第二十五話 魔王軍幹部サンダー来訪。そして百獣の王の覚悟
四人で話がまとまった直後、急に地面が揺れた。そんなに強い揺れではなかったけど、この世界に来て初めてのことだったから、驚いて三人の顔を見た。
「な、なんじゃ、今の揺れは⁉」
猫耳をピクピクさせて、リデルが叫んだ。おそらく動物的な感覚を使って、原因を探ろうとしているのだと思う。
「もしかして、地震?」
「地震とは何だ?」
怪訝な顔のアレクシアに聞き返されてしまった。この世界には地震が存在しないらしい。
「時間切れです。私の結界が、魔王軍に攻撃されました。何とか耐えられましたが、次に攻撃されたら、もう結界は持ちません。この街に被害がでるでしょう。すぐに、街の外へ出て魔王軍を止めなくては。シドーさん、無属性魔法は、実践でお願いします」
ルティナが緊迫した顔で言った。
リデルもアレクシアも、最悪の事態が起こったことを即座に察したようで、顔色が変わった。が、覚悟を決めた三人の動きは早く、気づくと門の方へ全力疾走していたから、四堂悠太も慌てて三人の後を追いかけた。
街の外に出ると、一人の大男が門のすぐ外に立っていた。
「さきほどわしは渾身の一撃を放ったのだが、目に見えない壁のようなものが、打ち消してしまった。あれは何だ?」
筋肉ムキムキで、全身毛むくじゃらの大男は、不思議そうに自分の右手と、前方の何もない空間とを見比べている。一瞬、獣人族かなと思ったけど、違う。ずっと前から、この男を知っている。
「渾身の一撃を放った……ということは、あなたが魔王軍の幹部ですか。残念ですが、先ほどの攻撃は私の結界に当たって、消滅しました」
ルティナは落ち着いて会話しているように見えるが、ここ数日の付き合いで、ルティナがかなり動揺していることに気付けた。
(まぁ、動揺しないなんて無理な話だよな……)
魔王軍幹部の放った攻撃を消滅させた結界は、もう効力がない。次に攻撃されたら、自分たちで防ぐしかない。もし失敗したら、自分たちも背後の街も全て消えてなくなってしまう。
「ほう……、わしの渾身の一撃を防いだとは。その防御壁、どういう仕組みかは知らんが、高い性能を持っているな。だが、そんな防御壁があるにも関わらず、わざわざわしの前に姿を現した理由は何だ?」
痛いところを突かれて、ルティナは沈黙した。もっとも、そうするしかないだろう。結界がもう機能しないことは、できれば知られたくない。
ルティナの長い沈黙をしばらく見守っていた大男は、突如大笑いしだした。
「はーはっはっは。よく考えたら、理由など何でも良いわ。このところダークキング様のため、任務遂行、任務遂行とうるさい奴の考えが移ってしまったな。世界の覇者となるには、力がすべて。見えない壁が有ろうとなかろうと、わしのやることは変わらん。全力でぶち壊して、突き進むのみ‼」
男は大きな体を揺らして、大声で笑っている。その異様な言動に、三人は驚き固まっていた。
(まずい‼ よく分からない敵の覇気に圧倒されている……)
三人の緊張をほぐそうと、四堂悠太も男に負けない大声で叫んだ。
「三幹部随一の力の持ち主、サンダーらしい考え方だな‼ 力や強さにこだわるのは変わっていないらしい。ルティナ、アレクシア、リデル、こいつはようするに脳筋バカだから、攻撃は直線的な力技ばかりだ、対処はしやすい!」
この大男も、少し前に襲撃してきたブリザードと同じ、ダークキングの部下の一人だ。四堂悠太の、多少の煽りを含んだ情報を聞いて、サンダーは眉をぴくりと動かし、不愉快そうな顔をした。
「……なるほど、ブリザードが言っていた『我々のことを知る者』とは、お前のことか。何故我らのことを知っているか……正直興味はないが、任務上吐いてもらわんとなぁ。
だがその前に一つ、お前は勘違いをしているから教えてやろう。わしの攻撃が直線的な力技ばかりなのは、わしが脳筋バカだからではない。わしの桁外れの力をもってすれば、破壊できないものはない。つまり小細工などいらんということだ」
「多分あいつ、脳筋バカじゃな……」
リデルが冷静になってサンダーを見て、ぼそっと呟いた。
「同感です。リデルさんと同じ匂いがします」
ルティナも冷静に、リデルに小声で返した。リデルはびっくりしてルティナを振り返り、
「は⁉ 我のどこが脳筋バカなのじゃ‼」
と、物凄く不服そうな顔をした。
(あぁ……。うん、リデルと同タイプだな)
ものの数秒で本来の落ち着きを取り戻し、サンダーを分析したルティナはすごい。
そこまで分析したルティナは、驚きの作戦を展開し始めた。
「魔王軍幹部のサンダーさん。ここにいる獣人の少女は、百獣の王の御息女です。彼女が戦った後には、何も残りません。一切の痕跡も残さず、跡形もなく破壊してしまうからです。それを見た人々が、破壊神リデラインという呼び名を付けました。彼女は、この世界最強の力を持つ者と言っても過言はありません。
そこで提案なのですが、彼女と一対一で戦って、力比べをしてみませんか? もちろん力比べの間、私たちは一切の邪魔をしないと約束いたします」
「ちょ……ルティナ、急に何を言い出すのじゃ‼」
リデルは驚いて、ルティナに抗議した。
「あらリデルさん、今回こうなってしまったのは、リデルさんの責任ですよ? 済んでしまったことは仕方ありません。過去は変えられません。ですから、今、責任を取ってくださいますよね?」
にこにこ笑いながら詰め寄るルティナに、リデルは数歩後ずさった。何も言い返せないようだった。そんなリデルの肩を、アレクシアが優しくたたいた。
「強い奴との力比べ……、大好きだろう?」
二人に背中を押され、リデルは覚悟を決めたようだった。
「くうぅぅぅ、どいつもこいつも我のことを何じゃと思って……。だがっ、だがっ、力勝負で負けたとなれば、獣人王の名折れ。圧倒的な力こそ、この世界を統べる真理。力自慢の王は……二人も要らぬ」
リデルは謎の覚悟と共に、一歩前に進み出た。
「サンダーよ、一歩近づいただけで、お主の覇気がビリビリ痛いほど伝わってくる。間違いない……我がこれまで戦った奴のなかで、一番強いな。我の中の獣の本能が、さっきからうるさいのじゃ。戦うのを止めよ、とな。だがこうも思う。それほどの相手と拳を交わせるとは、なんという幸運……僥倖じゃ‼」
リデルはとても喜んでいた。
(結局嬉しいんかい‼)
長くパーティーを組んでいたルティナとアレクシアは、リデルがこうなることなど、とっくに予想済みだった訳だ。
成り行きを見て、心配していた気持ちが、一気に緩んでいくのを感じた。
「わーはっはっ。獣人王だか何だか知らんが、おもしろい娘よ、気に入った。本来なら召喚したクライナーに戦わせるところだが、その気概に免じ、特別にわし自ら手合わせしてやろう」
魔王軍幹部のサンダーも、なぜかノリノリだった。




