効化する!」
ミルフィが輝く。
巨大化する。
九本の尻尾が現れる。
伝説級ユニットへ進化していた。
カインも続く。
「召喚!」
黒い稲妻。
「《深淵騎士ヴェルグ》!」
漆黒の鎧騎士が降り立つ。
「深淵騎士ヴェルグの能力発動! 闇属性ユニットが存在する限り攻撃力を加算し敵ユニットの防御能力を貫通する!」
二人のユニットが同時に突撃する。
轟音。
激突。
怪物が初めて怯む。
だが倒れない。
むしろ更なる力を解放していく。
「強い……」
アリアが息を切らす。
その時。
胸元で何かが光った。
王妃エリシアから譲られたカードだった。
虹色の光。
母の魔力。
そして。
遠く王城から感じる温かな気配。
アリアは気付く。
母が見守っている。
父も。
皆も。
だから負けたくない。
アリアは手を伸ばした。
するとカインも同時にカードを掲げる。
二人のカードが共鳴する。
「え?」
「なんだこれは」
誰にも分からない。
だがカードは確かに反応していた。
光と闇。
正反対の属性。
本来なら交わらない力。
しかし。
月光と深淵は一つになった。
巨大な魔法陣。
眩い輝き。
アリアは高らかに宣言する。
「ユニオン召喚!」
カインも叫んだ。
「融合せよ!」
世界が光に包まれる。
ミルフィとヴェルグが融合する。
現れたのは。
純白と漆黒の翼を持つ美しい騎士だった。
観測した騎士たちが絶句する。
こんなユニットは記録にない。
完全な新カードだった。
アリアとカインは同時に能力を宣言する。
「《月冥神騎ルナクロス》特殊能力発動!」
光が弾ける。
「このカードは光属性と闇属性の力を統合しフィールド上の全能力強化効果を吸収!」
さらに魔力が膨れ上がる。
「吸収した能力を攻撃力へ変換し敵ユニット一体へ完全貫通攻撃を行う!」
怪物が咆哮する。
だが遅い。
ルナクロスが剣を構える。
そして。
アリアとカインは息を合わせて叫んだ。
「「フィニッシュスキル発動!」」
剣が輝く。
月光。
深淵。
二つが一つになる。
「「エクリプス・ブレイド!!」」
斬撃が走る。
世界が静止する。
一秒。
二秒。
三秒。
そして怪物が崩壊した。
闇が消える。
光も消える。
遺跡に静寂が訪れる。
戦いは終わった。
その後。
二人は王都へ戻ることになる。
事件解決の功績は国中で称えられた。
そして別れの日。
城門の前で。
アリアは少し寂しそうな顔をしていた。
カインは辺境で保護観察を受けることになったため離れることになったのだ。
「また会えるかな」
アリアが尋ねる。
カインは少し考える。
そして。
照れ臭そうに言った。
「次は負けない」
完全に答えになっていない。
アリアは吹き出した。
「それって友達ってこと?」
カインの耳が赤くなる。
「勝手にそう思えばいい」
やはり素直ではない。
だが。
それで十分だった。
去っていくカインの背中を見送りながらアリアは微笑む。
新しい冒険。
新しい仲間。
そして。
少しだけ特別な感情。
伝説の王妃エリシアの物語は終わった。
けれど。
その娘アリアの物語は今始まったばかりだった。
いつか彼女も母のように大切な人と出会い。
大切な仲間を見つけ。
自分だけの幸せを掴むのだろう。
月光狐ミルフィが肩の上で嬉しそうに鳴いた。
青空はどこまでも晴れていた。
完。




