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小説家志望、異世界に転生する ~僕の黒歴史キャラが異世界を救う~  作者: 赤いたぬき
第三章 魔法少女たちの正義と、僕の大切なもの
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第九十六話 うっそぉ……まだ、出てくるの……‼

「今だ……‼」


 アレクシアは、その一瞬を見逃さなかった。踏み込みは浅く、しかし速い。剣先が狙い澄ましたように、スターサラマンダーの脇腹へと迫る。


「そこだ‼」


 スターサラマンダーは、辛うじて身をよじり、致命的な一撃を避けた。刃が、頬すれすれをかすめ、髪の毛が数本、宙に舞う。


「ちっ……‼ これは、思ったより、しつこいね」


 そこへ野犬型のクライナーが、牙を剥きながら、横合いから襲いかかった。黒い棘に覆われた体軀が、地を這うように低く駆け抜ける。


「……っ! まずは、そっちから」


 スターサラマンダーの意識が、再びクライナーへと向く。彼女は拳の炎を、野犬型のクライナーへと叩きつけた。


「フレイムバースト‼」


 直撃を受けたクライナーが、大きく怯む。だが、完全には消滅しない。ダークエナジーで生まれた体は、しぶとく何度も立ち上がってくる。焼け焦げた毛皮の下から、赤黒く濁った眼が、なおも爛々と光っていた。


「くっ……‼ しつこいってば……‼」


 クライナー二体を相手にしながら、正面のアレクシアとブリザードの攻撃も凌がなければならない。額から流れる汗が、顎を伝って地面に落ちる。スターサラマンダーの動きに、次第に、余裕がなくなっていく。

 岩陰では、ルティナが静かに戦況を見つめていた。両の手の中に、魔力が着実に積み上がっていく。まだ、その時ではなかった。


「今だ‼」


 アレクシアの声と共に、ブリザードが氷の手刀を放った。


 ブリザードの手刀が、スターサラマンダーの肩を掠める。表面を薄く裂かれた皮膚から、血の玉が滲んだ。


「うぐっ……‼」


 その瞬間を、リデルが見逃さなかった。


「今じゃ‼」


 リデルが地を蹴り、ハンマーを振りかぶって、スターサラマンダーの死角へと踏み込む。土を蹴り上げる足音と、風を切るハンマーの唸りが、同時に響いた。


「うおおおおおおッ‼」


 サンダーも反対側から、同時に拳を放った。地響きのような重みを纏った一撃が、空気そのものを震わせる。


「くらえ‼」


 二方向からの同時攻撃が、スターサラマンダーへと迫る。


「な……⁉ 両側から……⁉」


 スターサラマンダーは咄嗟に両腕を交差させ、防御の姿勢を取った。だが、リデルのハンマーとサンダーの拳、二つの衝撃を同時に受け止めきれるはずもなかった。骨がきしむような鈍い音が、体の内側から響く。


「がっ……‼」


 スターサラマンダーの体が、大きく地面を滑った。土煙が、後を追うように舞い上がる。


「くっ……。一対一なら、まだ何とかなるのに……。数が、多すぎる……‼」


 スターサラマンダーは片膝をつきながら、荒い息を吐いた。目の前には、まだ倒れきらないクライナー二体、そしてアレクシアとブリザードの二重防御、さらにリデルとサンダーの物理攻撃。四方から迫る圧力に、対応が、次第に追いつかなくなっていく。


「……っ! でも、まだ、これくらいで……‼」


 スターサラマンダーは、歯を食いしばりながら、再び炎の拳を構えた。両の拳から立ち上る炎が、いつもより一段、色濃く燃え上がる。


「フレアバースト‼」


 浄化の光が、山羊型と野犬型、二体のクライナーを同時に包み込んだ。二体はそれぞれ奇妙な叫び声を上げ、ピンク色のハートをまき散らしながら、黒い靄となって消えていった。だが、これまでのように、淡く光る結晶が残ることはなかった。


(この魔物には、夢見るドキドキハートが宿っていなかった……。当然か。石化された人間から奪ったものではなく、ただの魔物だったんだから)


 スターサラマンダーは荒い息を整えながら、正面のアレクシアたちへと向き直った。


「……あれ?」


 スターサラマンダーの動きが、急に止まった。


(何か……いつもと、違う……?)


 一瞬、頭の片隅に違和感がよぎった。だが、それを深く考える間もなく、目の前にはまだ倒すべき敵が控えている。


「……気のせい、か」


 スターサラマンダーは、その違和感を振り払うように、頭を振った。


「今度こそ、正面から決着をつけさせてもらうよ」


 拳に、新たな炎を纏わせる。だがその時、ストームがそっと、ブリザードへと視線を送った。


「今です」


 その一言に、ブリザードが、僅かに口の端を上げた。


「了解した」


 ブリザードは、懐から取り出した最後の一匹——小さな蜥蜴のような生き物へ、静かに手をかざした。


「出でよ、クライナー。世界を闇に染めろ‼」


 黒い光が、その生き物を包み込む。瞬く間に巨大化し、背に黒い翼を生やしたそれは、軋むような唸り声を上げながら、姿を変えていった。


『クライナー』


 三体目の声が、荒野に響いた。


「な……⁉ うっそぉ……まだ、出てくるの……‼」


 スターサラマンダーが、思わず声を上げた。


「もう、片付けたと、思ってたのに……‼」


 背後から迫る、新たな敵の気配。スターサラマンダーの意識が再び、そちらへと引き寄せられる。目の焦点が正面から背後へ、無意識のうちに逸れていく。

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