第二十四話 ギャンブルで借金しかしない元騎士団長の話
その日の夕方、サランセルゴ共和国に一時帰還していたアレクシアが帰ってきた。
「長旅お疲れさまでした、アレクシアさん。首尾はいかがでした?」
「うむ、魔王軍がすぐにも全力で攻めて来るかもしれないと話しただけで、騎士団長は、即断即決してくれたよ。団長自らが指揮を執って……およそ五部隊で三百名くらいが、ここリューベックの街に集結してくれる。中央騎士団だけでなく、各領地にいる騎士たちに召集をかければ、人数はもっと集まるが、魔王軍相手なら量より質だろうと団長は言った。私もその方が良いと思ったから、それで決めてきた」
「それは、素晴らしい成果ですね」
ルティナが驚いている。
「まぁそもそも、精鋭部隊とはいえ、魔王軍幹部やそいつらの生み出すクライナーをどうこうできるとは思えんが、日頃からいる魔物の討伐や、人民の保護を担ってくれるそうで、それなら十分過ぎるくらいだ。我々は背後に気を取られず、戦えるのだからな。コレットはアルブリー王国への報告が済んだら、世界を救い隊本部に戻り、以降はヴィクターらとともに後方支援に徹し、ネリサもエルフの長老への報告が済み次第、本部に戻ってコレットたちに合流するそうだ」
「コレットとネリサは当初の予定通りですね。それにしても、サランセルゴ共和国主戦力の中央騎士団の、しかも精鋭部隊と団長を引っ張ってくるなんて、さすが元サランセルゴ共和国の中央騎士団長ですね。一糸乱れぬ統率で有名な騎士団から、厚い信頼を得ている……ということなのでしょう。彼らの到着はいつ頃でしょうか?」
「そうだな……、騎馬隊だけなら一週間もあれば来れるが、物資を運ぶ荷車もいるし、途中で険しい山越えもある。全軍の到着は三週間ほどかかるだろう。なるべく急いでくれるそうだが」
「アレクシアが元騎士団長だったって⁉」
ルティナとアレクシアの会話途中だったが、びっくりしたので思わず口を挟んでいた。
「あぁ、シドーには言っていなかったか? 魔王軍が世界を侵略し始めた頃に、一国を守っている場合ではないと思い、団長を辞し、ルティナたちと行動を共にするようになったんだ」
日頃の振る舞いや戦い方を見ていて、並みの騎士ではないと思っていたが、一国の主戦力である騎士団の団長をやっていたとは。
「昔三国で戦っていた頃、サランセルゴ共和国の中央騎士団には、エルフの魔法使いも、獣人たちも随分苦労させられたものです。あれほど統率のとれた忠誠心の高い軍隊は、私たちの国には存在しないですから。それでいて、戦いに勝っても、民から略奪は一切しない、品行方正な部隊なのです。そうですか……あの時の団長殿が、アレクシアさんの師匠という訳ですね」
何やら訳知り顔でルティナが頷いた。
(あの時ってどの時だ——‼)
滅茶苦茶気になる話だった。
「しかし、そのような朗報を持ち帰ってくださったのに、大変言いにくいのですが、残念なお知らせがあります」
「……?」
アレクシアは不思議そうな顔をした。四堂悠太は、ルティナが何を言おうとしているか気付いて青ざめた。
「シドーさんとリデルさんが、金貨百枚を買い物で浪費した挙句、無属性魔法も習得出来ていないんです」
「……そうか。金貨百枚を失ったのは仕方ないが、無属性魔法が使えないとなると、魔王軍との戦い……どうしたものか……」
アレクシアは、前半部分にはほとんど心を動かされなかったが、後半部分には明らかにショックを受けているようだ。
「金貨百枚を一日で使ってしまったのは、良いんですか……」
ルティナが聞くと、
「賭博でなら、よくあることだからな。なんなら、私が取り戻して見せようか?」
アレクシアは平然と言った。
「おお、それは名案じゃ‼ 我も賭博はやったことないが、一枚噛ませてもらおう。動物コレクションの資金が、また必要になるやもしれんしな」
リデルが目を輝かせて食いついた。その全然懲りていない態度に、ルティナは頭を抱えた。
「そんなことをアレクシアさんに頼んだら、魔王軍そっちのけで、ずっとギャンブルしていますよね? それに、ギャンブルで借金を増やしたことはあっても、取り返したことは過去に一度もありませんよね?」
ルティナに問われて、アレクシアは目を泳がせた。
「い、いや、まぁ……、そ、それは、その……」
(否定しないのか‼ ギャンブルで借金を増やしたことしかない騎士って……)
アレクシアは、忠誠心の高い品行方正な騎士だって聞いたばかりなのに。
「リデルさんも、金貨百枚を溶かした直後に何を言っているんですか」
ルティナは、あまりに自覚がなさすぎるリデルにも、釘を刺した。本人に刺さったかどうか、分からないけど。
今更ながら、ヴィクターの深いため息が思い出された。
——あいつら、滅茶苦茶強いのに、金銭感覚がおかしいせいで、最期は戦って死ぬんじゃなくて、飢え死にするんじゃねぇかな。
「ま、まぁ、アレだ! 済んでしまったことを悔いても仕方ない。金貨百枚がなくても、何とか食いつないでいくしかないし、装備も今のままで何とかなるだろう。無属性魔法は、魔王軍が攻めてくるまで必死で特訓して、もし間に合わなければ、戦闘中に実践で身に着けるしかないな‼」
「そうじゃ‼ 過去を悔やむより、前に進むしかない‼」
アレクシアの発言に、リデルも強い口調で同意した。
「リデルさんは、今回の元凶ですからね。少しは過去を悔いて反省してくださいね」
ルティナのもっとも過ぎる意見に、リデルは再びしゅんとなった。
「ともあれ、ことこうなった以上、アレクシアさんの言う通りにするしかないのも確かです。期待していますよ、シドーさん」
ルティナは僕を見てにっこり微笑んだ。態度も口調も丁寧だし、笑顔はとびきり可愛い。なのに、なぜか背筋がぞわっとした。
(ルティナは、魔王よりも怖いかもしれない)




