第八十二話 三幹部の息の合った連行——それでも、味方
「シドーさん、しっかり……‼」
ルティナが、傷ついた体を引きずりながら、それでも魔法を放ち続けていた。だがその威力は、次第に弱まっていく。魔力の消耗が、限界に近づいていた。
「リデル、下がれ‼」
アレクシアが、剣を構え直しながらリデルを庇う。だがその足取りも、既に覚束なかった。
「下がっておる場合ではない! サンダーよりも——三幹部の誰よりも……この者たちは、遥かに強いぞ」
三人はいずれも、満身創痍だった。魔法少女たちの攻撃は、これまで戦ってきたどの相手よりも、圧倒的な力を持っていた。
「じゃが……もう……限界、じゃな……」
リデルが片膝をつきながら、それでもハンマーを構え直そうとした、その時だった。
スターサラマンダーが、とどめとばかりに拳を振りかぶる。
(終わる……。ここで、全部——)
誰もがそう覚悟した、次の瞬間だった。
「これ以上は、させん」
地を割るような重低音の声が、割り込んだ。
次の瞬間、燃え盛る拳の正面に、巨大な影が立ちはだかっていた。轟音と共に炎がその身に叩きつけられ、爆風が渦を巻く。土煙が晴れた先には、両腕を交差させたまま、一歩も動いていないサンダーの姿があった。
「なっ……‼」
「サンダー……⁉ なぜ、ここに……」
「この間の借りを、少し返しに来ただけよ」
サンダーはそう言うと、リデルを庇うように両腕を広げた。
その言葉と同時に、冷気を纏った風が吹き抜けたかと思うと、アレクシアの前に、音もなく降り立つ影があった。続いて、ルティナの傍らの空間が僅かに歪み、もう一つの影がふわりと着地する。
「壊れかけたものを、無粋に叩き壊すとは……。美しくない話だ」
ブリザードは氷を纏った拳を静かに構えながら、スターウンディーネを見据えた。
「データ上、この戦況は看過できません。……四堂悠太が立ち直るかどうかは、この戦局にかかっています。これ以上彼の心の支えが崩壊しては、元も子もありませんので」
ストームは抑揚のない声でそう告げると、水晶玉をしまい、両手に風を纏わせた。
「な、なぜじゃ⁉ なぜ我らを助ける」
リデルが、驚愕の声を上げた。
「大した理由はありません」
ストームが、ルティナを庇いながら告げた。
「ブリザード、サンダー、目的を忘れないでくださいね。四堂悠太は、ダークキング様のいる世界に繋がる、鍵です」
「鍵じゃと?」
「そうです……別に、貴女方を助けに来たわけではありません」
「相変わらず、言い方がきついのぅ……じゃが助かった、礼を言う」
リデルが、疲れたように呟いた。
その光景を見て、スターシルフが静かに口を開いた。
「……全員纏めて、私一人で十分片づけられる。皆は、下がって」
その一言を聞いて、スターエレメントたちは視線を交わした。そして、何も言わないまま光の中へと、姿を消していった。最後までねこニャンは、四堂悠太の方を見つめていた。何かを言いたげに、口を小さく開きかけて——結局、何も言わないまま、その姿は光の中に消えていった。
「エレメント……‼」
四堂悠太が思わず、声を上げる。だがその姿は、もうどこにもなかった。
ストームは放心したままの四堂悠太を、じっと見つめていた。
「スターシルフ一人になるとは、好都合です。……四堂悠太が戦えない状態で、五人のスターナイツを同時に相手取るのは、勝率の観点から見て、極めて非効率だと判断していました。急遽、作戦を変更します。ブリザード、サンダー、四堂悠太の身の安全は、あなた方に任せます。……時間はかかるかもしれませんが、彼を立て直すこともできるはずです。私にはできない仕事ですので、そちらも任せます」
「悪くない役目だね」
ブリザードが、目を細めた。
「壊れかけた心を、美しく立て直す……。これも一つの芸術と言えよう」
「わしに任せろ。……多少、手荒くはなるがな」
サンダーが、にやりと笑った。
ブリザードが、四堂悠太の腕を乱暴に掴んだ。
「な……、離せ……‼」
「今のお前は、使い物にならない。……一度、退避する」
サンダーも、四堂悠太の反対側の腕を掴むと、有無を言わせぬ様子で告げた。
「……なんというか、随分と息の合った連行だな」
アレクシアが、サンダーとブリザードに連れ去られていく四堂悠太を見て、思わずそう呟いた。
「ついこの間まで敵だったとは思えぬ手際じゃな……。あれではまるで、悪い先輩に絡まれておる後輩のようじゃ」
「今は、味方です。……多分」
ルティナの「多分」に、二人は揃って乾いた笑いを漏らした。
「ストーム、リデルたちを頼む」
「分かっています。この場は私が何とかします。……先に行ってください」
その言葉と同時に、ブリザードとサンダーの体が、黒い靄に包まれて消えた。四堂悠太の視界が、暗転する。
「待って……、エレメント……‼」
四堂悠太の叫びは誰にも届かないまま、闇の中へと吸い込まれていった。




