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小説家志望、異世界に転生する ~僕の黒歴史キャラが異世界を救う~  作者: 赤いたぬき
第二章 隠していた弱さが、恋になるまで
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第六十九話 ワラビーが落ちた夜、命の重さを知る

 宿屋でお茶を飲んでいたリデルは、鞄の中に入れていた魔道具が光ったことに気づいた。焦って席を立った拍子に、棚に飾っておいたワラビーの置物が床に落ちる。嫌な予感を感じつつ、ヴィクター隊長からの餞別である魔道具を取り出すと、それは確かに、初めて光を放っていた。

 同じ部屋に泊まっているアレクシアは、食後しばらくして既に部屋を出ていた。リデルは急いで隣の四堂悠太の部屋の戸を叩いたが、何度ノックしても、声をかけても返事がない。開けてみると、四堂悠太の姿もそこにはなかった。

 動転したままノックをするのも忘れて、リデルはさらにその隣のルティナの部屋に駆け込んだ。


「ルティナ、大変じゃ‼ ヴィクターがくれた魔道具が光っておる」


 リデルに言われ、自分の魔道具を確かめたルティナも、思わず腰を抜かしそうになった。


「これは……アレクシアさんかシドーさん、もしくは両方が危険な目に遭っているということです‼」

「今確認したが、二人とも部屋におらぬ。すぐ助けに行くぞ、ルティナ」

「えぇ。でも……」


 ルティナは手の中で光っている魔道具を見た。手のひらにすっぽり収まるサイズの魔道具から放たれる光は、遠くまでは見えない。窓の外を見てみたが、真っ暗な中に光はどこにも見えなかった。


「案ずるな。我の目なら、どんなに遠くても見える。着いてくるのじゃ‼」


***


「あそこじゃ‼」


 闇の中、リデルの声が響いた。夜目の利く彼女には、遠く離れた場所からでも、その微かな光が、はっきりと見えていた。

 二人が駆けつけたとき、目に飛び込んできたのは、言葉を失うほどの光景だった。血だまりの中、四堂悠太がぴくりとも動かずに倒れている。その顔は、月明かりの下でも分かるほど、血の気を失っていた。すぐ傍らにはアレクシアが、自らの傷も構わず、四堂悠太に寄り添うようにして膝をついている。


「シドー、アレクシア‼」

「私には、何も見えませんでしたが……リデルさんが、急に走り出して」

「夜は、我の得意分野じゃ‼ ……それより、この惨状は⁉」

「シドー……⁉」


 リデルの声が、掠れた。反射的に駆け寄ろうとした足が、一瞬、竦んで止まる。


「息は……⁉ 息はしておるのか……⁉」

「分かりません、でも——‼」


 ルティナも、いつもの落ち着きをかなぐり捨てて、震える声で叫んだ。二人にとって、四堂悠太が動かなくなる姿を見るのは、初めてのことだった。これまで、幾多の危機を乗り越えてきた。でも目の前の光景は、これまでのどの戦いとも違う、生々しい死の気配を纏っていた。


「大変です、すぐに治癒魔法を……‼」


 ルティナが、震える手で杖をかざした。焦りのせいか、いつもよりも詠唱が長い。まばゆい光が、四堂悠太とアレクシアを、同時に包み込む。傷口が、みるみるうちに塞がっていった。


「……あ」


 四堂悠太が、小さく声を漏らして、目を開けた。


「シドー……‼ 良かった、目を覚ましてくれた……‼」


 アレクシアが思わず、四堂悠太の体を抱きしめた。


「うっ……アレクシア、痛……」

「あ……す、すまん」


 慌てて、アレクシアが体を離す。だがその頬は、うっすらと赤く染まっていた。


「無事で……本当に、良かった」


 その声には、いつもの凛とした調子とは違う、隠しきれない安堵と、もう一つ別の何かが滲んでいた。


「アレクシアこそ、大丈夫? 結構深く刺されてたと思うけど……」

「あぁ、ルティナのお陰で、もうすっかり治った。……それより」


 アレクシアは少しの間、言葉を探すように黙り込んだ。


「シドー、ありがとう。お前が、諦めるなと言ってくれたお陰で……私は、また立ち上がることができた」

「……うん」


 四堂悠太は少し照れくさくなって、頭を掻いた。


「アレクシアが、自分の手で、ちゃんと敵を倒せたんだね。……あの時のことも、これで少しは、乗り越えられたんじゃないかな」


 アレクシアは、しばらくの間、四堂悠太を見つめていた。その目には、これまで見たことのない、柔らかな光が宿っていた。


(ノアが守ってくれた命を、今度は、私が守る番だと思っていた。……でも)


 脇腹の傷はもう塞がっていたが、その場所に確かな熱が、まだ残っているような気がした。


(この命は、あいつも諦めなかった命だ。……私一人だけの、覚悟ではないのかもしれない)


 リデルは少し離れた場所で、まだ胸を押さえていた。


「……本当に、肝が冷えたぞ。臆病なワラビーが、無茶をしおって……」


 いつもの快活さが、すっかり鳴りを潜めていた。


「シドーが、あのまま動かなくなったらと思うと……我は、我は……」


 言葉を、うまく続けられないようだった。ルティナも、いつになく静かな声で続けた。


「私も、治癒魔法をかけながら、正直、生きた心地がしませんでした。……間に合って、本当に良かったです」


 その言葉には、いつもの飄々とした調子はなく、心の底からの安堵だけがあった。


「……この世界に、死者を呼び戻す魔法は、存在しません」


 ルティナは、静かに、そう付け加えた。


「治癒魔法は、傷を治すことしかできない。命の灯が消えてしまえば、私にも、どうすることもできないのです。……ですから、シドーさん。どうか、あまり無茶をなさらないでください」


 その声には、いつもの穏やかな微笑みの奥に、確かな重みが込められていた。四堂悠太は二人の様子を見て、改めて、自分がどれほど危険な状態だったのかを実感した。


「アレクシアさんも、大丈夫ですか?」


 ルティナに声をかけられて、アレクシアは、はっと我に返った。


「あ……あぁ、大丈夫だ。何でもない」


 そう答えながらも、アレクシアの視線は、無意識のうちに、四堂悠太の横顔へと向いていた。その胸の奥で、これまで感じたことのない、不思議な鼓動が、静かに響いていた。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

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物語もいよいよ動き始めてきましたので、この先の展開も、ぜひ見届けていただけたら嬉しいです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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