第百五十九話 国王と領主と、秘密の人材派遣
一通りの話が終わったあと。
「ルティナ殿。少しいいか?」
アルブリー王が、周囲に聞こえない程度に声を落とした。
「はい」
ルティナが答える。
ちょうどその頃、リデルは久しぶりに会った城の者たちに囲まれていた。アレクシアはリデルの隣にいた。
「リデライン様、お元気そうで何よりです」
「少しお痩せになられましたか?」
「そうか? むしろ食べすぎておる気がするのじゃが」
楽しそうに話しているリデルを確認してから、ルティナはアルブリー王へ近づいた。
「シドーさんも、こちらへ」
「僕も?」
「はい。シドーさんなら事情をご存じですから」
「……あ」
そこで四堂悠太にも、何の話か分かった。
三人はリデルから少し離れ、声を潜める。
「そういえば、ルティナ殿」
アルブリー王が、さらに声を潜める。
「そなたがこちらへ送ってくれた者たちだが、皆よく働いておるぞ」
「……それは良かったです」
ルティナの表情が、僅かに緩んだ。
「今のところ、大きな問題も起きておらん。それどころか、こちらとしても随分助かっておる」
「やはり、まだ人手が足りませんか?」
「うむ。魔王軍の襲撃で、この国だけでなく、サランセルゴ共和国やヴィンラント連合でも多くの街や建物が被害を受けたからな。復興のため、大型建造物を造れる職人への需要は、以前とは比べものにならんほど増えておる」
アルブリー王国は、獣人たちの優れた身体能力を生かした大型建造物の建築を、古くから得意としている。
現在では自国の建設だけでなく、サランセルゴ共和国やヴィンラント連合にも職人を派遣し、その技術を提供している。そのため、各地で復興が進む今は仕事が増える一方で、それを担う人手が慢性的に不足していた。
そこへルティナが、目をつけたのだ。
(……そういうことか)
働き手を必要としている場所なら、他にもある。
だが、サランセルゴ共和国では、一人の人間だけで国全体の方針を決めることはできない。ヴィンラント連合も同様で、複数の領主たちとの調整が必要になる。
その点、アルブリー王国なら、国王本人と交渉することができる。
しかも、アルブリー王がどんな人物なのかも、ルティナは知っている。
堅苦しいことを嫌い、身分に頓着しない、庶民派の王。
何か問題が起きたときにも、慣習だけにこだわらず、現実的な解決方法を選ぶことが多い人物。
刑期の残っている者たちを、働き手として受け入れてもらう。
一見すれば変わった提案でも、まず話を聞いてくれると考えたのだろう。
人手を必要としている国。
働く場所を必要としている刑期労働者。
そして、直接交渉できる相手。
ルティナは全部を見たうえで、一番話が通りそうな場所を選んでいた。
(……この人、僕たちと旅してる間に、どこまで領主の仕事してるんだ……)
「ありがとうございます。こちらとしても、刑期を終えるまで働ける場所として彼らを受け入れていただけて、本当に助かっています」
そう言いながら、ルティナはちらりとリデルとアレクシアの方を確認した。
城の者たちに囲まれたリデルたちは、こちらの話にはまったく気づいていない。
(……やっぱり、完全に秘密なんだな)
本人から大して離れてもいない場所で、国をまたいだ刑期労働者の受け入れについて話している。
(これ、リデルにばれたら……)
少し考える。
(……僕まで共犯者扱いされるよね)
できれば巻き込まれたくなかった。
もう十分、巻き込まれている気もするが。
(……というか、ルティナに「こちらへ」って言われた時点で、断れなかった。断れるわけがないんだよな、あの笑顔には……)
「それと」
アルブリー王が、急に表情を明るくした。
「ブルーム殿は元気か?」
「はい。相変わらずです」
「そうか!」
先ほどまで刑期労働者について話していた人物とは思えないほど、声が弾んだ。
「また、あの男とは酒を酌み交わしたいものだ。なかなか気の合う男だった!」
(刑期労働者の報告と、飲み友達の近況確認が同じ密談で出てくるんだ……)
四堂悠太は、何とも言えない気持ちになった。
「ブルーム公も、陛下との宴会を楽しんでおられましたよ」
「本当か!」
「はい。陛下がお帰りになってからは、ガルダさんやヘンリルさんとも、よく三人で酒を酌み交わしているそうです」
「そうか、そうか!」
アルブリー王が、嬉しそうに笑う。
「次にリューベックへ来られた時には、ぜひ」
「うむ。楽しみにしておこう」
さっきまで国をまたいだ人員配置について話していたとは思えないほど、すっかり飲み会の話になっている。
(そういえば、この人……『儂は堅苦しい席は性に合わん』って言ってたな)
だからこそ、ブルーム公とも身分を気にすることなく、あっという間に意気投合したのだろう。
国王。
領主の影武者で、元ホームレス。
家臣。
立場は違っても、酒を飲めば気の合う友人。
(……なんか、アルブリー王らしいな)
四堂悠太は、楽しそうに笑う王を見ながら、小さく頬を緩めた。
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