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第百四十六話 最後まで足掻くよ

 フェイラの光が消えたあとも、しばらく誰も動かなかった。


「……世界が、滅びる」


 リデルが呟いた。

 今度は、その言葉を簡単に否定できる者はいなかった。


「スターウンディーネの言葉通りだとすれば……」


 ルティナが、ゆっくりと口を開く。


「私たちはこれまで、魔法少女たちがこの世界を滅ぼそうとしているのだと思っていました」

「あぁ」


 アレクシアが低い声で答える。


「だが、違った」

「……はい。魔法少女たちが何もしなくても、この世界は滅びることになります」


 再び、沈黙が落ちた。

 四堂悠太は、三人の顔を見る。

 リデルは不安を隠し切れずにいた。

 アレクシアはいつものように毅然として立っているが、握り締められた拳は僅かに震えている。

 ルティナも、何か答えを探そうとしているのだろう。それでも今は、何も見つけられないようだった。

 無理もない。

 昨日まで、三人は世界が平和になった後の未来を話していた。

 リデルは王になる。

 アレクシアは騎士に戻る。

 ルティナはリューベックの領主になる。

 ようやく、それぞれが自分の未来を選んだばかりなのだ。

 その未来そのものが、突然なくなるかもしれないと言われた。


「……まだ、何も分からない」


 三人が、四堂悠太を見る。


「何が起きるのかも分からない。どうすれば止められるのかも分からない。ウンディーネが言ったことが本当だったとしても、今の僕には対策なんて一つも思いつかない」


 自分でも、ひどく頼りない言葉だと思った。

 それでも、言わなければならなかった。


「でも……そんなの、絶対にさせないから」


 四堂悠太は、三人を見た。


「シドー……」

「この世界が滅びるって決まってるなら、その決まってる未来を変える方法を探す」


 根拠なんてない。できる保証もない。

 ——それでも。


「最後まで足掻くよ。僕は、この世界をなくしたくない」


 しばらく悠太を見つめていたリデルが、小さく息を吐いた。


「……そうじゃな」


 そして、いつものように胸を張る。


「我は、アルブリー王国の王になると、幼い頃よりずっと決めておった。勝手に世界ごと消されてたまるものか」


 アレクシアも、握っていた拳から少しだけ力を抜いた。


「ああ。私も、もう一度騎士として生きると決めた。まだ何も分かっていないのなら、諦める理由もない」

「そうですね」


 ルティナも、静かに頷いた。


「私にも、リューベックの街でやりたいことがあります。何も始めないうちに世界がなくなるなんて、困ります」


 少しだけ、いつものルティナらしい言い方だった。

 四堂悠太は、思わず小さく笑った。


「……うん」


 三人とも、自分で選んだ未来を諦めるつもりはない。

 ならば、考えよう。

 何も分からないからこそ、分かるまで調べるしかない。

 スターウンディーネが残した言葉には、あまりにも多くの謎がある。


(まず……どうしてエレメントは、この世界が滅びることを知っている?)


 スターウンディーネは最後に、

 ——エレメント。

 ——ごめんなさい。

 そう言った。

 あの反応を見る限り、この話をエレメントも知っていると考えるのが自然だ。

 だが、どうやって。

 四堂悠太は『魔法少女スターナイツ』を何度も見てきた。

 エレメントに未来を予知する力はない。

 未来へ行く力も、過去へ戻る力もない。

 ならば、彼女たちは何を知っている。


(それに……何が、この世界を滅ぼすんだ?)


 三幹部は、もう敵ではない。

 ストームも、サンダーも、ブリザードも、自分たちの味方になった。

 魔法少女たちさえ止めれば、それで世界は救えると思っていた。

 だが、もしスターウンディーネの言葉どおりなら、それでは終わらない。

 彼女たちが何もしなくても、世界は滅びることになる。

 ならば、この世界には、まだ自分たちの知らない何かがあるのか。


(新しい敵がいる……?)


 三幹部よりも、魔法少女スターナイツよりも、さらに強大な何かが、この世界のどこかに存在しているのだろうか。

 あるいは、これから現れるのかもしれない。

 けれど今のところ、それらしい存在は一度も見ていない。

 世界を滅ぼせるほどの敵がいるのなら、何か兆候があってもよさそうなものなのに。


(……何が来るんだ?)


 考えても、答えは出ない。

 そして、もう一つ。

 どうしても納得できないことがあった。


(だったら……どうしてスターナイツは、この世界を壊そうとしてるんだ?)


 放っておいても滅びる世界を、自分たちの手で先に壊す。

 そんな必要が、どこにある。

 ましてやスターシルフも、スターサラマンダーも、スターウンディーネも、本心からこの世界を壊したがっているようには見えなかった。


(「どうせ滅びるんだから壊しちゃえ」なんて考える子たちじゃない)


 それだけは、四堂悠太が誰よりもよく知っている。


(……じゃあ、なんで?)


 考えても、答えは出なかった。

 それだけではない。

 スターウンディーネは秘密を漏らしたと気づいた瞬間、真っ青になった。

 そして、エレメントへ謝った。


(……どうして隠す必要がある?)


 自分たちに知られては困るのか。

 それとも——。


(……僕に知られたくなかった?)


 そこまで考えた瞬間、妙な感覚が胸に残った。

 なぜ自分なのか。

 そんなことを考える理由すら、まだ分からない。

 そして、「もうすぐ」とは、いつなのか。

 明日なのか。

 一週間後なのか。

 一か月後なのか。

 それとも、何かが起きた瞬間なのか。

 世界が滅びるほどの出来事が迫っているというのに、その兆候はどこにも見えない。

 誰も知らないまま、何かの期限だけが近づいているのだとしたら。


(何が、きっかけになるんだ……?)


 考えれば考えるほど、分からないことばかり増えていく。

 世界が滅びる理由。

 スターナイツが世界を壊そうとする理由。

 それを知りながら、エレメントが何も話さない理由。

 まだ、何一つ分からない。

 それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。

 四堂悠太は、水の流れる祠の奥を見つめた。


(……エレメント。君たちは、何を知ってるんだ?)

小説を読んでくださってありがとうございます。


ブクマ登録や、評価、リアクションなどをくださって、嬉しいです、ありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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