第八話 魔法少女
この章は、視点が主人公ではありません。魔法少女の視点です。少し読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いします。
——その夜、夢を見た。
崖の上から、一人の少女が街を見下ろしていた。
眼下には大きな街道が走り、人や馬車が行き交っている。その先には都市や村が点在し、三つの種族が、肩を並べて暮らしている。つい五年前まで争い続けていた彼らが、ようやく手を取り合えた、豊かで平和な世界だ。
(私はこれから……この世界を)
少女の目が曇った。
——風が吹いた。長い金髪が静かに揺れる。
「エレメント」
振り返ると、森の向こうから四人の少女が歩いてくる。みんな、エレメントと同じ魔法少女だ。
「ウンディーネ、サラマンダー、シルフ、ノーム……来てくれてありがとう。こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい」
「なーに言ってんの! 私たちは仲間でしょ? 仲間が困っていたら助けるなんて、当たり前のことじゃん」
赤みがかったピンク色の髪のスターサラマンダーが、ぐいとエレメントの肩を叩いた。体温がそのまま伝わってくるみたいだった。
「そうだよ。ずっとそうやってきたじゃない。また、みんなで乗り越えよう」
「エレメント一人で抱え込まないで。悩みを分かち合わせてください」
温かい言葉が、四方から降り注ぐ。エレメントの目頭がじわりと熱くなった。
「でも……、今回はいつもとは違うから。みんなこんなこと、やりたくないでしょう……」
「あーもうっ、エレメントの悪い癖ニャ。いつまでも水臭いこと言ってニャいで、さっさと変身してこの世界をぶっ壊すニャ!」
エレメントの肩に乗っていた妖精ねこニャンが、あっけらかんと言った。その言葉があまりにも直球過ぎて、魔法少女たちは思わず噴き出した。空気が少しだけ軽くなる。
「ほんと、ねこニャンの言う通り! みんないくよ‼」
全員が、ポケットから変身アイテムを取り出した。
『スターナイツ スピリットチェンジ!』
光が弾ける。五つの輝きが、崖の上に踊る。
「未来を夢見る希望の光! スターエレメント!」
金色の長い髪に、白とピンクのふわふわのドレスをまとったスターエレメントは、大きな緑色の目をしている。ほんわかした外見とは裏腹に、誰よりも意志が強く、誰よりもみんなの幸せを願い、常に前を向いて進み続ける。
「燃え上がる灼熱の炎! スターサラマンダー!」
赤みがかったピンク色の髪に、深紅のドレスをまとったスターサラマンダーは、炎属性の攻撃をするが、その攻撃力は五人の中で最も高い。見た目同様性格も熱血漢で、誰よりも仲間を大切にする。
「英知にゆらめく癒しの水! スターウンディーネ!」
水色の長い髪に、青いドレスをまとったスターウンディーネは、高い知性と深い思考力を兼ね備えている。スターナイツがピンチになったとき、窮地から脱する方法を考えて仲間たちを導くことが多い。また、優しい性格で周囲を癒している。
「勇気の翼で切り開く風! スターシルフ」
薄紫の髪に、白と紫色のドレスを着たスターシルフは、風を纏って攻撃ができるため、誰よりも素早く動くことができ、先制攻撃で敵を翻弄し混乱させる。率先して一人で敵陣に飛び込む勇気が、より一層俊敏さを引き立てる。
「芽生えた命を守護する大地! スターノーム!」
茶色の髪に、黄色いドレスをまとったスターノームは、幼い容姿からは想像もつかない鉄壁の守護神だ。その高い防御力で、敵の攻撃を一身に受け、仲間たちを守っている。性格は見た目通り子どものように純粋無垢で、仲間たちに可愛がられている。
かつて、彼女たちは「レインボーランドを守るため」に魔法少女になった。
——だが今この瞬間、彼女たちの使命は逆だった。
「シャイニングクリスタルラッシュ」
「フレアバースト」
「アクアブレス」
「フェザートルネード」
「アースウォール」
必殺技の閃光が、街を貫いた。
炎と水が濁流となって流れ込み、竜巻が大地を削りとる。逃げ惑う人々の姿が見えた瞬間、エレメントの手が止まった。
「立ち止まったらダメ! 私たちは絶対にあきらめない。そうでしょ、エレメント‼」
仲間の声が背中に届く。エレメントは目を閉じた。それからゆっくり開いた。
魔法少女になったあの日から、守りたいものは変わっていない。大切な人たちと、その未来だ。この世界がある限り、未来は永遠に奪われ続ける。
「ごめんね、みんな。私、もう迷わない」
声に震えはなかった。
「絶対に取り戻そう、——輝く未来を」
「今ニャ! みんなの力を合わせるニャ!」
五人は手をつなぎ、目を閉じる。背中から羽が生え、足が地面を離れた。空へ——。もっと高く、もっと遠く。
突如、巨大な虹が世界を覆った。
「闇夜を切り裂き、輝く一番星でみんなを守る——」
「スターナイツ・レインボー・フィナーレ」
魔法少女たちの力を合わせた必殺技で、世界が壊された。
***
目が覚めると、異世界の宿屋の天井があった。
(……夢、だったのか)
でも、夢にしてはあまりにも鮮明だった。あの少女たちの表情も、光の色も、エレメントの声も——全部、はっきりと覚えている。
それに、あの場所は——レインボーランドだった。




