第四十三話 サランセルゴ共和国騎士団長と、精鋭部隊到着
ルティナから三年前の話を聞かされてから、数日が経った。
四堂悠太は、あの日聞いた話を、まだうまく消化しきれずにいた。ルティナがこの街の本当の領主だったこと。ブルーム公が影武者だったこと。そして、あの立派な髭のおじいさんが、実は行き場を失った元ホームレスだったこと。
(すごい話を聞いてしまった気がする……。ルティナに口留めされるまでもなく、これ、絶対誰かに言っちゃいけないやつだよな)
そんなことを考えながら、なんとなく落ち着かない気分で、街の広場をぶらぶらしていた。すると、街の門の方が、やけに騒がしいことに気づいた。
「何だろう、あれ」
様子を見に行くと、見覚えのある紋章を掲げた一団が、街に入ってくるところだった。整然と隊列を組んだ騎士たちが、街道をまっすぐに進んでくる。
「あれは……サランセルゴの騎士団⁉」
先頭に立つ、体格の良い壮年の男性を見て、四堂悠太は思わず声を上げた。以前、アレクシアが一時帰還した際に会ったという、サランセルゴ共和国の騎士団長だ。
「団長‼」
アレクシアが、四堂悠太より一足先に駆け寄っていく。その足取りに、迷いは一切なかった。
「久しいな、アレクシア」
騎士団長は、そう言ってアレクシアを見つめた。それから、少し驚いたように目を細めた。
「アレクシア、覚えているか。お前が見習いだった頃、才はあっても、全てを投げ打つ覚悟が足りないと言ったことがあった。正直、あの頃のお前を見ていて、俺はずっと気を揉んでいた」
騎士団長は、そこで一度言葉を切り、遠くを見るような目をした。
「だから史上最年少で騎士団長に指名したときも、俺は副団長に退いて、隣でお前の成長を見守るつもりだったのだ。それだけ、お前には期待していた」
「そうだったのですか……」
「なのに、たった半年で団長職を辞め、世界を救いに行くと言い出すのだから、驚くなという方が無理な話だ。あれほど立派な騎士になりたいと言っていたお前が、いきなり何を考えているのかとな。……だが」
騎士団長は、腕を組んだまま、アレクシアを頭からつま先まで、まじまじと眺め回した。
「見ない間に、良い顔つきになったものだ。以前会ったときのお前は、正直、危なっかしくて見ていられなかった。何かに追い立てられているような、そんな目をしていた。……今は違う。落ち着いている」
「……色々なことがありました。全ては、団長やかつての仲間たち、そして今の仲間のお陰です」
アレクシアは、そう言って笑った。でも、その笑顔には、以前にはなかった落ち着きがあった。まるで、深い水の底に、静かに錘を沈めたような。
「団長、それより——お約束の件、感謝します」
「うむ。約束通り、精鋭部隊を連れてきた。この街の守りに使ってくれ」
騎士団長は、後方に整列した騎士たちを、大きく手で示した。鎧を纏った騎士たちが、一斉に姿勢を正す。
「共和政になって、まだ日は浅い。国内も落ち着いたとは言い難いが……サランセルゴとして、最前線の街を見捨てるつもりはない。これは我々貴族と民、双方の総意だ」
「ありがとうございます、団長。心強いです」
(アレクシア、団長さんにも一目で分かるくらい、変わったんだな……)
四堂悠太は、そのやりとりを少し離れたところから眺めながら、そんなことを思った。以前、賭博場でアレクシアが見せていた、あの張り詰めた横顔を思い出す。あれは、危なっかしさなんかじゃなかった。捨て身の覚悟を、静かに積み重ねていく時間だったのだ。
そんなことを考えていると、騎士団長が、ふとこちらに視線を向けた。
「そちらが、噂の——」
(噂の……何だろう。まさか「魔王を倒す運命の勇者」とか、そういう大層な呼ばれ方をしてるんじゃ……)
「あ、四堂悠太です! よろしくお願いします!」
変に身構えていた分、名乗るタイミングが食い気味になってしまった。
四堂悠太は、慌てて頭を下げた。
「アレクシアから話は聞いている。世界を救う旅に出るそうだな」
「はい、まあ、そういうことに……なりました」
「良い顔をしている」
騎士団長は、短くそう言うと、それ以上は何も言わずに、部下たちの方へ向き直った。
(良い顔って言われても……アレクシアの時とは、ちょっとニュアンス違う気がするな……)
そんなことを思いながら、苦笑した。
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