↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
148/165

第百四十七話 また、か

 翌朝、四堂悠太たちは、サランセルゴ共和国中央騎士団を後にすることになった。

 次の目的地は、土の精霊の祠。

 そこには四人目の魔法少女——スターノームがいる。

 水の精霊の祠を調べ終えたのだから、次の祠へ向かう。予定だけを見れば、これまでと何も変わらない旅の続きだった。

 けれど、四堂悠太には昨日までとは何もかもが違って見えた。


「アレクシア先輩、本当にもう行っちゃうんですか?」

「あぁ。次に調べなければならない場所があるからな」


 騎士団の正門前には、見送りに来た騎士たちが集まっていた。昨日、アレクシアの周りを取り囲んでいた若い騎士たちも、その中にいる。


「今度戻ってきたら、本当に稽古つけてくださいよ!」

「分かった。日々の鍛錬を怠っていなければな」

「それ、昨日も言われました!」

「ならば、二度言われるだけの理由があるということだ」

「ひどい!」


 周囲から笑い声が上がった。

 アレクシアも、呆れたような顔をしながら、僅かに口元を緩めている。

 四堂悠太は、その光景を少し離れた場所から眺めていた。


(……やっぱり、ここにいるときのアレクシアって、少し違うな)


 旅の途中でも、アレクシアが笑うことはある。けれど、騎士団の人々に囲まれている時の彼女は、ほんの少しだけ肩の力が抜けているように見えた。

 この場所で育った。

 この人たちに剣を教わった。

 泣いているときには、何も言わず隣にいてもらった。

 そんな時間を積み重ねて、今のアレクシアがいる。

 だから昨日、世界が平和になったら、この場所へ戻って騎士になりたいと話していたのだ。


(……戻れるよね)


 そう思った瞬間、胸の奥が僅かに冷えた。

 ——この世界は、もうすぐ滅びます。

 スターウンディーネの声が、嫌でも蘇る。


「シドー?」

「……え?」


 不意に名前を呼ばれ、四堂悠太は顔を上げた。

 騎士団長が、こちらを見ている。


「どうした。昨日から、随分と難しい顔をしているな」

「あ……」


 四堂悠太は、一瞬だけ言葉に詰まった。

 ——この世界は、もうすぐ滅びるらしいです。

 そんなことを、今ここで話していいのだろうか。

 世界が本当に滅びるのかは、まだ分からない。

 ただ、スターウンディーネ自身は、それを本気で信じている。

 なぜ滅びるのかも。

 いつ滅びるのかも。

 何一つ分かっていない。

 今話したところで、いたずらに不安を広げるだけのような気がした。


「……少し、考えなきゃいけないことが増えただけです」

「そうか」


 騎士団長は、それ以上問い詰めなかった。


「なら、確かめてこい」

「え?」

「お前たちには、まだ向かう場所があるのだろう。分からんことを、分からんままここで考えていても仕方がない」

「…………」


 何が起きたのか知らないはずなのに、不思議と今の自分たちに必要なことを言われた気がした。


「……はい」


 四堂悠太は、小さく頷く。


「行ってきます」

「あぁ」


 その隣では、アレクシアも騎士団長の前へ立っていた。


「団長」

「なんだ」

「……また戻ります」


 一瞬だけ、騎士団長が黙った。

 それから、いつもの落ち着いた表情で答える。


「好きにしろ。お前の席くらい空けておいてやると言っただろう」

「ありがとうございます」

「ただし、のんびりしていると、次の団長候補は別の者に決まっているかもしれんぞ」

「構いません。見習いからでもやり直します」

「だから……そういう意味ではない」

「……?」

「本気で首を傾げるな」


 再び周囲から笑い声が上がった。

 そんな他愛のないやり取りを聞いていると、ほんの少しだけ、昨日までと同じ日常に戻ったような気がした。

 世界が滅びるかもしれない。

 そんな話を聞いた翌朝でも、人は笑う。

 いつもと同じように話し、いつもと同じように誰かを見送る。

 そのことが、四堂悠太には少しだけ救いに思えた。

 やがて四人は馬車へ乗り込んだ。


「アレクシア先輩!」


 若い騎士の一人が、大きく手を振る。


「また来てくださいね!」

「あぁ!」


 御者台のアレクシアが振り返り、片手を上げた。


「またねー!」


 別の騎士が、笑いながら叫ぶ。

 馬車がゆっくりと動き出した。

 正門が遠ざかり、見送りに来ていた騎士たちの姿も、少しずつ小さくなっていく。


(……また、か)


 何でもない言葉だった。

 今日別れても、また会える。

 次があると信じているから、誰もが当たり前のように口にできる言葉だ。

 四堂悠太だって、昨日までなら何も考えずに「またね」と返していただろう。

 けれど今は、その一言が妙に胸に残った。

 また会える。

 もう一度、この場所へ帰ってこられる。

 昨日までは、そんな未来を疑う理由なんてなかった。

 アレクシアも、騎士団の建物が見えなくなるまで、何度も後ろを振り返っていた。

小説を読んでくださって、ありがとうございます。


ブクマ登録や評価、リアクションなどを頂けて、とても嬉しく励みになっています。

本筋を邪魔しないように、ギャグを入れていきます。これからもどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。