表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/17

第十三話 十五階層の魔法

 リューベックの門を出て歩いていくと、ルティナが言った通り、強そうな魔物と何度か遭遇した。

 強いではなく、強そうとしか言えないのは、——見た目からして強そうな魔物であっても、ルティナとアレクシアとリデルの三人が、あっという間に片づけてしまうからだ。なので、敵の強さがいまいち分からない。


(まぁ昨日、魔物の中で最強部類のレッドドラゴンを簡単に倒してたし……、どんな魔物でも三人の敵ではないんだろうけど)


 それにしても、冒険者がほとんど寄り付かないせいで、凶悪そうな魔物がごろごろいる。ヴィクターたちだったら、間違いなく逃げるか激闘になるかのどちらかだっただろう。


「なるべく無駄な戦闘は回避しましょう。一本道なので、魔王軍とすれ違いになることはないでしょうけど」


 ルティナの提案で、最低限の戦闘しかしないで進んでいたが、リューベックを出ると荒野が広がっていて、隠れて進む場所がほとんどなかった。

 結果、遭遇した魔物たちとほとんど戦うことになったのだが、——毎度瞬殺だった。

 百獣の王リデルの怪力で振り回すハンマーは、一撃で半径五メートルくらいを木端微塵にした。絶対防御のアレクシアは、敵がどんな攻撃を仕掛けてきても全て防いで、こちらのダメージは0だ。底なし魔力のルティナも、今回は治癒魔法を使う必要がないため、補助魔法や攻撃魔法を使って敵を倒した。


(もしかしてルティナって、ヒーラーじゃなくて、何でも使える魔法スペシャリストなのかな? ゲームっぽく言えば、賢者とかセージとか)


 ルティナが使った攻撃魔法の威力が、ヒーラーとは思えない凄まじかったから、そんなことを考えた。そう言えば朝会ったときに、十五階層の魔法全て使えると言っていた気がする。


「ルティナって、この世界の魔法全部使えるって聞いたんだけど、本当?」

「……えぇ、まぁ。でも正確に言えば、現存する魔法の全てです」


 ルティナの言葉を頭の中で反復していて、大変なことに気づいた。


「現存する魔法の全て……って、まさか……今はもう失われた古代魔法とかがあったの⁉」


(失われた古代魔法……。何てロマンがあるんだろう)


 久しぶりにワナビ脳が発動した。あまりに勢いよく質問したので、ルティナが引いている。


「失われた古代魔法なんて、そんな格好いいものじゃないですよ。昔子どもの頃に、エルフの長老が、使い勝手が悪すぎて、いつしか誰にも使われなくなってしまった魔法があると教えてくれたことがあります」

「そっ、それはどんな魔法なの⁉」

「いや……使い勝手が悪すぎて廃れた魔法なんて、興味ありませんから、聞いていません。私が魔法を求めるのは、あくまで実用性があるからです」


 そう言って、ルティナは興味なさげに杖の先を弄った。


「そうは言うけどもっ、そういう言われ方をする魔法に限って、実はすごーく使えたりするんだよ‼ もし今度長老に会う機会があったら、是非聞いてみて! いや、是非聞いてみたいです、お願いします‼」


 四堂悠太が懇願すると、引きつった笑顔で、ルティナはうなずいた。


「は、はい。よく分かりませんけど、機会がありましたら……」

「シドーよ……。とうの昔に滅んだ魔法なんぞより、今使える魔法の習得の方が大事ではないのか?」


 気づくとリデルまでが、呆れた目で見ていた。


(……でも、使い勝手が悪くて誰にも使われなくなった魔法か。何だか、忘れられた僕の黒歴史小説と、ちょっと似てるな)


「そっ、そうだよね! 今使える魔法と言えば、ルティナが使ったさっきの魔法なんだけど……、もしかして十五階層の魔法だったの⁉」


 ルティナの魔法で、魔物は爆風に巻き込まれ吹き飛んでいた。


(現代の魔法もすごい‼)


「いえ、あれは八階層の魔法です。精霊と契約した十階層以上の魔法は、確かに強いのですが、燃費が悪くエコではないので、滅多に使いません。呪文の詠唱も必要で、時間のロスもありますし」


 ルティナは笑って言った。


(あの威力で八階層か……。十五階層はどれ程とんでもないんだろう……)


「ルティナにとって重要なのは燃費と時短だからな。十階層以上の魔法を全コンプリートしたのも、実用性がどうのと言いつつ、結局趣味だろう?」


 アレクシアに言われても、ルティナは相変わらず笑っていた。

 そういえば、仲間を生死ギリギリのところで戦わせるのが趣味だとルティナは言っていた。


(本当のところ、弱めの魔法を使うのも、エコではなく趣味なのでは……)


「全くルティナのエコ好きにも困ったものだな!」


 アレクシアとリデルは毎度のことだからか、豪快に笑い飛ばしている。


(傷ついた人が、ギリギリ生死の境を彷徨うのを見るのが大好きなんです……って言ってたけど、二人には絶対言えないな‼)


 背中を預けたヒーラーがそんなこと考えているなんて、怖すぎる。エコでやってると勘違いしている方が幸せだろう。アレクシアとリデルに、ちょっと憐れみを覚えた。


「シドー……。何か言いたげじゃが?」

「えっ……⁉ あ、いや……、十五階層のすごい魔法も見てみたいかなって……」


 動物的な勘が働いたのか、リデルは何か感づいたらしい。咄嗟にそれらしい言い訳をしたけど、十五階層の魔法を見てみたいのは本当だ。


「そうか。シドーは、魔法を知らないのだったな。ならば、今後の魔法開花のためにも、強い魔法を見せてやるのはどうだ? ルティナ。百聞は一見に如かずと言うしな」


 アレクシアが、提案してくれたが、

「十五階層の魔法を見せるのですか? ……呪文も長くて時間が掛かりますし、魔力はごっそりなくなりますし、効率悪いですよ?」

 ルティナは嫌そうにしている。


「効率だのエコだの我には解せぬ。獅子はネズミをとらえるにも全力を尽くす。ルティナもたまには、そういう戦い方をしても良かろう。何より、ぶっ放すと気持ち良いしな!」


(やっぱり、いつも全力でぶっ放してたんだな。そんで気持ち良かったんだ……)


「ふぅ……、でもアレクシアさんの言う通り、魔法を開花させるためには、実物を見た方が良いのかもしれませんね。幸いこの辺りは荒野で、壊れるものもないですし……良いですよ」


(おぉ‼ 見せてくれるんだ‼)


 自分の作品の中で、強い魔法はたくさん書いてきたけど、本物の魔法を見るのはもちろん初めてだ。しかも、この世界で最強の十五階層の魔法だ。


(目に焼き付けて、是非今後の描写の参考に……‼ くぅぅぅ、ここにノートとペンでもあれば‼)


 ついまた、ワナビ脳に戻っていた。もう小説は書かないと決めたのに、そのことに気付かないほど、嬉しくて興奮してしまった。

 話しながら道を歩いていたら、折よく魔物がこちらに向かってくるのが見えた。頭は牛で、体は人間、筋骨隆々のうえ、体長が三メートル以上はありそうだ。黒光りしていて硬そうな皮膚が全身を包んでいる。半端な攻撃は通らなそうだし、その硬くて大きな体で突進でもされれば、簡単に全員吹っ飛びそうだ。


(あれは多分……ミノタウロスかな)


 自分の作品にも描いたことがあったから、何となく予想がついた。


「丁度よく現れてくれましたね。あのミノタウロスに、火の精霊サラマンダーと契約した十五階層の魔法をうちます。皆さんは少し下がっていてください」


(やっぱりミノタウロスで合ってた)


 ルティナが立ち止まって杖を構え、真剣な表情で言った。残った全員は無言でうなずいて、数歩後ろに下がった。


「炎の精霊との誓約に従い、深淵より来たれ、全てを焼き尽くす地獄の火焔インフェルノ。

空間は湾曲し、記憶の残響に在りしボルケーノフレイムは、灼熱の檻となる。

紅蓮の業火に包まれ、久遠の煉獄にて運命の審判を待て。

ブラッディクリムゾンは混沌を。カイザーフェニックスは破滅を。終末ラグナロクに終焉を。閃光のレクイエムを聴きながらうたかたに眠れ」


(思ってたより呪文、長いうえに痛々しい……)


 ルティナがやりたがらなかった理由はもしかして、この恥ずかしい呪文を言いたくなかったからじゃないだろうか。自分だったら真顔で、あんな恥ずかしい呪文は唱えられない。

 しかし——、ルティナが呪文を唱え終えた瞬間、ふっ、と音が消えた。

 風も、虫の声も、何もかもが止まったような、奇妙な静寂。


(……え?)


 次の瞬間、ルティナの杖の先で、空間そのものが陽炎のように歪んだ。


(うわ、待って……何だ、今の……‼)


 目に焼き付けなければと思うのに、その歪みが弾けた瞬間には、もう直径一キロメートルはあろうかという爆炎が視界いっぱいに広がっていた。熱波が数歩下がっていた四堂たちの頬を叩き、爆風で髪と服が激しくはためく。ドォンという轟音は、音というより衝撃そのものとして腹に響いた。


(すごい、すごすぎる……‼ このスケール感、どう書けば……いや、そもそも「爆発」なんて一言で片づけていい規模じゃ……‼)


 描写の参考にしようと目を凝らしたのに、あまりの規模に言葉が追いつかない。頭の中で必死に語彙を探しても、どれも陳腐に思えて、結局何も掴めなかった。

 ミノタウロスは声を上げる間もなく、その中で消し炭になって、跡形もなく消えた。

 ここが荒野でなかったら、辺り一帯が火の海になっていた。後ろに下がっていなかったら、全員が巻き込まれるところだった。

 呪文は恥ずかしいけど、魔法の威力は凄まじい。


「すごい……。これが十五階層の魔法……」


 茫然としながら、それだけ言うのがやっとだった。描写の参考のためにじっくり観察する余裕なんて、全くなかった。


「完全にオーバーキルでしたね。魔力の無駄遣いをしてしまいましたけど、何か参考になりましたか?」


 ルティナは、真っ赤な顔をして言った。多分、オーバーキルや魔力の無駄遣いが嫌なんじゃなく、あの痛々しい呪文が恥ずかしかったんだろうな。


「物凄い迫力で……、ただただ圧倒されて……」


 そんな恥ずかしい思いまでしてくれたのに、新たな魔法が覚醒したような気配はない。みんなの期待に応えられない。そう考えたら、落ち込んでしまった。


「まぁ、この世界に存在しない魔法なのですから、そんなすぐに使えるようにはなりませんね。焦らずいきましょう」


 ルティナは少し残念そうな顔をしたけど、すぐに笑顔になった。


「そうじゃ。これからフェモンの街を見に行けば、何らかの手掛かりが得られるやもしれぬ」

「それでもダメなら、エルフの長老に会いに行くという手立ても残っている。何度だめでも、絶対に諦めず試していこう」


 リデルとアレクシアが、励ましてくれた。


(何度だめでも、絶対に諦めない……か)


 四堂悠太はふと、スターエレメントのことを思い出した。

こんな程度で落ち込んでいたら、彼女に笑われてしまう。

 この世界に来てまだ三日しか経っていないけど、毎日かかさず「魔法少女スターナイツ」を視聴していた生活が、もうないのだ。たった三日会っていないだけで、こんなにも寂しいなんて。この世界で暮らしていくということは、もう永遠にスターエレメントに会えないということだ。


 気付くと、心の中で大好きなスターエレメントに話しかけていた。


(もし……スターエレメントと同じように、この世界を救うことができたら……、もう一度君に会いたいな……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ