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第二十話 時計塔の五分

 昨晩は、脳内で「魔法少女スターナイツ」の神回を再生しながら眠りについたお陰で、快眠だった。手足にできたブツブツも消えている。


(そう言えば、昨日の魔法についてまだ整理できていないな……)


 布団の中で、昨日起きたことをもう一度頭の中で並べてみた。

 魔法が発動したのは、みんながやられそうになって、とにかく何かしなければと思ったとき。呪文は東雲柚月の小説タイトルで、そのキャラを脳内でイメージしながら叫んだら、本当に現れた。そしてその後、同じ呪文を試したら、何も起きなかった。


 今分かっていることは三つだ。

 一つ、呪文は自分の書いた小説のタイトルで、一字一句正確に叫ぶこと。

 二つ、召喚するキャラが出てくる小説の内容を、脳内でしっかりイメージすること。

 ——この二つは、ネリサとルティナに教わった魔法の基礎と同じだ。

 三つ、そして今一番気になること——魔王軍と戦う状況でないと、発動しないのかもしれない。


(でも、それだと困る。戦闘が始まってからタイトルを思い出そうとしたら、パニックで出てこないかもしれない。敵が来る前に、もっと使いこなせるようにならないと……。

そう言えばルティナたちに、スターエレメントたちのことを話してない……)


 この世界が、元いた世界で見ていたアニメ「魔法少女スターナイツ」の物語と、何らかの繋がりがあるならば、魔法少女たちがいたって全然おかしくない。現にブリザードは、存在していた訳だし。

 昨日は、この世界が自分の妄想かどうかばかり考えていた。結果どうやら妄想ではなさそうなことに安心して、魔法少女たちのことを話すのを忘れてしまった。


(話した方がいい……のかな?)


 存在したとして、彼女たちはダークキングを敵とみなし、レインボーランドを守ろうとしていたのだから、この世界の人たちと敵対関係にはならないはずだ。とすると、彼女たちの存在をそこまで気にする必要はないか。

 何より、スターエレメントに対して、複雑な感情を抱いている。もう小説は書かない、過去の自分はなるべく忘れると決めたんだし、スターエレメントのことも、自分の胸の中にしまって生きていきたい。


(スターエレメントのこと好きな気持ちは変わらないけど、あわせる顔がないもんなぁ……)


 そこまで考えて、決めた。ルティナたちには、スターエレメントのことを話さないでおこうと。

 そうこう考えているうちに、いつの間にか二度目の眠りに落ちていた。


***


「起きろ! シドー、朝じゃ‼」

 いきなりずどんと重たい物が自分の上に落ちてきた感覚があって、驚いて目を覚ましたら、僕の上にリデルが乗っていた。


(あれ……。これ前にも同じことがあったような……)


「全く寝起きの悪い奴じゃな……。今日は早起きして魔法の特訓をするのであろう‼」


 リデルは怒って、僕の顔に尻尾で往復ビンタを何度もした。


「い、いたかゆっ……」


 モフモフの毛並みではたかれて、思い出した。以前もリデルに、こうやって起こされたんだった。


「それにしても、なんでいつも起こしにくるのリデルなんだ?」


 モフモフしっぽで叩かれるのは悪くないけど、獣人だからか朝が早すぎる。人間のアレクシアやエルフのルティナだったら、もうちょっと常識的な時間に起こしてくれそうなのに。いやそもそも、別に誰かに起こされなくたって自力で起きられるし。


「未来の獣人王自らが起こしに来てやっておるのに、不平を漏らすとは……不遜な奴じゃな。

アレクシアならば、祖国サランセルゴ共和国の騎士団に助力を求めるため、つい先刻旅立った。昨晩ルティナが、近々魔王軍の本格的な襲撃が予想されるから、急ぎ各国に知らせ、戦える者たちで連携して備えねばならぬと言ってな。アレクシアは、それならば元騎士団長であった自らが赴き、助力願うのが早かろうと志願した訳だ」


「みんな、もう動いてたのか……」


「ネリサも、エルフの故郷であるヴィンラント連合に一旦帰った。長老たちにこれまでの経緯を話しておきたいそうじゃ。コレットは、敵の正体やら、シドーが無属性魔法を使えたことなど、ヴィクターに報告しておかなければならないと言って、世界を救い隊本部に急ぎ帰還した。その後、ヴィクターの故郷でもある、アルブリー王国に行くと言っておったから、ついでに我が父王にも言伝を頼んでおいた。そしてルティナは、昨晩からずっと冒険者ギルドに詰めておる。フェモンの街の人々を避難させる場所を作るのと、今後のリューベックの防衛について、冒険者たちと話し合うんじゃと。

よって今、シドーを起こせるのは、我しかいないのじゃ!」


 すごい使命を託されたかのように、リデルは胸を張って言った。


「あ、あぁ……そうなんだ」


 アレクシアやルティナなら、もうちょっと遅くまで寝かせてくれそうなのにと思った自分を恥ずかしく思った。


(そうだった……、数年動かなかった魔王軍が急に動いたんだ。緊急事態と言っても良い。魔王軍に備えるため、みんなこんなに朝早くから動いている。あれ……ってことはもしかして……)


「もしかして、最前線のこの街に残ったの、僕とリデルだけってこと?」

「ルティナは冒険者ギルドにおるが、冒険者たちとの連携が決まるまでは動けぬと言っておったな。なに、昨日あれほどこっぴどくやっつけたんじゃ、そうすぐに襲ってはこぬであろう。万一襲ってきたとしても、我とシドーがおれば、十分じゃ! 何の心配もいらぬ‼」


 リデルは高らかに笑った。


(いやいやいや、心配しかないのですが‼)


 サランセルゴ共和国の騎士団への助力も、世界を救い隊本部のヴィクターや、エルフの長老に報告するのも必要なことだとは分かる。分かるが、何も今にも魔王軍が襲ってきそうな、この最前線の街に、僕とリデルだけ置いていくことないんじゃないか。リデルとたった二人で、敵に勝てる気が全くしない。万一の場合は、冒険者ギルドにいるルティナが助けに来てくれると信じたい。


「そんなことより、シドー! せっかく起こしに来てやったのじゃ、急いで特訓じゃ‼」


 不安そうな四堂悠太のことは気にも留めず、リデルは元気よくベッドから飛び降りた。それで仕方なく、覚悟を決めて起き上がった。


***


 早朝に開いているお店で朝ご飯を食べた後、早速魔法の特訓をするため、時計塔広場にやってきた。


(そう言えば、以前も魔法の修行したとき、ルティナとこの時計塔広場に来たな……)


 リューベックの街には、街のどこからでも見えるほど大きな時計塔が、中央の広場にある。元はこの街のシンボルだったらしいが、今は壊れて動かなくなり、鐘も鳴らなくなった。


(時間は十二時五十五分か……。あれ……前に来たときは一時ちょうどだった。壊れてもうずっと動いてないって聞いていたのに……動いてる)


「なぁ、リデル。時計塔って、壊れてずっと動いてないんだよね?」

「うむ、我らが来る前に、壊れて動かなくなったと街の住人が言っておったが」

「初めてこの街に来た時、あの時計塔は一時を指してた。でも今は、十二時五十五分だ。ずっと動いてなかったのに、何で急に動いたんだ?」


 しかも、五分進んだんじゃなく、五分戻っている。


「……壊れた時計塔など、よく見たことはないが、前もこの時間だったのではないか? 大方シドーが見間違えたのであろう。ずっと壊れて動かない時計が、急に動くはずあるまい」


 リデルは、たいして興味もなさそうに言った。

 でも、見間違えてなんかいない。この街には、危うく死ぬ思いをしてやっとたどり着くことができた。あの時の光景は、目に焼き付いて離れない。そう説明すると、リデルは唸った。


「シドーがそこまで言うなら見間違いではなかろうが……。そうじゃ! 重力じゃ! 重力によって長い方の針が、自身の重さも相まって、左に少し傾いたのではないか?」


(いや、それだと針は下に垂れるはずじゃ……? なんで五分戻る方向にピンポイントで傾くんだよ……)


「ふぅむ……。そうか、本体が壊れてしまったくらいなんだから、針を止めているネジだって、経年劣化で緩んできたっておかしくはないか」


(って、僕も僕で、謎の理論に謎の理論を重ねて納得してどうするんだ……)


 リデルの話を聞いて、とりあえず納得した。でも、どこか頭の片隅に、引っ掛かりが残った。

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