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小説家志望、異世界に転生する ~僕の黒歴史キャラが異世界を救う~  作者: 赤いたぬき
第三章 魔法少女たちの正義と、僕の大切なもの
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第八十六話 抜け落ちた記憶と、ルティナの告白

 リデルたちに「魔法少女スターナイツ」のことを語りながら、ストームは、ふと違和感を覚えた。

 ブリザードは、かつて侵略したレインボーランドの記憶が、少し戻ってきたと言っていた。だがストーム自身には、いまだにその記憶が戻る気配がない。妖精たちが暮らし、お菓子の家が立ち並び、雲さえ飴でできていたという、あの世界のことを——いくら思い出そうとしても、何一つ浮かんでこない。

 それなのに、地球に来てから幾度となく戦ってきた、あの魔法少女たちのことだけは——一つの記憶も欠けることなく、鮮明に思い出せる。戦いの始まりの記憶は、ダークキングが、レインボーランドを侵略せよと命じたところから始まり、その後レインボーランドを侵略したときの記憶がすっぽり抜け落ちている。逃げ延びたねこニャンを追って地球に行ったところから、また記憶が復活し、夢見るドキドキハートを集めていたら、その度に魔法少女たちに邪魔をされたことは良く覚えている。


(これは一体、どういうことなのでしょう……)


 その違和感を、ストームは誰にともなく、そっと胸の内にしまい込もうとした。だが、ふと顔を上げると、リデル、アレクシア、ルティナの三人が、じっとこちらを見つめていることに気づく。


「……ストーム、何か気になることでもあるのか」


 アレクシアが、率直に尋ねた。

 ストームは少しの間、迷うように視線を落としたが、やがて小さく息を吐いた。


「……少し、いいですか」

「うん? どうした、改まって」


 リデルが、首を傾げる。


「四堂悠太の使う、あの魔法についてです。……これまでの戦いで目にしましたが、正体が分かりません。突如良く分からない人物が現れる……あれは、一体何なのですか?」

「ああ、あれですか」


 ルティナが、少し驚いたように瞬きしてから、答えた。


「シドーさんは、元いた世界で、十一作品の小説を書いていたそうです。……どれも、新人賞では落選してしまったようですが。その作品のタイトルを叫ぶと、呪文のように発動して、物語の主人公が姿を現す——そういう魔法だと、ご本人から聞きました。ただ、どういう仕組みでそんなことが起きるのかは、シドーさん自身にも分からないようで、いつも不思議そうにしています」

「物語から、キャラクターが現れる……」


 ストームは、その言葉を確かめるように、静かに繰り返した。


「まだ、お聞きしたいことがあります。……初めてブリザードと戦ったとき、彼が名乗るより先に、四堂悠太は彼の名を言い当てました。それだけでなく、私たちの組織の名も、ダークキング様のことも、既に知っていたようだとブリザードから聞きました。それは、どういうことなのでしょう」

「あぁ、それなら」


 答えたのは、アレクシアだった。


「シドーの元いた世界には、『魔法少女スターナイツ』という物語があるらしい。シドーはその物語が、大好きだったそうだ。……そこに、ブリザードも、ダークキングも、それから——ストーム、お前も、出てくるらしい」


 ストームは、それを聞いて動きを止めた。


「大丈夫か? えらく戸惑っておるようじゃが」


 リデルが、心配そうに顔を覗き込んだ。


「……すみません」


 しばらくして、ようやく絞り出すように、ストームが口を開いた。


「今の情報は、私が想定していた範囲を、軽く超えていました。手持ちのデータと照らし合わせても、うまく処理が追いつきません。……つまり、私たちは、その『魔法少女スターナイツ』という物語の中から出てきた、ということですか?」

「……おそらく、そうなんだと思う」


 アレクシアが、神妙な面持ちで頷いた。


「そう、ですか……」


 ストームは、目を伏せた。物語の中に存在していたという衝撃は、未だ上手く処理できないが、重要な手掛かりが得られた。


(私たちだけが、物語の中から飛び出してきた……。だとすれば、ダークキング様は今もまだ、あの物語の中にいらっしゃる、ということなのでしょうか)


 混乱を押し殺すように、ストームは静かに息を吐いた。目の前の三人は、その様子を黙って見守っていた。


「……あの、今の話を聞いていて、一つ気になったことがあります」


 ルティナが、口を開いた。


「シドーさんの無属性魔法には、発動条件が二つありました。一つは、一つの作品につき、一回しか召喚できないこと。もう一つは、戦う相手が『魔王軍』であること……。あの魔法少女たちにも、無属性魔法は効くのでしょうか」

「無属性魔法の条件……。ルティナ、詳しく聞かせてください」

「はい。以前、この世界の、ただの魔物を相手に、無属性魔法を試したことがあります。……でも、何も召喚できませんでした。シドーさんの無属性魔法が発動するのは、いつも、ストームたち三幹部と戦っているときだけでした。それで、条件の一つに『相手が魔王軍であること』があるのだろう、と結論付けたのです」


 ストームは、僅かに目を細めた。


「一つ、申し上げておきます。……ダークキング様は、ご自身のことを『魔王』と名乗られたことは、一度もありません。私たちも、自分たちを『魔王軍』だと認識したことはないのです。この世界の者が、私たちのことを魔王軍と呼んでいるのは知っていました。ですが、遠からず滅びる原住民にどう呼ばれようが、気にもならず、訂正しませんでした」

「……⁉」


 ルティナの表情が、僅かに強張った。


「ですので、その発動条件、少し違うのかもしれません。……対象は、魔王軍ではなく、私たちのような、異なる世界から来た者。……もっと言えば、『魔法少女スターナイツ』という物語の中から出てきた者、かもしれません」


 ルティナはしばらく、言葉を失っていた。


「……なるほど、道理で。突然現れ、強大な力を振るい、この世界を蹂躙するあなた方を見て、『魔王が、侵略を始めたのだ』と思い込んでいました。この世界で『魔王』とは、全ての魔物を統べ、魔族の頂点に立つ者を指す言葉です。三幹部の方々が、魔物をクライナーへと変貌させるのを見たときも、魔物を操る力を持つ魔王軍幹部……いえ、魔族の一員なのだろうと、勝手に思い込んでいました」


「私たちが、魔物をクライナーに変化させていたのには、理由があります」

 ストームが、続けた。

「元いた世界では、ボールやフライパンといった、生き物でないものにも、ダークエナジーを注げば、クライナーへと変化させることができました。ですがこの世界では、それができませんでした。……あらゆるものにダークエナジーを注いで、試行錯誤を重ねました。その結果、唯一魔物にだけは、変化が起きることが分かったのです。……理由は、今も分かっていません」

「そうでしたか……。一つだけ、言わせてください」


 ルティナが、静かに口を開いた。


「ブルーム公の孫娘は、クライナーが暴れて壊した建物の下敷きになって、亡くなりました。他にも大勢の方が命を落とし、大切なものを失いました。リューベックの街で、私はそういった人たちを、数えきれないほど見てきました。……そのことは、許すことができません。今も、これからも」


 ストームは、黙って聞いていた。


「ですが」


 ルティナは、ストームをまっすぐに見た。


「あなた方が助けてくださらなければ、リデルさんも、アレクシアさんも、シドーさんも……私も、今ここにいなかったかもしれません。……感謝してもしきれません」


 しばらく、沈黙が続いた。

 ストームは、何も言わなかった。ただ、静かに目を伏せた。謝罪の言葉も、言い訳も、今の自分には持ち合わせていない。ただ、この者が背負ってきたものの重さだけが、確かに伝わってきた。


「……ありがとうございます。話してくださって」


 それだけをようやく、絞り出すように言った。

 ルティナは、小さく頷いた。それから、気持ちを切り替えるように、静かに息を吐いた。


「……話が、戻りますが」

「はい」

「もし今のストームの推測が正しいなら、シドーさんの無属性魔法の対象は『魔王軍』ではなく、『異なる世界から来た者』か、あるいは『魔法少女スターナイツの中から出てきた者』。……だとすれば、あの魔法少女たちにも、無属性魔法は、効くことになります」

「今すぐ、それを確かめる余裕は、ありませんが」


 ストームが、そう付け加えた。


「……そういえばシドーさんは、あの二人と、今頃どうしているのでしょうか。随分息の合った連行だったので、心配です」


 ルティナが、ふと呟いた。


「ブリザードの言う『芸術』とやらと、サンダーの言う『手荒く』とやらが、同時に発動しておらねばよいがな……」


 リデルが、若干顔を青くしながらそう言った。


「……大丈夫、だと思います。……多分」

「その『多分』、さっきも聞いた気がするのじゃが」

「データ上、あの二人が四堂悠太を害する可能性は、限りなく低いと判断しています」

「おぉ、それなら安心じゃ」

「ただし、四堂悠太が今頃、氷漬けにされて『美しく飾られている』か、拳で叩き起こされ続けているかは、正直、五分五分だと思います」

「……安心する要素が、一つもなかったのじゃが」

「休息は、これくらいにしておきましょう。……体力が戻り次第、私たちも次の一手を、考えなければなりません」


 ストームはそう締めくくると、立ち上がった。

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