第七十話 姿を消した城主一族と、串焼き肉三十本
明朝、領主の屋敷を再び訪ねると、今度はきちんと出迎えてもらえた。恰幅の良い初老の男性が、長老の紹介状に目を通しながら深く頷いた。
「長老殿のご紹介とあらば、無下にはできませんな。……して、お聞きになりたいのは、北の城のことですかな?」
「ご存知でしたか」
ルティナが問うと、領主は少し声を落とした。
「かつては、我が街とも交流のあった、由緒正しい白亜の城でした。しかし、五年ほど前……突如として城主一族の消息が途絶え、以来、あの城は不気味な黒に染まったまま、誰も近寄らぬ場所となっております」
「消息が途絶えた……。それは城主一族全員が、ということですか?」
四堂悠太は、思わず尋ねた。
「えぇ。使用人も含め、城にいた者は皆、忽然と姿を消したと聞いております。もっとも、これは五年も前のことゆえ、真偽のほどは定かではありませんが……」
領主の話を聞きながら、四堂悠太の胸に重たいものが沈んでいった。
(姿を消した、じゃなくて、多分……石にされたんだ)
この世界に来てから、何度も見てきた光景が脳裏をよぎる。灰色の石と化した人々。時間が止まったままの、穏やかな表情。
(でも、その人たちを助ける方法が、今の僕たちにはない……)
夢見るドキドキハートは、倒したクライナーからしか手に入らない。もし本当に、あの城の住人たちが石化されているのなら、その夢見るドキドキハートは、既にどこかへ持ち去られてしまっているはずだ。
(一体、どこに……)
もやもやとした不安を抱えたまま、四堂悠太たちは領主の屋敷を辞した。
***
街を出て、北へと続く街道を歩き始めて、まださほど経っていなかった。城壁がまだ背後に見える距離——街の喧騒も、遠くかすかに届くほどの場所だった。
「——おや。噂をすれば、というやつか」
聞き覚えのある、低く重い声が響いた。
「サンダー⁉」
四堂悠太は、思わず声を上げた。道の先、大きな岩の上に、筋骨隆々の大男が腕を組んで立っていた。
「わしを探しに来たのか? いや、そう都合よくはいかんな。わしは、この街を少々見て回っておっただけよ。存外、活気のある街だったぞ。串焼き肉を売る店があってな、三十本ほど平らげてやった」
「串焼き肉……⁉」
この状況で、そんな情報を挟んでくるとは思わなかった。四堂悠太は、拍子抜けした声を上げた。
「この街を、見て回っていた……⁉」
四堂悠太の背筋に、冷たいものが走った。
(まさか、この街の人たちの夢見るドキドキハートを、奪おうとしているんじゃ……⁉)
これまで戦ってきた三幹部は皆、何の前触れもなく突然、街や村を襲ってきた。サンダーが単なる食べ歩きのために、この街を歩いていたなどとは、とても思えなかった。
「サンダー……。まさかこの街の人たちに、何かするつもりじゃ……」
四堂悠太は、思わず身構えた。
サンダーはその言葉に、一瞬、きょとんとした顔をした。
「安心せい。今日のところは、ただの見物だ。……まぁ串焼き肉は、目的の半分くらいを占めておったがな」
軽く笑い飛ばすようなサンダーの態度に、四堂悠太は拍子抜けしつつも、完全には警戒を解けなかった。
(残りの半分の目的は……。結局、教えてはくれないんだな)
「それより獣人の王女よ。あれから鍛えているか? わしとの再戦を、望んでおったのではないか」
リデルの表情が、大きく動いた。
「望んでおる……いや、望んでいた。ずっと、そう思うておった」
思うより先に、ハンマーを構えていた。
「シドー、少し離れておれ。……これは我にとって久しぶりの、心の底から楽しい戦いになりそうじゃ」
リデルはそう言って、にっと笑った。それからふと真剣な顔になり、サンダーを見据えた。
「サンダーよ、一つ、約束してほしいことがあるのじゃ」
「ほう? この期に及んで、何だ」
「もしこの戦い、我が勝ったなら……ダークキングの居場所を、教えてほしい」
サンダーは、僅かに目を見開いた後、愉快そうに笑った。
「面白い条件だ。良かろう、約束しよう。武人に二言はない」
サンダーの返答に、リデルは満足そうに頷いた。
「行くぞ、サンダー‼」
「はっはっは、良い顔だ‼ 来い‼」
リデルが地を蹴った。ハンマーの一撃を、サンダーが片腕で受け止める。轟音と共に、大地が抉れた。




