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小説家志望、異世界に転生する ~僕の黒歴史キャラが異世界を救う~  作者: 赤いたぬき
第三章 魔法少女たちの正義と、僕の大切なもの
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第百二十五話 これは完全に、逆効果です

食事を終えた後、四堂悠太が周囲を気にするようにしながら、こっそりルティナのそばへ近づいてきた。


「ルティナ、これ」


 差し出されたのは、ずっしりとした金貨袋だった。ルティナはそれを受け取り、静かに中身を確認する。


「……金貨二百枚、ですね」

「うん。……言わなかったよ、ちゃんと」


 四堂悠太は、少し困ったように笑った。


「でも、本当のことを言えば良いのに。アレクシア、ルティナが思ってるみたいなこと、言わないと思うよ」


 その言葉に、ルティナはすぐには答えなかった。


(……言えたら、どんなに楽でしょう)


 自分がアレクシアの賭博で失った金を、ずっと陰で補填してきたこと。リデルとアレクシアが自分らしく生きられるように、そのためだけにリューベックの領主となってきたこと。全部話してしまえば、もう隠す必要はなくなる。

 だが、それはルティナが望んでいることではなかった。


(アレクシアさんが知ったら、きっと困らせてしまいます)


 借りたものは返そうとする。受けた恩には報いようとする。自分のために誰かが大きな負担を背負っていたと知れば、今度はそれを気にして、自分を抑えてしまうかもしれない。そんなアレクシアは、ルティナの望むアレクシアではなかった。

 ——そして何より。


(……全部知られたら、きっと嫌われてしまいます)


 それだけは、どうしても避けたかった。


「……ありがとうございます。でも、良いんです」


 ルティナは、いつものように静かに微笑んだ。


「アレクシアさんは……気づいていない方が、幸せだと思います。彼女らしく、真っ直ぐに、自分の信じる道を歩いていてほしい。……私が、それを望んでいるんです」

「……ルティナ」


 四堂悠太は何か言いかけたようだったが、結局それ以上は何も言わなかった。そのことが、少しだけありがたかった。


「アレクシアさん、すっきりした顔をしていましたね」


 ルティナは金貨袋を見ながら、そう言った。


「……うん」

「ずっと借金を気にしていたのでしょう。自分の力で返せたと思っているなら、それで十分です」


 ルティナは金貨袋を鞄へしまった。


(これで良いんです)


 そう思った。少なくとも、このときまでは。


「それより、シドーさん」

「うん?」

「今日は本当にお疲れ様でした。……色々、大変だったのでは?」

「まぁ……色々あったよ」


 四堂悠太が、苦笑しながら答える。賭博場で妙な賭けに巻き込まれ、危うく大きな借金を背負うところだったこと。四堂悠太が賭けの仕掛けを見抜き、最後にはアレクシアだけでなく他の参加者たちまで救ったこと。ミアという迷子の少女をフィーネまで送り届けるだけのはずが、随分と大変な一日になったらしい。

 ルティナは、少しだけ迷った。


(本当なら、こんなことまで言う必要はない)


 それなのに——。


「……シドーさん」

「うん?」

「私、シドーさんがいてくれて、良かったと思っています」


 口にしてから、ルティナ自身が少し驚いた。こんなふうに素直な気持ちをそのまま伝えたのは、これまでほとんどなかった気がする。


「アレクシアさんのことも、ミアちゃんのことも……。私一人では、きっとこうはいきませんでした」

「……そんなことないよ。ルティナがいてくれるから、僕も動けてるんだし」

「……そうでしょうか」


 思っていたよりも真っ直ぐに返されて、ルティナは少し困ってしまった。四堂悠太は、こういうところがずるい。本人には、きっと何の自覚もないのだろう。ただ思ったことを、そのまま口にしているだけなのだ。だからこそ、余計に困る。


(……今日だけは、少し素直になりすぎましたね)


 これ以上は良くない。そう思いながらも、口元には自然と笑みが浮かんでいた。


「……ありがとうございます、シドーさん」


 気づけば、二人の距離がいつもより近くなっていた。


(……いけません)


 ルティナは我に返り、慌ててその場から立ち上がろうとした。その瞬間、足元に置いてあった荷物へつま先を引っかけた。


「……っ」


 身体が前へ傾く。咄嗟に何かへ掴まろうとしたが、間に合わなかった。次の瞬間、ルティナの頬に触れたのは、床ではなく柔らかな布地だった。


「……ルティナ?」

「…………」


 顔を上げることができなかった。四堂悠太の胸に、完全に顔を埋めていた。


(な、なんで……‼)


 頭の中が、一瞬で真っ白になった。


(自分を抑えようと思って離れようとしたのに、どうして逆に近づいているんですか……‼)


「……ルティナ、大丈夫?」

「……はい。申し訳ありません」


 ようやくそれだけ言うと、ルティナは慌てて身体を離した。俯いたまま、自分の席へ戻るふりをする。顔が熱い。おそらく、頬どころか耳まで赤くなっている。


(落ち着いてください。転んだだけです。たまたまシドーさんがそこにいただけです。何もありません。何も——。……なぜ言い聞かせれば言い聞かせるほど、意識してしまうのでしょう。これは完全に逆効果です)


「本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫です!」


 思ったより大きな声が出てしまった。四堂悠太が少し驚いたような顔をしたので、今度は別の意味で恥ずかしくなる。


「……そっか。なら良かった」


 四堂悠太はそれ以上追及せず、自分の席へ戻っていった。その背中を見送りながら、ルティナはそっと自分の頬へ手を当てた。まだ、全然冷めていない。


(……今のままが良いと思ったのに)


 四堂悠太との距離も。リデルやアレクシアとの関係も。何も変えず、このまま皆で旅を続けられれば、それで良いと思っていた。余計な感情など、表に出さなければいい。そう思っていたはずなのに。


(自分を抑えようとしたら……逆効果になりました)


 ルティナは小さく息を吐いた。いつものにこにこした笑顔は、しばらく戻ってきそうになかった。


***


 翌朝。四人は宿場町を出て、再び旅を始めた。


「次は、サランセルゴ共和国だな」


 歩きながら、アレクシアが静かに言った。その視線は、遠く南の方角へ向けられている。


「……アレクシアの故郷か」


 リデルが呟く。


「あぁ」


 アレクシアは、それだけ答えた。短い返事だったが、その横顔はいつもと少し違って見えた。懐かしそうでもあり、どこか緊張しているようでもある。


「大丈夫か?」


 四堂悠太が尋ねると、アレクシアは静かに頷いた。


「……あぁ。大丈夫だ」


 ルティナも、今は尋ねなかった。話したくなれば、きっとアレクシア自身から話してくれる。

 朝の光の中、四人の影が長く道へ伸びていた。

小説を読んでくださって、ありがとうございます。


ブクマ登録や評価、リアクションなどを頂いて、とても嬉しいです。

本当に皆様に助けられております。感謝でいっぱいです。

これからもどうぞよろしくお願い致します。

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