第八十三話 敵との連携が、証明した信頼
ブリザードとサンダーが、四堂悠太を連れて姿を消した後、その場にはスターシルフと、満身創痍の四人だけが残された。
「……全員纏めて、私一人で十分片づけられる」
スターシルフはそう言うと、薄紫の髪を風になびかせながら、静かに間合いを詰めてきた。
(やはり……こちらの世界に来ていましたか)
三幹部で手分けして調べた、あの破壊の痕。魔法による攻撃だとは分かっても、正体までは特定できずにいた。……ただその気配には、覚えがあった。かつて何度も相まみえた、あの魔法少女たちの技とよく似ていた。
だとすれば手掛かりは、もう一つある。この近くにある、風の精霊シルフの祠。元の世界のシルフとは、別の存在だと分かってはいても、名を同じくする以上、何かしらの繋がりがあるかもしれない。……そう考え、二人を誘ってここまで足を運んできた。
(まさかこれほど早く、この目で答え合わせをすることになるとは)
この魔法少女たちのことなら、よく知っている。ストームは、スターシルフの構えを注意深く見つめながら、これまでの記憶を辿った。
ストームたち三幹部は、ダークキングの命令のもと、レインボーランドを侵略した後、逃げ延びた妖精を追って、地球へと渡った。それ以来、『夢見るドキドキハートを集めよ』というダークキングの命令を遂行しようとするたび、彼女たちに幾度となく邪魔をされてきた。
初めて相対したときは、まだ拙く未熟な力だった。あの時はストーム一人で、造作もなく退けられる相手だった。変身アイテムも初期段階のもので、技の種類も限られていた。
(しかし今、目の前にいる彼女は違います)
あれから幾多の戦闘を重ね、幾度となく力を増していった、その終盤の姿まで——その全てを、ストームは見てきた。だからこそ、はっきりと分かる。今のスターシルフは、本来の物語であれば、終盤に差し掛かった頃の完成された強さを、既に備えている。
(サンダーやブリザード、私自身も、初対面ではこれほどの力量差を感じたことはありませんでした)
なぜ、今この状態の彼女たちが、ここにいるのか。その答えは、まだ出ない。だが、それを考えている余裕はない。
ストームは、僅かに拳を握り直した。
「な……⁉ まだ、来る、というのか……‼」
リデルが痛む体を無理やり奮い立たせるように、ハンマーを構え直した。だがその足取りは、明らかに覚束なかった。
「油断は禁物です」
ストームが、静かに三人の前に立った。
「先ほどまでのあなた方の戦いを、拝見していました。……単独では、太刀打ちできません。ですが」
「ですが……?」
「一つ、提案があります。……先日、あなた方から教わったことです」
ストームの声には、これまでにない確かな決意が滲んでいた。
(先日の、連携……。あの感覚を、もう一度)
「アレクシア。あなたにはまず、シルフの攻撃を、正面から受け止めていただきたい。……五秒で構いません」
「五秒、だと?」
「はい。あなたの防御力なら、可能なはずです。その五秒の間に、リデルが足元を崩します」
「我が……⁉」
「スターシルフが纏っている風は、防御と攻撃を兼ね備えたものです。あれの威力を削がないことには、こちらの攻撃は通りません。シルフは風を纏うことで、常に体勢を安定させています。……足場さえ崩せば安定を失い、風の威力が一瞬、落ちるはずです」
リデルは、ストームの言葉に目を見開いた。
「そしてその隙に、ルティナと私で、同時に風属性の攻撃をしかけます。……逆回転で」
「逆回転……?」
「シルフの纏う風は、常に一定の方向に、渦を巻いています。それに対して、逆向きの渦をぶつければ、互いの力が相殺されるはずです」
ルティナが少し考えるように、目を細めた。
「なるほど……。理論上は、可能です。ですがタイミングを、寸分違わず合わせる必要があります」
「はい。……以前私と戦ったときに、あなたが使った魔法です。覚えていませんか」
「私が……?」
「私の風属性攻撃に、まさか風魔法をぶつけてくるとは、完全に予想外でした。……ですが、あの発想は良かった。私はあのとき初めて、データにない敗北を経験しました」
「あのとき……」
「風の精霊シルフとの誓約に従う、あの十五階層の魔法。……あれは、大気を切り裂く攻撃であると同時に、巨大な渦を生む術式でもありました。あの日のデータを、私は今も、正確に記録しています」
ストームの言葉に、ルティナは驚いたように目を見張った。それから、思い出したように頷いた。
「……そうでしたね。あの魔法、そういう性質もありました」
「はい。あのときの威力を逆回転にして、二人同時に放てば、シルフの風を正面から相殺できる。……そう、判断しました」
「敵だったときの戦いが、今、味方として、生きているんですね」
「……そのようです。……信じて、いただけますか」
ストームの問いに、ルティナは僅かに微笑んだ。
「信じます。……あなたが、そう言うのなら」
三人の間に、一瞬の沈黙が流れた。だがそれは、迷いの沈黙ではなかった。
「……良いだろう」
アレクシアが剣を、力強く構え直した。
「私がまず、受け止める。……五秒だな」
「アレクシア……」
「案ずるな。……こういう役目は、慣れている」
アレクシアは、そう言うと笑った。
「……つまり我は、五秒耐えるアレクシアを信じて、思い切りぶん殴ればいいのじゃな?」
ルティナが、慌てたように口を挟んだ。
「リデルさん、誰を殴るつもりですか? スターシルフじゃないですよ。混乱しすぎて、アレクシアさんを殴ったりしないでくださいね。リデルさんが攻撃するのは、スターシルフの足元、地面です」
「うぅ……。難しい作戦を覚えるのは苦手じゃ。地面を殴ることは分かった。それで十分じゃ」
ストームは、僅かに眉を上げたが、それ以上は何も言わなかった。
「では……行きます」
ストームの合図と共に、四人はそれぞれの持ち場へと動き出した。
***
スターシルフの纏う風が、一段と勢いを増した。
「フェザートルネード‼」
放たれた風の刃が、アレクシアへと真っ直ぐに迫る。
「絶対防御‼」
アレクシアはその場に踏み留まり、光の壁を展開した。風の刃が次々と、その壁に叩きつけられる。
「くっ……」
一撃、二撃と、絶対防御の壁に亀裂が走っていく。だがアレクシアは退かなかった。
(一、二……)
ストームは、胸の内で秒数を数えていた。壁の亀裂は、既に深さを増している。それでもアレクシアは、歯を食いしばったまま、一歩も動かない。その背後で、リデルはハンマーを大きく振りかぶった。
(三、四……)
風の刃が絶え間なく叩きつけ、壁の軋む音が大きくなっていく。それでもアレクシアの足は、微塵も下がらなかった。リデルは息を止め、振りかぶった姿勢のまま、自身の持つ最大限の力を、ハンマーを握る両手に込めた。
(五……‼)
「今です‼」
ストームの声が響いた瞬間、リデルは振りかぶっていたハンマーを、スターシルフの足元めがけて全力で振り下ろした。
「うおおおおおおッ‼」
大地が大きく、抉れた。衝撃が地面を伝って、スターシルフの足場を根底から揺るがす。
風を纏う体が、一瞬、大きく傾いた。
「今しかありません‼ ルティナ‼」
「はい……‼」
ルティナが杖を掲げ、ストームは両腕を構えた。
「風の精霊との誓約に従い、蒼穹より来たれ、全てを切り裂く天空の神風カムイ。大気は牙を剥き、記憶の残響に在りしテンペストブレイドは、不可視の斬撃となる。蒼天の疾風に導かれ、久遠の虚空にて運命の裁定を待て。シルバーウィンダムは静寂を。エンペラーイーグルは断罪を。終末ヴァルハラに帰結を。真空のレクイエムを聴きながら塵となれ」
ルティナが、詠唱を始める。それに合わせてストームも、拳を宙に構えた。
「逆位相、展開——」
二つの風が互いに、逆向きの渦を巻きながら放たれた。スターシルフの纏っていた風の防御と、真正面からぶつかり合う。
「な……っ‼」
激しい衝突音とともに、大気が大きく震えた。二つの渦が互いを削り合うように、相殺されていく。
やがて風が、静かに凪いだ。
「……へぇ、やるじゃない」
スターシルフは体勢を崩したまま、片膝を地面についていた。薄紫の髪が乱れたまま、風に揺れている。
「連携か。……いいね、そういうの。私たちと似てる」
「もう、動けないでしょう」
ストームが、静かにそう告げた。だがスターシルフは、僅かに笑った。
「まだ動けるけど……今の力で、四人纏めて倒せるかって言われたら、正直分からない」
「……私たちを逃がすと?」
「無駄に消耗するのは性に合わない。……それに」
スターシルフはそこで一瞬視線を、四堂悠太が消えた方角へと向けた。
「油断してた。四堂君がいないなら、なおさら勝ち目なんてないと思ってたのに……」
その言葉を残すと、スターシルフの姿は風とともに、掻き消えるように消えていった。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。ブクマ登録と評価とリアクションを頂き、とても励みになります。もしスピンオフの「転生したらまた悪役令嬢でした」の方も、読んでくださっている方がいらっしゃれば、重ねてお礼申し上げます。
物語が、少し新しい展開になってきました。頑張って書いていきますので、温かく見守っていただけると嬉しいです。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。




