第四十五話 ヴィンラント連合の魔道部隊到着
三つ目の一団が街に到着したのは、その日の夕刻のことだった。
ヴィンラント連合の紋章を掲げた一行が、静かに街道を進んでくる。先頭にいたのは、エルフにしては珍しく、若々しい顔立ちの魔法使いだった。
「ヴィンラント連合より参りました。長老様の使いで、魔導部隊をお連れしました」
その言葉と共に、後方に控えていた十人ほどの魔法使いたちが、一斉に一礼した。誰もが、静かだが、只者ではない気配を纏っている。
「十人、全員が十階層以上の魔法を扱えます。長老様が、長い時間をかけて選び抜いた精鋭です」
(十階層以上って……確か、魔法の熟練度でいったら、かなり上位のはず……)
四堂悠太は、以前教えてもらった魔法の階層制度を思い出しながら、感心して部隊を見渡した。
「長老様は、本来ならご自身でお越しになりたいと仰っていました。ですが、もうお年ゆえ、旅は難しく……。代わりに、この者たちを、リューベックの守りとして遣わされました」
部隊の代表は、そう言った後、ルティナの方へ向き直った。
「それと——ルティナ様に、長老様から言伝を預かっております」
「私に、ですか?」
ルティナが、少し驚いたように目を瞬かせた。
「はい。『いつでもエルフの里に帰っておいで』——長老様は、そう仰っていました」
その言葉を聞いた瞬間、ルティナの表情が、ほんの一瞬だけ揺れた。いつもの飄々とした笑みの下に、何か別のものが覗いたような気がした。
「近いうちに絶対に行きます‼」
ルティナよりも先に、四堂悠太が声を上げていた。
しん、と一瞬、その場が静まり返った。全員の視線が、自分に集まる。
「……あの、シドーさん? 何故シドーさんが答えるんですか」
ルティナが、呆れたような、それでいてどこか可笑しそうな顔で、四堂悠太を見た。
「あ……、いや、その……」
慌てて言葉を探した。
「前に、ルティナが言ってたじゃないか。長老様は、この世界から失われた魔法のことも、知ってるって。あれからずっと、いつか絶対に聞きに行きたいって思ってたんだ……。だから、つい」
ルティナは、しばらく四堂悠太の顔を見つめていたが、やがて、小さく吹き出した。
「ふふ、シドーさんらしいですね。……分かりました。魔王を倒したら、皆さんで一緒にお伺いしましょうか」
「うん、絶対行こう‼」
(あれ……でも、これって「この戦いに勝ったら、絶対に○○しよう」っていう、あの有名な死亡フラグなんじゃ……)
背筋が、すっと冷えた。
(ルティナ、もしかして今、全滅フラグ立てちゃった……? いや待て、言い出したのは僕だ。フラグを立てたのも、僕だ……。元ワナビとして、こんなベタなフラグ、絶対に回避してみせる‼)
四堂悠太は、謎の使命感に燃えながら、一人もやもやしていた。
二人のやり取りを見ていた魔導部隊の代表は、少しだけ目を細めて、微笑んでいた。
「では、その言葉、長老様にお伝えしておきます」
そう言って、深く一礼した。
これで、三国からの支援が、全て揃ったことになる。サランセルゴの精鋭騎士団、アルブリー王直々の側近、そしてヴィンラント連合の魔導部隊。かつて世界の覇権を争っていたかもしれない三国が、今はこうして、同じ街の未来のために力を貸してくれている。
(すごいことになってきたな……)
賑やかさを増していく街の広場を眺めながら、四堂悠太はふと足を止めた。
(そういえば……この人たち、五年前までは、世界の覇権を巡って争っていたんだよな……)
そう考えると、目の前の光景が、急に不思議なものに見えてきた。かつて敵対していたかもしれない者たちが、今はこうして、同じ街の未来のために集まっている。
そんな感慨に浸っていると、遠くの方から、ルティナとアルブリー王の話し声が、風に乗って聞こえてきた。
「王様、今夜は屋敷にお泊まりください。この街の葡萄酒、王様のお口にも合うと思いますので」
「ほう、それは楽しみだ。実はこの街に来るたび、その酒を楽しみにしておってな」
アルブリー王は、そう言って、機嫌良さそうに笑った。
(国王様と、騎士団長と、エルフの精鋭部隊と……いや、待って。これ、僕も参加する流れだよね……? 場違いすぎて、胃に穴が空きそうなんだけど……)
その夜、屋敷では、思いがけない組み合わせの飲み会が始まろうとしていた。




