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第百六十一話 「よく言った!」

 翌朝。

 四堂悠太たちは、アルブリー王国の王城を出発することになった。

 城門の前には、アルブリー王と王妃、それに何人もの兵士や家臣が見送りに来ている。


「もう行くのか、リデル」

「はい」


 リデルは、父親を真っ直ぐに見た。


「土の精霊の祠へ、もう一度戻らねばなりません」

「そうか」


 アルブリー王は、それ以上引き止めることなく大きく頷いた。


「ならば行ってこい」

「父上。母上」

「なんだ?」


 リデルは何かを言おうとして、一度だけ口を閉じた。

 昨日までなら、きっと何も考えずに言えていた言葉だった。

 また帰ってくる。

 次も会える。

 そんなことは当たり前だと思っていた。

 ——けれど今は。


『この世界は……もうすぐ滅びます』


 スターウンディーネの言葉を知っている。だからこそ。


「……また戻ってきます。そしていつか父上を超え、アルブリー王国の歴史上、一番の名君になります!」


 いつものように、勢いだけで言ったわけではなかった。

 四堂悠太は、以前リデルが話していたことを思い出した。

 いつか父親を超える。

 そう口にしたリデルへ、アレクシアが尋ねたことがある。


『随分大きく出たな。お父上が聞いたら、何と言うだろう?』


 そのとき、リデルは迷うことなく答えていた。


『「よく言った!」と言うに決まっておる!』


 あのときは、いつものリデルらしい大きな夢だと思っていた。

 けれど今は、少し違う。

 この世界が、もうすぐ滅びるかもしれない。

 そんな言葉を聞いてしまったあとで、それでもリデルは未来の話をしている。

 いつか、この国へ戻ってくる。

 父親を超え、王になる。

 その先にある未来を、まだ諦めていない。

 だからなのか、四堂悠太には、その言葉が以前よりもずっと強く聞こえた。


「よく言った!」


 アルブリー王は、迷うことなく答えた。


(……本当に言った)


 思わず、四堂悠太は小さく笑いそうになった。

 リデルが言っていた通りだった。

 けれど、その笑いはすぐに別の感情へ変わった。

 アルブリー王は大きな手を娘の頭へ置き、力強く笑っている。

 その姿を見ていると、ただ娘の大きな夢を喜んでいるだけには見えなかった。

 ——その未来まで、必ず辿り着け。

 そんな思いまで込められているような気がした。


「無事に戻ってこい」

「身体には気をつけるのよ」


 王妃も、娘へ優しく声をかけた。


「……はい!」


 今度は、少しだけいつものリデルらしい声だった。

 黄褐色の猫耳がぴんと立つ。

 アルブリー王は満足そうに頷くと、今度は四堂悠太たちへ視線を向けた。


「シドー殿。ルティナ殿。アレクシア殿」

「はい」

「娘を頼む」


 一瞬だけ、四堂悠太は言葉に詰まりそうになった。

 けれど。


「はい」


 まっすぐ頷いた。


「任せてください」


 ルティナも答える。


「必ず、無事に戻ります」


 アレクシアも力強く言った。


「うむ。頼んだぞ」


 アルブリー王が頷く。


「それと、リデル」

「なんでしょう?」

「次に帰ってきた時には、今度こそ魔王がどうなったのか聞かせてもらうぞ」

「覚えています! 覚えておりますとも!」

「だったら早く倒してこい」

「順番があるのです‼」


(……そこは絶対に忘れないんだ)


 さっきまでほんの少しだけ重くなっていた別れの空気も、それで少し和らいだ。

 やがて四人は馬車へ乗り込む。


「お気をつけて!」

「リデライン様、お気をつけて。ご無事の帰還をお待ちしております!」

「うむ!」


 リデルは窓から身を乗り出すようにして、大きく手を振った。

 馬車がゆっくりと動き始め、城門が離れていく。

 アルブリー王と王妃の姿も、見送りに来た兵士や家臣たちの姿も、少しずつ、小さくなっていく。

 それでもリデルは、しばらく後ろを振り返ったままだった。

 四堂悠太は、何も言わずにその横顔を見ていた。

 不安がなくなったわけではない。

 スターウンディーネの言葉を忘れたわけでもない。

 けれど昨日、父親と母親に会った。懐かしい城の者たちにも会った。

 笑って、食事をして、また戻ってくると、自分の口で言った。

 守りたいものを、改めて目の前で見ることができた。

 だからなのかもしれない。

 サランセルゴ共和国の騎士団と別れたときよりも、今のリデルの顔には、ほんの少しだけ前を向く強さが戻っているように見えた。

 やがてリデルが、ゆっくりと前へ向き直った。

 四堂悠太も、馬車の進む先へ視線を戻す。

 向かう先は、土の精霊の祠。


(……ノーム)


 一晩が経った。

 自分たちがアルブリー王たちと過ごしている間、スターノームもきっと、自分なりの答えを探していたはずだ。

 戦うのか。

 戦わないのか。

 エレメントのために、自分は何をしたいのか。

 どんな答えを出したのかは、まだ分からないけれど。


(どんな答えでも、ちゃんと聞こう)


 四堂悠太たちを乗せた馬車は、再び土の精霊の祠へ向かって走り始めた。

小説を読んでくださって、ありがとうございます。


ブクマ登録、評価、リアクションなどをくださって、嬉しいです、いつも励まされています。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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