第百五十八話 ところで、魔王はどうなった?
「ところで」
アルブリー王が、急に表情を引き締めた。
「お前は魔王を討伐しに行ったはずだな」
「……はい」
「魔王はどうなった?」
(……やっぱりそこ聞くよね)
四堂悠太は、思わず苦笑した。
リューベックではルティナが、ヴィクターに聞かれたらしい。
サランセルゴ共和国でも聞かれた。
そして今度は、アルブリー王国。
旅の目的が魔王討伐なのだから、聞かれて当然ではある。
むしろ、聞かれない方がおかしい。
「……まだ倒しておりません」
「まだなのか⁉」
「父上! 我らも遊び歩いておるわけではありません!」
「分かっておる! だが、魔王を倒しに出た娘が久しぶりに帰ってきたと思ったら、肝心の魔王がまだ倒されておらんのだぞ。気にもなるわ!」
(……それは確かに)
反論しづらい。
「そのことについては、私から説明します」
ルティナが、一歩前へ出た。
魔王軍による侵略は、現在止まっていること。
かつて敵だった魔王軍の三幹部とは、より大きな脅威に対抗するため、今は共闘関係にあること。
そして現在は、各地にある精霊の祠で起きている異変を調べていること。
ルティナは必要なことだけを選びながら、順を追って説明していった。
隣で聞いていた四堂悠太は、少しだけ苦笑する。
(この説明、何回目だろう……)
しかも、話すたびに内容が増えている。
最初は「魔王を倒しに行く」で済んでいたはずなのに、今では魔王軍の幹部と手を組み、魔法少女たちと戦いながら精霊の祠を巡っている。
一通り聞き終えたアルブリー王は、太い腕を組んだ。
「……つまり」
「はい」
「魔王はまだ倒しておらん」
「はい」
「だが今は、魔王より先に対処せねばならぬ問題が起きている」
「その通りです」
「そのために、元魔王軍幹部とまで手を組んでおる」
「はい」
「…………」
アルブリー王は、しばらく黙った。
やがて、大きく息を吐く。
「……お主ら、旅に出るたびに話が大きくなっておらんか?」
(それは僕も思います)
四堂悠太は、心の中で深く頷いた。
最初は、ダークキングを倒せば終わると思っていた。それがいつの間にか——。
魔王軍三幹部と共闘。
魔法少女と戦闘。
精霊の祠を巡って世界規模の異変を調査。
もしこれがラノベだったらと、四堂悠太は考えた。
(……あらすじだけ聞いたら、話のテコ入れか何かで、途中で作者が路線変更したと思われそうだな)
「まあ、事情は分かった」
アルブリー王は、四人を順番に見回した。
「お前たちが、意味もなく寄り道をしているわけではないこともな」
「当然です!」
リデルが胸を張った。
ようやく、いつもの元気が少し戻ってきたようだった。
だが。
(……アルブリー王には、話した方がいいのかな)
ふと、別の考えが浮かんだ。
スターウンディーネから聞いた言葉。
『この世界は……もうすぐ滅びます』
一国の王ならば、知っておくべきことなのかもしれない。
もし本当に世界規模の異変が起きるのなら、避難場所の確保や食料の備蓄、軍の準備など、国としてできることもあるはずだ。
四堂悠太は一瞬、口を開きかけた。
けれど、言葉は出なかった。
何がこの世界を滅ぼすのか。
いつ起きるのか。
本当に止められないのか。
そもそも、スターウンディーネが語った「滅び」が、具体的に何を意味するのか。
まだ、何一つ分かっていない。
そんな状態で、
『この世界は、もうすぐ滅びます』
その一言だけを国王へ伝えても、いたずらに混乱を広げるだけかもしれない。
(……今は、まだ早いか)
スターノームが戦うと決めれば、もう一度戦うことになる。
そこで決着をつけることができれば、その先でスターエレメント本人に会える。
エレメントなら、きっと真相を知っている。
世界に何が起ころうとしているのか。
なぜスターナイツが、その前に世界を壊そうとしているのか。
そして、それを止める方法があるのか。
少なくとも、それくらいは確かめてから話した方がいい。
(もし、ノームが戦わないって決めたら……そのときは、そのときで別の方法を考えよう)
四堂悠太は、そう決めた。
「そういえば、父上!」
リデルが、ふと思い出したように声を上げた。
「なんだ?」
「ガルダとヘンリルにも会いました」
「……二人に?」
「はい! リューベックの街で、二人とも元気にしておりました」
アルブリー王の表情が、僅かに変わった。
「二人とも、しっかり街を守っておりました。父上から任された役目も、きちんと果たしておりましたよ」
「……そうか」
短い言葉だった。
だが、その声にははっきりと安堵が混じっていた。
「あやつらなら、任せた役目を投げ出すようなことはせんと思っていたが……そうか。元気であったか」
「はい!」
「それは良かった」
アルブリー王は、嬉しそうに笑った。
その顔を見て、リデルも少しだけ誇らしそうに笑う。
二人は今ここにはいない。
それでも、遠く離れたリューベックで元気に暮らし、自分の役目を果たしている。
四堂悠太は、その親子の様子を眺めながら、胸の奥が僅かに温かくなるのを感じた。
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