第百四十九話 敵とは限らないのではないでしょうか
「一度、整理しても良いでしょうか」
「うん」
四堂悠太が頷くと、ルティナは少し考えるように視線を焚火へ戻した。
「まず、スターウンディーネさんは、『この世界はもうすぐ滅びる』と本気で信じている」
「ああ」
「フェイラさんが確認してくれたのは、そこまででしたね」
「うん。世界が本当に滅びるのかまでは、まだ分からない。でも、ウンディーネが僕たちを騙そうとして言ったわけじゃない」
あのとき、スターウンディーネは明らかに動揺していた。
自分が口にしてしまった言葉に気づき、真っ青になった。
そして最後に、
——エレメント。
——ごめんなさい。
そう呟いた。
「となると、スターエレメントさんも、この話を知っている可能性が高いですね」
「……僕もそう思う」
「ですが、シドーさんのお話では、スターエレメントさんには未来を知る能力はない」
「うん。少なくとも、『魔法少女スターナイツ』では一度もなかったよ。エレメントだけじゃない。他の魔法少女たちも、妖精のねこニャンだって、そんな力は持っていなかった」
未来予知。
未来へ行く力。
過去へ戻る力。
時間そのものを操るような能力。
少なくとも、四堂悠太の知る『魔法少女スターナイツ』には、そのどれも存在しなかった。
「では、なぜスターエレメントさんは、この世界が滅びると知っているのでしょう」
「……それが分からない」
何度考えても、そこから先へ進めなかった。
「そもそも、何が世界を滅ぼすのかも分かってないんだよね」
「魔王軍ではないのじゃろう?」
それまで黙っていたリデルが、口を開いた。
「うん。三幹部はもう僕たちの味方だ。それにウンディーネは、『私たちが壊さなくても』って言った。だから、この世界が滅びる原因そのものが、スターナイツってわけでもない」
「ならば、別の敵がいるということか?」
アレクシアが、焚火を見つめたまま尋ねる。
「その可能性はあると思う。ただ……」
四堂悠太は、首を傾げた。
「今まで、それらしいものは一度も見てないんだよね」
この世界を滅ぼせるほど強大な敵が、どこかにいる。
そう考えれば分かりやすい。
けれど、それほどの存在が本当にいるのなら、これまで何の兆候もなかったことが、どこか不自然にも思えた。
「敵とは限らないのではないでしょうか」
ルティナが静かに言った。
「え?」
「世界が滅びると聞けば、どうしても誰かが滅ぼすものだと考えてしまいます。でも、原因が生き物だとは限りません」
(……そうか)
言われて初めて気づいた。
四堂悠太はずっと、「世界が滅びる」と聞いて、何か倒すべき相手がいるのだと思い込んでいた。どうやらRPGをやり込みすぎたらしい。
「……確かに」
天変地異かもしれない。
この世界に満ちている魔力に、何らかの異常が起きるのかもしれない。
あるいは、世界そのものに、自分たちの知らない問題があるのかもしれない。
(……そう考えると、余計に分からなくなるな)
答えを探しているはずなのに、考えるほど可能性ばかりが増えていく。
それでも、ルティナは落ち着いたまま続けた。
「ただ、一つ。どうしても不自然なことがあります」
「何?」
「なぜ魔法少女たちは、この世界を自分たちの手で壊そうとしているのでしょう」
「……それは、我も気になっておった」
リデルが眉を寄せる。
「もし、放っておいても滅びるのなら、わざわざ自分たちで壊す必要などないではないか」
「そうなんだよ」
四堂悠太は、思わず身を乗り出した。
そこが、一番おかしい。
「シルフも、サラマンダーも、ウンディーネも……この世界を壊したくて戦ってるようには見えなかった」
スターシルフは、自分の正義とエレメントへの想いの間で苦しんでいた。
スターサラマンダーも、世界を壊すことを楽しんでいたわけではない。
スターウンディーネも、ずっと何かを押し殺すように戦っていた。
「『どうせ滅びるんだから、先に壊してしまおう』なんて考える子たちじゃない」
それだけは、四堂悠太には確信があった。
七年間、彼女たちを見てきたのだから。
「ならば……」
アレクシアが、ゆっくりと言葉を続ける。
「自然に滅びるのと、魔法少女たちが自分たちの手で世界を壊すのとでは、何かが違うということか」
「……あ」
四堂悠太は、思わず顔を上げた。
言われて初めて、その二つが一つにつながった。
「そっか。結果が違うんだ」
「結果?」
「どっちも世界がなくなるから、同じことだと思ってた。でも、同じじゃないなら……」
自然に世界が滅びることと。
その前に、エレメントたちが自分たちの手で世界を壊すこと。
「……結果が違うから、エレメントたちは先に世界を壊そうとしてる?」
「おそらくそうでしょう」
ルティナが頷いた。
「そうでなければ、彼女たちがこれほど苦しみながら戦う理由がありません」
ぱちっ、と焚火がはぜた。
一瞬だけ大きくなった炎が、四人の顔を照らす。
同じように世界がなくなる。
けれど、その二つは本当に同じなのだろうか。
自然に世界が滅びることと。
その前に、エレメントたちが自分たちの手で世界を壊すこと。
もし、その違いにこそ意味があるのだとしたら——。
「……それと」
四堂悠太は、焚火を見つめたまま小さく呟いた。
「僕には、どうしても引っかかることがある」
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