第三十三話 無属性魔法の発動条件
アレクシアと質屋を出ると、通りを歩いていたリデルとルティナを見かけたので、手を振って呼びかけた。
「おーい、リデル、ルティナ!」
「あ、シドーじゃ。やっと見つかったわ。全く……宿屋にもおらぬし、一体今までどこへ行っておったのじゃ?」
駆け寄ってきたリデルに聞かれたが、返答に困って、アレクシアを見た。借金のことは黙っていて欲しい、と顔に書いてあったので、心の中でこっそり了解の意を伝えた。
「あー、残り九作品のタイトルを考えて、街を散歩してたんだ。途中で偶然、アレクシアに会ったんだけど」
「それで、思い出せましたか?」
「あ、うん。一つだけは」
初めて書いた小説だから、タイトルはすぐに思い出せた。
「十分です。早速、実験の続きをしに行きましょう」
ルティナに促され、四人で街の外へ出た。
***
街を出てある程度歩いたところで、近くに大きな湖のある場所に出た。その湖畔を、マンドラゴラがのんびり散歩している。
「あれで実験しましょう」
ルティナが言った。
こちらから手を出さなければ無害な魔物なのに、と内心謝る。今日に限って、街を出て歩けど歩けど、魔物には一体も遭遇しなかった。おかげで、これまで見たこともないほど大きな湖まで来てしまっていた。
「シドーさん、無属性魔法の呪文をお願いします。まずは東雲柚月さんか、ヘレナさんのどちらかを召喚してみましょう」
「分かった」
東雲柚月かヘレナのどちらかなら、迷うことなくヘレナだ。東雲柚月が出てくる小説のタイトルは、中二病全開のときに考えたもので、口にするだけで精神的ダメージが大きすぎる。
「転生したらまた悪役令嬢だった ~魔女の疑いをかけられるくらいなら、本物の魔女になってやりますわ~」
叫んだものの、昨日に引き続き、ヘレナは現れなかった。
だが、心には幾分ダメージを負ったけど、可愛いマンドラゴラがヘレナに瞬殺されなかったから良しとしよう。
「やはり一度召喚すると、もう出てきてくれないのでしょうか……。いえ、考えるより、次の実験に移りましょう。これまで召喚したことのない作品のタイトルをお願いします!」
ルティナに言われて、再び叫ぶ。
「働く車変形ロボ ワークギアー」
小学校六年生のときに初めて書いた小説だ。もっと小さかった頃に大好きだった働く車と、当時ハマり始めていたロボットを組み合わせて書いた、我ながら気合の入った作品だった。
「これで無属性魔法発動の条件が少し分かりました。一度も召喚したことないキャラクターでも、相手が魔王軍でなければ召喚されない……かもしれません。シドーさん、次に魔王軍と対峙したとき、今の作品タイトルの前に、もう一度ヘレナさんを呼んでいただけますか?」
「あ、あぁ、いいけど。……何で?」
魔王軍幹部が、二回もタイトルを叫ぶ時間を与えてくれるだろうか、という心配は建前で、本音は、もしまた出てきてくれなかったら、精神的ダメージがきついというものだった。でもやるしかない。
「魔王軍相手にまずヘレナさんを呼びます。出てきてくれなかった場合、これまで呼んだことのないキャラクターを召喚します。もしこれで出てきてくれたら……」
「無属性魔法の発動条件確定だ」
四堂悠太は、ルティナの実験の意味を理解した。
(……すごい。ずっと考えても分からなかった無属性魔法の発動条件が、もうすぐ分かる!)
「ちょっと待て、シドー! 我にも分かるように説明せよ」
「さっきルティナが言った通りだよ。魔王軍相手にヘレナが召喚できなくて、新しいキャラが召喚できたら、無属性魔法の発動条件は二つに決定する。①敵が魔王軍であること②一度召喚したキャラクターは二度と召喚できない」
ルティナも頷いた。
「……やはり、東雲柚月殿とヘレナ殿には、もう……会えないのか」
アレクシアが、がっくりとうなだれた。
そこで四堂悠太は、はっとした。
また自分の考えに夢中になって、大事なことを忘れていた。条件がそれで確定するということは、東雲柚月にもヘレナにも、もう会えないということだ。
「……なんと。まだ語り合いたいことが、山ほどあったというのに」
リデルもしょんぼりしてしまった。
「まだ分かりません。次の魔王軍相手に……そんな実験をしている余裕があるか分かりませんが、あれば積極的にやってみましょう。悲しむのはそれからです。何にせよこの問題は、早急に解決すべきです」
「それには同意だ。シドー、隙は私たちで作る。実験を頼む」
「うむ。アレクシアと我が、まず敵に突っ込んでゆき……」
四人で作戦会議をしていると、湖のほとりを、一人で散歩している人が見えた。
「おーい。そこの方! ここは魔王軍の領地だ。一人でうろついていると危ないぞ!」
アレクシアが声をかけたが、その人物は無視して、こちらへ向かって歩いてくる。
よく見ると、全身を黒いフード付きのコートで覆っていた。
(……あ、この世界に転生して来た日、冒険者ギルドで会った、あの……)
「やはり、またお会いしましたね」
四堂悠太に向かってそう言いながら、黒いコートを脱いで後ろに放り投げる。
現れたのは、緑色の髪を頭の後ろでひとつのお団子にした若い女性だった。気配が感じられないのも、声に感情がこもっていないのもあの時と同じだ。
「ストームだったのか……」
魔法少女スターナイツの三幹部の一人、沈着冷静で頭が切れる女、ストーム。
(迷っている暇はない‼)
四堂悠太は、ストームに向かって叫んだ。
「転生したらまた悪役令嬢だった ~魔女の疑いをかけられるくらいなら、本物の魔女になってやりますわ~」
何も起こらなかった。
(……やっぱりヘレナたちには、もう会えないのか)
少し寂しく思ったその時、アレクシアとリデルがストーム目がけて突っ込んでいった。
先ほどの作戦通り、二人は動いている。ならば自分も、立ち止まっている場合じゃない。
「働く車変形ロボ ワークギアー」
四堂悠太が叫ぶと、明るかった空が急に真っ暗になり、上空にキラキラ光る円陣が出現した。
その円陣の中から、一人の——いや一台の消防車が現れた。
三十三話、お読みいただきありがとうございました。
ヘレナ・エンヴァークラウンについて、実は本日十五時台に、彼女を主人公にした短めの連載小説を投稿予定です。彼女がこの世界に来る前、どんな人生を歩んできたのか――気になった方は、ぜひそちらも覗いてみてください。




