↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
163/165

第百六十二話 私と、戦ってください

 土の精霊の祠へ戻ると、スターノームはすでにそこに立っていた。俯いたまま、胸元で両手を握り締めている。


「私……やっぱり、怖いです」


 小さな声だった。


「世界を壊すのも嫌だし……四堂さんたちとも、戦いたくないです」

「……うん」


 四堂悠太は、何も否定しなかった。

 少し前の自分なら、「でも」と続く言葉を待ちながら、どこかでノームが迷いを捨ててくれることを期待していたかもしれない。

 けれど、今は違う。怖いものは、怖い。嫌なものは、嫌なのだ。それを無理になかったことにする必要はない。


「でも、この前……四堂さんが言ってくれました」


 スターノームが、ゆっくりと顔を上げた。


「怖くても……戦った先に、エレメントを助ける方法があるって信じたいから、戦ってるんだって」

「……うん」

「私も……考えたんです。ずっと、考えました」


 大きな琥珀色の瞳が、僅かに揺れる。


「それでも、やっぱり怖いです。これでいいのかなんて、今も分からないし……本当は、戦いたくないです」

「ノーム……」

「でも」


 スターノームは、握っていた拳へさらに力を込めた。


「私も……エレメントを信じてみたいんです」


 目元には、もう涙が浮かんでいる。それでもスターノームは、その場から逃げなかった。

 一歩。昨日は壁を作って立ち尽くしていた少女が、今日は自分からこちらへ踏み出した。


「だから……今日は、逃げません」


 震える声で。それでも、はっきりと言った。


「ちゃんと、戦います!」

「…………」


 怖くなくなったわけではない。迷いが消えたわけでもない。涙だって、昨日と同じように浮かんでいる。

 それでも自分で考えて、自分で決めて、もう一度ここへ戻ってきた。


(……ノームも、怖いままなんだ)


 昨日の戦いを思い出す。泣きながら何枚もの土の壁を作り、その向こうに立ち続けていた少女。最後まで、こちらへ拳を向けることはできなかった。

 そんな彼女が今、自分の足で前へ進もうとしている。強くなったからではない。怖くなくなったからでもない。怖いまま、進むと決めたのだ。


「それに……」


 スターノームが、四堂悠太を見る。一瞬だけ迷うように唇を結んでから、意を決したように口を開いた。


「私も、四堂さんの力になりたいんです」

「……僕の?」

「はい」


 思いがけない言葉だった。

 なぜ自分なのだろう。昨日、自分も怖くて逃げたことがあると話したからだろうか。   

 涙を浮かべながら、それでも逸らされない瞳を見れば、その言葉が嘘ではないことだけは分かった。

 世界が滅びる理由を知るためには、四堂悠太たちがノームとの決着をつけ、その先にいるエレメントへ辿り着かなければならない。ノームも、それは分かっているのかもしれない。

 けれど、その瞳には、それだけではない何かがあるような気がした。


「だから……お願いします」


 スターノームは、今度こそ両手を構えた。


「私と、戦ってください」

「……分かった」


 四堂悠太も頷く。

 昨日とは違う。昨日のノームは、「みんなは戦えたのに、自分だけできない」と自分を責めながら、そこに立っていた。

 けれど今、目の前にいるのは、「エレメントの力になりたい」という最初の気持ちに立ち返り、自分で戦うと決めた少女だ。

 ならばこちらも、ちゃんと応えなければならない。


(……誰を呼ぶ?)


 聖女フェイラを召喚したことで、残されている主人公はあと二人になった。一人は、いまだに正式な作品タイトルを思い出せていない。

 そして、もう一人は——。

 四堂悠太は、目の前のスターノームを見つめた。

 これまでなら、まず戦力を考えていた。相手が強ければ、それ以上に強い主人公を。魔法を使うなら、それに対抗できる主人公を。そんなふうに、自分の書いた登場人物たちを選んできた。


(……まあ、実際は、そのとき思い出せたタイトルを夢中で叫んできたことばかりな気もするけど)


 それでも、基本的には「戦えるかどうか」で考えていた。


(でも……違うか)


 ふと、水の精霊の祠を出たときに考えたことを思い出した。戦えないからといって、最初から何もできないと決めつけるのは違う。能力が何なのかより、その力をどう使うのかの方が大切なのかもしれない。あのとき、自分はそう考えた。


(……戦えないことと、何もできないことは、同じじゃない)


 そして目の前には、その言葉を別の形で体現した少女がいる。

 スターノームには、戦う力がある。拳も使える。蹴りも使える。強力な魔法だって持っている。

 それでも昨日は、戦うことができなかった。戦う力があっても、戦えないことはある。

 ならば逆に、剣を振れなくても、魔法を使えなくても、戦う力がないように見えても、それだけで「何もできない」と決めつける理由もない。

 四堂悠太の頭に、一人の少年が浮かんだ。何度失敗しても、自分には才能がないのではないかと思っても、それでも続きを書いた少年。


(……柊だ)


 その名前が浮かんだ瞬間、胸の奥が少しだけむず痒くなった。

 北川柊。高校一年生の少年。ライトノベルやアニメやゲームが好きで、運動が得意なわけでも、喧嘩が強いわけでもない。剣も使えなければ、魔法だって使えない。どこにでもいる、ごく普通の高校生。そして。


(……僕に似すぎてるんだよな)


 自信があるわけでもないのに、一度決めたことには妙にしつこい。何より、小説を書くのが好きで、書き始めると止まらない。

 当時の自分が何を考えて、あそこまで露骨に自分を投影した主人公を書いたのか。今となっては、過去の自分を捕まえて問い詰めたい。


「シドー?」


 隣でリデルが首を傾げた。


「どうしたのじゃ?」

「……ちょっと、昔の自分から精神攻撃を受けてただけ」

「何を言っておる?」

「気にしないで」


 四堂悠太は、小さく息を吐いた。スターノームは、自分の怖さから逃げずに、ここまで戻ってきた。それなのに。


(僕だけ、黒歴史から逃げてる場合じゃないよね)


 北川柊。自分が書いた主人公の中でも、おそらく一番、自分自身に近い少年。

小説を読んでくださって、ありがとうございます。


ブクマ登録や評価、リアクションなどありがとうございます。

皆さまのお陰で、日間連載中異世界転生ランキング3位になれました。ありがとうございます。

ここからのスターノーム戦で、世界の謎が少し解けます。お楽しみ頂ければ、幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。