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第三十七話 不知火徹の置き土産

 そんなことを考える暇もなく、四堂悠太は次の指示を叫んだ。


「リミッター解除、カノン部出力、百二十パーセントまで引き上げ! ……いや待って、百二十はさすがにオーバーヒートの危険が……百五でいい、百五に抑えて!」

「さっき自分で百二十って言ったじゃねぇか……⁉」

「言い間違えた、いいから早く!」


 不知火徹は半ば呆れながらも、忠実に指示をこなしていく。灯台内部で轟音を立てて、水が急速に蒸気へと変換されていくのが分かった。


「熱源、臨界近し……」

「創造主、いつでもいけるぜ‼ 合図一つで撃ち込んでやる!」

「……今だ、灯台リンク、最大出力——蒸気よ、刃となれ‼」


 放たれた高圧の蒸気が、白い奔流となって湖面を割り、黒い露をまとったクライナーの体を貫いた。クライナーは奇妙な叫び声をあげ、周囲にピンク色のハートをまき散らしながら消えていった。


「よし、ダークエナジー反応、消失。……反応消失地点に、光点反応あり。徹、回収を」


 これまでクライナーを倒した後、二回とも夢見るドキドキハートを落としていったことを思いだした。


「光点な……お、あった、これだな! 創造主、無事に回収したぜ!」


 不知火徹は、水中から夢見るドキドキハートを見つけてくれた。それは、この世界の誰かの命みたいなものだから、無事に見つかってほっとする。


「任務完了、お疲れ様でした」


 灯台の方から、ガコン、ガコンと重い音が響いた。振り返ると、砲台と化していたカノン部が、ゆっくりと分解されていく。せり出していた土台が引っ込み、螺旋階段が可動アーマーから元の姿に戻っていく。

 レッドサラマンダーの方も、腕部だったホースが力なく垂れ下がり、胸部の運転席がずるりと下にスライドしてもとの位置へ。二足歩行のシルエットが、軋むような音とともに、赤い消防車の形へと畳まれていった。


「よっと……。ここ、ちょっと油差さねぇと軋むんだよなぁ」


 変形が完全に終わると、不知火徹が運転席から顔を出して、そんな呑気なことを言った。まるで大仕事を終えた後の一言とは思えない、緊張感のなさだった。その後、四堂悠太の元まできて、さっき拾ってくれた夢見るドキドキハートを渡してくれた。


「ありがとう……。これがあると助かる人がいるんだ」


 不知火徹にお礼を言って、ポケットの中に夢見るドキドキハートをしまった。

 静寂が戻った湖畔で、一息ついて、四堂悠太は我に返った。


(なんか無意識に色々やっちゃってた……)


「創造主よぉ、さっきのオペレーション、滅茶苦茶正確だったぜ! シンクロ率とか、出力調整とか、うちのオペレーターより的確だったような……」

「い、いや、子どもの頃観ていたアニメの真似というか……」


 急に恥ずかしくなって、頬があつくなる。本物のオペレーターでも、才能でもない。ただ昔散々見返した映像を、脳内で完コピしているだけだ。


(結局僕にできることって、こういうことばっかりだ……)


 湖の対岸で、ストームが静かにこちらを見つめていた。


「距離を奪っても、届くか。……厄介な」


 そうつぶやくと、ストームは音もなく姿を消した。


「創造主、あいつも敵だったんだろ? 逃がしちゃったな……すまねぇ」


 ストームの消えた場所を見ながら、不知火徹が悔しそうにつぶやいた。


「いや、今回は水中にクライナーを出されて、どうしようかと焦ったよ。倒してくれてありがとう」

「へっ、そう改まって礼を言われると、照れるぜ!」


 熱血漢の不知火徹が、鼻の下を擦りながら顔を赤くした。


「その……なんだ。もしまた何か困ったことがあったら、俺が倒しにきてやってもいいぜ! まぁ、来られるかどうか分かんねぇんだけどよ」


 照れを隠すように、不知火徹は豪快に笑い飛ばした。


「ありがとう。実は不知火徹以外にも、僕の創ったキャラクターを、敵が現れたときに召喚して助けてもらったことがあるんだ。でもその後、何回か召喚しようとしたんだけど、だめだった。どうも一人一回しか召喚できないみたいなんだ」

「何だと⁉ 俺以外のキャラクターも、創造主を助けに来てたのか……。そんで一回助けたら、もう二度と来られない……と」


 考えるより先に行動する。すぐ突っ走って、周りに迷惑がられる不知火徹が、珍しく考え込んだ。


「なぁ、創造主。俺以外のキャラクターってやつは、もしかして俺とおんなじこと言ってなかったか? 来れるかどうか分からないけど、創造主がピンチだったら助けにきたいとかなんとか……」

「……そう言えば、東雲柚月もヘレナも、そんなようなこと、言ってた気がする……」

「だろ。俺たちは創造主に創られたんだから、創造主がピンチなら、絶対に駆け付けたいと思うんだよ。だから、この世界に召喚されることは納得がいく。……でもなぁ、何で一回だけしか来れねぇんだ? 変じゃねぇか?」


 不知火徹が、珍しく一生懸命考えてくれたので、四堂悠太も真剣に考えてみた。


「それは確かに……変かもしれない。何で、一回しか召喚できないんだろう……」

「うわっ‼」


 考え込んだところで、いきなり不知火徹が奇声をあげた。


「どうしたんだ⁉」

「あ、いや……体が透け始めたんだ。だが心配はねぇ。こっちに来るときも、おんなじことが起きたからな。それより、もう二度と助けに来られねぇんなら、最後に一つだけ言っとく。ピンチになったとき、あんまり悩みすぎると、悪いことばっかしか考えられなくなっちまう。悩みはメモリーから消去して、思い切って行動することが大事だぜ!」


 声が、少しずつ薄くなっていく。透けていく体と同じように、輪郭がぼやけていくようだった。不知火徹のすぐ隣にある消防車も、一緒に透けていった。


(そうだ……不知火徹の座右の銘は、『考えるより先に行動しろ』だった。自分で考えた設定だったけど、たった今思い出した)


「創造主は大したもんだ。経験もないオペレーションを、完璧にこなしたんだからな。その勢いで、この先も頑張ってくれよな‼」


(いや、透けてるのに喋るペース落ちないな、この人……)


 若干、心配になってきた。


「それから、いつも勇気と気合いを忘れるなよ‼ そうすれば絶対に……」


 声が途切れる寸前、不知火徹はニッと笑ったように見えた。

 不知火徹は、何だか魂を込めた熱い言葉を喋っている途中で消えていった。


(そうすれば絶対に、何なんだよ……。しかも最後に一つだけって言いつつ、一つじゃなかったし)


『ピンチのとき、あまり悩みすぎると、悪いことばかり考えて動けなくなる。だから、勇気を出して一歩踏み出してみよう! そしたらきっと、何かが変わるから』


 不知火徹の座右の銘をもう一度思い出してみたら、脳内にスターエレメントの言葉が蘇った。


(そうか……。初めて書いた作品にも、スターエレメントの言葉を入れていたんだ……)


 むさ苦しいほど熱い男、不知火徹と、可愛い少女のスターエレメントでは、ビジュアルも性格も全然違うけど。


(——小説を書くとき、僕の傍らには、いつもスターエレメントがいたんだな……)


 それが分かって、胸が締め付けられた。

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