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第四十四話 アルブリー王と、虎狼の用心棒

 騎士団の到着から、そう間を置かずに、今度はもう一つの一団が街にやってきた。


「アルブリー王が、直々にお越しになられました‼」


 街の役人が、慌てた様子で走ってくる。


「え、王様が直接⁉」


 四堂悠太が驚いていると、街道の向こうから、堂々とした一行が近づいてくるのが見えた。先頭を歩くのは、リデルとは違い、一目でライオンだと分かる金色の立派な鬣、耳と尻尾を持つ、威厳のある体格の獣人の男性だった。金糸で縁取られた豪奢な外套を纏っているが、その歩き方には、王というより歴戦の武人のような力強さがある。


「ルティナ殿とリデルが、魔王討伐の旅に出ると聞いてな。これは激励に来ぬわけにはいくまいと思ったのだ」


 アルブリー王は、豪快に笑いながらそう言った。よく通る低い声が、街の広場に響く。


「王様が、わざわざ……」


 ルティナが、恐縮したように頭を下げた。


「かしこまるな、ルティナ殿。儂とお主の仲であろう」


 アルブリー王は、そう言ってルティナの肩を軽く叩いた。それから、視線をゆっくりと巡らせ、リデルの姿を捉えた瞬間——ほんの一瞬だけ、その表情が動いた。

 豪快な笑みの奥に、何か別のものが、影のように差し込んだ。四堂悠太には、それが何なのか分からなかった。ただ、王の目が、リデルを見つめる時間が、他の誰を見る時よりも、ほんの少しだけ長いような気がした。


「リデルも、息災そうで何よりだ」

「はい! アルブリー王も、お元気そうで安心いたしました」


 リデルは、いつも通りの明るい笑顔で、そう答えた。

 その瞬間、王の目が、また一瞬だけ、細くなった。


(な、なんだろう……今の顔……)


 四堂悠太は、そのわずかな変化に気づいたものの、うまく言葉にできなかった。

 当のリデルは、何も気づいていない様子で、王に元気よく話しかけている。


「あ、あのっ、父上に一つ頼み事があるのですが……、よろしいでしょうか?」

「何だ? 申してみよ、リデル」

「は……。以前より収集しておりました『まるで猫』シリーズの最後の一匹、斑月猫がようやく手に入りました。出立前にお渡しいたしますので、我が部屋のコレクションに加え、飾って頂きたいのです!」

「う、うむ……『まるで猫』の斑月猫な。分かった。必ず飾っておこう。……しかし、そなたの部屋は、ちとコレクションとやらが溢れてきて、足の踏み場もなくなってきておる。何か捨てて良いものは……」

「一つもありません‼ 絶対に捨てないでください。いくら父上とて、我のコレクションを一つでも捨てたが最後、怒りで自分が抑えられなくなる自信しかございません」

「あ、あい分かった……」


 リデルの恐ろしい気配に圧倒され、アルブリー王は、それ以上言えずにただ頷くだけだった。


(一国の王様が、娘の前だと、ただの気弱なお父さんになるんだな……。うちの実家と、そんなに変わらないかも)


「まぁ……ともかくも、息災で何よりだ」


 アルブリー王は、それだけ言うと、後ろに控えていた二人の獣人に目をやった。


「紹介しよう。この者たちは、儂の側近の用心棒だ。世界を救い隊の、ヴィクター隊長に匹敵する強さを持つ。お主らが旅立った後、この街の守りに使ってくれ」


 一人は、虎の耳を持つ、寡黙そうな男だった。腕を組んだまま、じっと周囲を観察するような目をしている。


「……ガルダ、と申します。以後、お見知りおきを」


 短く、それだけ言って、軽く一礼した。

 もう一人は、狼の耳と尻尾を持つ、人懐っこそうな青年だった。


「よろしくお願いします! いやー、リューベックって聞いてたより賑やかな街ですね! 俺、ヘンリルって言います。よろしく!」


 早口でまくしたてるように、四堂悠太に握手を求めてきた。


「あ、はい、よろしくお願いします……」


(この二人、ヴィクターさんと同じくらい強いって話だけど……本当かな)


 四堂悠太が、そんなことを考えながら握手を返していると、ガルダと呼ばれた虎型の男が、ちらりとルティナとアレクシアの方を一瞥した。値踏みするような、静かな視線だった。


「……ほう」


 小さく、それだけ呟く。それ以上は何も言わなかったが、その一言だけで、値踏みは終わったようだった。

 ガルダの視線が、ちらりと四堂悠太の方にも向いた。


(ぼ、僕も値踏みされるのか……⁉)


 身構えた四堂悠太だったが、ガルダは特に何も言わず、すぐに視線を逸らした。


(……無関心すぎるのも、それはそれで地味に傷つくな……)


「ガルダの旦那、また観察癖出てますよ」


 ヘンリルが、笑いながらガルダの肩を小突く。


「観察ではない。習性だ」

「一緒じゃないっすか、それ」


 軽口を叩き合う二人を見て、四堂悠太は、ほんの少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。強面のガルダと、人懐っこいヘンリル。対照的な二人だが、息の合ったやりとりから、長年の付き合いの気安さが伝わってくる。


(この人たちがいてくれれば、リューベックも安心かもしれないな……)

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