第百五十話 その『後』まで、辿り着こう
三人の視線が、四堂悠太へ集まった。
「エレメントが……諦めたとは、どうしても思えないんだ」
「諦めた?」
リデルが首を傾げる。
「うん」
「もし本当に、この世界がもうすぐ滅びるとして。しかも、その運命を変えることができないって知っていたとしても……エレメントが『じゃあ仕方ない』って諦めるとは思えない」
「そこまで言い切れるのか?」
アレクシアの問いに、四堂悠太は迷わず頷いた。
「言い切れるよ」
七年間、何度も見てきた。
『魔法少女スターナイツ』の中で、エレメントは何度も絶望的な状況へ追い込まれていた。
自分たちでは敵わないほど強大な相手を前にしたこともある。
世界を救うには力が足りないと、笑われたこともあった。
それでも、エレメントは立ち上がった。
『お前たちに何ができる? お前たちは無力だ』
かつて敵からそう突きつけられたときも、エレメントは怯むことなく相手を真っ直ぐに見返した。
『私に何ができるかじゃないよ。この世界の人たちの力になりたい。それだけだから。私たちは、絶対に諦めない‼』
(……そういう子なんだ)
勝ち目がなくても、立ち止まらない。
自分たちの力ではどうにもならないと言われても、それなら今できることを探す。
最初から「無理だ」と決めつけて、背を向けるような少女ではなかった。
「だから僕は、エレメントが『運命だから仕方ない』って諦めたとは思えない。それに——」
四堂悠太は、焚火の向こうにいる三人を見る。
「『どうせ世界は滅びるんだから、自分たちで壊してしまおう』なんて考える子でもない」
その言葉には、自信があった。
未来を予知する力がないことも知っている。
そして、それ以上に。
エレメントが、どんな少女なのかを知っている。
七年間、彼女を見続けてきたのだから。
「では……」
ルティナが静かに口を開いた。
「スターエレメントさんが世界を壊そうとしているのは、諦めた結果ではない、ということですね」
「……うん。僕は、そう思う」
「世界が滅びると信じている。それでも諦めてはいない。その上で、他の魔法少女たちにも世界を壊すよう頼んでいる……」
ルティナは、そこまで言うと口を閉じた。
焚火の炎が、青い瞳に小さく映っている。
「そう考えれば、少なくとも一つだけ分かります」
「何?」
「スターエレメントさんにとって、世界を壊すことは、諦めた結果ではない。何かを変えるために、必要なことなのかもしれません」
「……そうか」
四堂悠太は、焚火を見つめた。
自然に世界が滅びることと。
その前に、魔法少女たちが自分たちの手で世界を壊すこと。
同じではなく、その違いに、何か意味がある。
そこまでは四人で考えることができた。
「じゃが、その意味が分からぬな」
リデルが首を傾げる。
「……うん」
四堂悠太は頷いた。
世界を壊すことで、何が変わるのか。
なぜ、そのことを自分たちに隠しているのか。
そもそも、本当に何がこの世界に起きようとしているのか。
そこから先の答えは、まだ見えない。
「シドーさん」
「うん?」
「では、今の私たちにできることはありますか?」
「…………」
すぐには答えられなかった。
けれど、その言葉を聞いた瞬間、四堂悠太の頭に一人の魔法少女の言葉が蘇った。
スターシルフ。
彼女は、最後にこう言っていた。
『私たち全員と決着をつけたら、エレメントが直接会うって。……それまでは、光の精霊エレメントの祠には来ないでほしいって』
「……待って」
「どうしました?」
「エレメントに、会える」
三人が四堂悠太を見る。
「シルフが言ってたんだ。スターナイツ全員と決着をつけたら、エレメントが直接会うって」
「……そういえば、そんなことを言っておったな」
リデルも思い出したように頷いた。
四堂悠太は、さらに以前のことを思い返す。
エレメントが、自分たちの前へ現れたとき、敵として対峙しながらも、彼女は確かに言っていた。
——詳しい話は、後で。
(……後で)
あのときは、何の話をするつもりなのか分からなかった。
けれど今なら。
(全部……話してくれるのかもしれない)
世界に何が起きようとしているのか。
なぜスターナイツは、その前に世界を壊そうとしているのか。
どうしてエレメントは、それを知っているのか。
そして。
彼女たちは、一体何をしようとしているのか。
「次は、スターノームだ」
四堂悠太は顔を上げた。
「まずスターノームに会って、少しでも話を聞く。それでも分からなかったら……」
一度、言葉を切る。
「エレメント本人に聞けばいい」
「そうですね」
ルティナが、力強く頷いた。
「スターノームさんとの決着がつけば、少なくともスターエレメントさんと直接話せるところまでは進めます。今やるべきことは、はっきりしましたね」
「あぁ」
アレクシアも頷く。
「何が起きようとしているにせよ、立ち止まっている時間はない」
「うむ!」
リデルも少しだけ表情を明るくした。
「ならば、まずはスターノームじゃ。その次はエレメント本人に、全部聞けばよい!」
「……うん」
四堂悠太は、小さく笑った。
答えは、まだ何一つ見つかっていない。
世界が本当に滅びるのかも。もしそうなら、その原因が何なのかも。スターナイツが何をしようとしているのかも。
何も分からない。
けれど、どこへ向かえばいいのかだけは分かった。
(まずは、スターノーム)
そして、その先には。
(……エレメント)
——詳しい話は、後で。
エレメントがそう言ったのなら。
(その『後』まで、辿り着こう)
四堂悠太は、そう心の中で呟いた。
しばらく、誰も口を開かなかった。
ぱちぱちと、焚火の火だけが静かにはぜている。
やがてリデルが、大きく息を吐いた。
「……よし!」
「どうしたの?」
「分からぬことは、エレメント本人に聞く。明日はスターノームに会う。そこまで決まったのなら、今夜これ以上考えても仕方あるまい」
「まぁ……そうだね」
「うむ。ならば、我は寝る!」
「急だなぁ」
「明日の英気を養うのも立派な戦いの準備じゃ!」
「それは間違ってないけど……」
リデルはさっさと毛布へ潜り込んだ。
「おやすみ、シドー」
「……おやすみ」
さっきまで世界の終わりについて話していたとは思えない切り替えの早さだった。
「リデルさんらしいですね」
ルティナが小さく笑う。
アレクシアも、僅かに口元を緩めた。
ほんの少しだけ、重く沈んでいた空気が和らいだ。
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