第三十六話 働く車変形ロボ レッドサラマンダー合体する
警告音が鳴り響く。エネルギーの残量が、見る間に落ちていくのが分かった。焦りで頭が真っ白になりかける——その時、ふと視線が湖畔の灯台へ向いた。
「……そうだ、灯台……‼」
「は? 何言って——」
「不知火徹、聞いて。あの灯台、多分、レッドサラマンダーと繋がる……!」
「多分って、お前……根拠は⁉」
「根拠とかいいから、今は信じて‼ ……灯台リンク、起動シークエンス開始! ラッチロック、解除!」
自分でも驚くほど、言葉が淀みなく出てくる。まるで、体が勝手に覚えているみたいだった。湖畔の灯台が土台ごとせり出し、螺旋階段が可動アーマーとして展開していく。放水砲がせり上がり、灯台のライト部分と組み合わさって、巨大な砲台へと姿を変えた。
「ちょ、待て、シドー‼ あの灯台は、湖を渡る舟のための灯りではないのか⁉ 勝手に合体させてしまって良いものなのか……⁉」
アレクシアが、今更ながらに一番真っ当な心配をしてきた。
「た、多分、後でちゃんと元に戻ると思う……多分」
その場しのぎの返事しかできなかった。後で村の人に怒られたらどうしよう、という不安が一瞬よぎったけど、今はそれどころじゃない。
「フロート、格納。カノン部、スタンバイ。……レッドサラマンダー、合体‼」
「……いいねぇ、創造主。分かってんじゃねぇの! 最初っからそうやってくれよなぁ。次はカノン部のリミッター、心で外すぞ‼」
「心でって……そんな機能ないでしょ」
「あるかどうかは関係ねぇ‼ 気合いだ、気合いで外れる‼」
「えぇ……」
どういう理屈だよと半信半疑だったのに、本当に、ガコンと何かが外れる音がした。
「ほら見ろ‼ 気合いだって言ったろ‼」
「うるさい、集中してるから話しかけないで‼ ……エネルギー変換効率、七十パーセント切ってる。灯台側の出力が安定するまで、あと三秒待って!」
「さ、三秒⁉ 何を根拠に……」
「根拠とかいいから! ……よし、安定した。カノン部、初期照準完了。シンクロ率、上昇中……八十、八十五……このペースなら、いける!」
「フロート展開、湖面突入シークエンス、開始! ……水圧抵抗、想定より高い。フロートの角度、五度上げて! そのまま直進!」
「い、五度って……⁉」
「細かいことはいいから、僕を信じて!」
不知火徹は困惑しながらも、言われた通りに操作パネルへ手を伸ばした。機体が、灯台のアーマーを纏って再び湖面へと踏み出す。左肩に折り畳まれていたアーマーパネルが展開し、盾のように前へ突き出された。
鱗の雨がやんだ瞬間、クライナーが大きく口を開けた。喉の奥に、水色の光が集束していく。
「今度は何だ……⁉」
「まずい、あれ、多分——」
言い終わる前に、圧縮された水流が放たれた。まるで大砲のような一撃が、レッドサラマンダーの胸部へと直撃する。
「ぐああっ‼」
「エネルギー残量、急低下……! カノン部のシールド、間に合わない……!」
衝撃で機体が大きく仰け反り、水面に半分沈み込む。警告音が船内に鳴り響いた。
「創造主、まずいぞ、これ以上は——」
「まだ……! まだ、いける……!」
「……よし、分かった‼ 俺も付き合ってやる、とことんまでな‼」
なぜか、確信があった。理由は分からない。それでも、体の奥から、諦めるなという声が聞こえた気がした。
「フロート、緊急浮上! カノン部、出力最低限まで絞って——今のうちに体勢立て直す!」
「無茶苦茶言いやがって……でも、了解だ‼」
機体がぐらりと持ち直し、湖面へと浮かび上がる。そこでようやく、クライナーが大きく仰け反り、喉の奥から光が漏れ始めた。
「な、なんだ、あの動き……何か来るぞ‼」
「クライナー、捕捉——完了! ……歌声、来る! 音響センサー、一時遮断!」
そう叫んだときには、もう遅かった。
クライナーの喉から放たれた歌声が、湖面全体に広がっていく。美しく、どこか物悲しいメロディーだ。それは音と言うより、直接頭の中に響いてくるような感覚だった。
「ぐ……ッ」
湖畔で見ていたリデルが、突然膝をついた。
「な、なんじゃ、これは……頭の中に、何かが直接……」
「何かの魔法……⁉ いえ、こんな魔法存在しないはずです……」
ルティナもアレクシアも顔をしかめながら、耳を塞いでいる。だが、その目の焦点は、どこか合っていなかった。
(ルティナは、この世界全部の魔法を知っている。だとすると魔法じゃない。じゃあ幻聴? ……いや違う)
四堂悠太の耳にも、歌声が響いていた。だが不思議なことに、その旋律にどこか聞き覚えがある気がした。
(この曲……何だっけ……いや、待て、今はそれどころじゃ……)
「リデル、アレクシア、ルティナ、大丈夫か⁉」
呼びかけても、三人の反応は鈍い。まるで、歌声によって、意識ごとかすめ取られているようだった。
「創造主……! これはちっとやばいぜ。俺の意識レベルも低下してる! このままだと、レッドサラマンダーの操縦ができなくなっちまう……」
不知火徹の声にも、焦りが滲む。
(まずい、まずい……! でも待てよ……)
脳内に、また別の映像がフラッシュバックした。子どもの頃観たロボットアニメで、敵の歌に対抗するには、決まって「もっと強い光」か「もっと大きな音」で塗り替えるという展開があった。
(そうだ……! 歌には光をぶつければいい……!)
「読めた……! 歌には、光をぶつける‼ もう一度、音響センサー遮断——今度は光と同時に、いけ‼」
灯台のライト部分が、眩いばかりの光を放つ。その光は、単なる照明ではなく、灯台リンクを通じて増幅された、レッドサラマンダー本来の出力そのものだった。
光が湖面を覆い尽くすと、クライナーの歌が僅かに揺らいだ。まるで、光に旋律を掻き消されるように。
「よし、通った……!」
光が届いた瞬間、リデルとアレクシアとルティナの目に、少しずつ焦点が戻ってくる。
「……ぐ、何じゃ、今のは……。頭の中に、直接歌いかけられているような……いや、違うな。無理やり、心の柔らかい部分をこじ開けられるような、嫌な感覚じゃった」
「あぁ、同感だ……。シドー、助かった」
「えぇ、意識をすっかりもっていかれるところでした」
三人が正気を取り戻したのを確認し、小さく息をついた。
(歌で味方を助けるんじゃなくて、歌で敵にやられる方だったとは……)
どこかで見たロボットアニメや魔法少女アニメでは、歌は大抵、味方を鼓舞したり、敵の心を溶かしたりするための力だった。まさか、自分たちがその「歌にやられる側」になるとは思わなかった。
(でも、対抗手段があって良かった……。灯台の光で歌をかき消すなんて、僕も思いつかなかったのに、何で咄嗟に出てきたんだろ……)




