第百二十四話 秘密の返済と、アレクシアが勝った
フィーネの街を出て、宿場町へ向かう道を歩きながら、アレクシアが口を開いた。
「……シドー」
「うん」
「この金貨二百枚は、お前に返す」
アレクシアは、ずっしりと重い金貨袋を差し出した。
「以前、ヴィクター隊長から預かった生活費から借りた百枚。それと、今日お前から渡してもらった百枚だ。これで全部返したことになる」
「あ……うん」
四堂悠太は受け取りながら、危うく「いや実は……」と言いかけて、口を閉じた。
ルティナの顔が浮かんだ。
あの日の、笑顔なのに目が全く笑っていない、あの顔が。
——『もしシドーさんでも、あの二人を傷つけるようなことをしたら——私、許しませんよ? ……半分くらいは』
(……あれは半分冗談じゃなかった。絶対に言えない)
「……ありがとう、アレクシア」
四堂悠太は金貨二百枚を受け取りながら、心の中でルティナに向かって謝った。
(ごめん、ルティナ。本当はヴィクター隊長から預かった生活費だけじゃなくて、ルティナが領地運営して手に入れたお金も入ってたんだよな……)
アレクシアは、残った二十五枚の金貨を静かに見つめた。
「……ずっと気になっていたんだ」
ぽつりと、そう言った。
「借りたままにしているのが、騎士として情けなかった。今日、全部返せて良かった」
「うん」
(アレクシアは知らない。本当に返すべき相手が誰なのかを。……でも、それでいい)
四堂悠太は金貨袋を鞄にしまいながら、そっと思った。
(ルティナが、それを望んでいるから)
***
宿場町に着いたのは、すっかり日が暮れた頃だった。宿屋の前で、見慣れた顔が待っていた。
「遅かったのぅ‼ 何があったのじゃ‼」
リデルが、腕を組みながら言った。その腕に、包帯が巻かれている。
「……リデル、その腕」
「気にするな‼ 犬の噛み傷じゃ‼ これは勲章じゃ‼」
リデルが、胸を張って言った。
「ルティナに治してもらえば良かったのに」
「要らぬ‼ これはあ奴との絆の証じゃ‼」
「絆の証で流血するな……」
アレクシアが、呆れたように言った。
「ルティナたちは?」
「中で待っておる。早く入れ、腹が減って仕方ない!」
***
宿屋の食堂に入ると、ルティナが席についていた。四堂悠太とアレクシアの姿を見て、ほっと息を吐いた。
「ご無事で、良かったです。……何かあったのですか? 少し遅かったので」
「色々あって」
四堂悠太が、曖昧に答えた。アレクシアも、視線を逸らしながら言った。
「……フィーネの街で、少し寄り道をした」
「賭博場ですか?」
ルティナが、すかさず聞いた。アレクシアが、真っ赤になった。
「そ、それは……」
「まぁ、ご無事なら——」
そこで、ルティナの視線が、四堂悠太の持つ金貨袋に止まった。明らかに、いつもより膨らんでいる。
「……シドーさん、その袋」
「あ……うん」
「……もしかして」
ルティナが、アレクシアを見た。
「アレクシアさん、今日の賭けは……」
「あぁ。……少し、勝った」
ルティナの目が、珍しく丸くなった。
「……アレクシアさんが、勝ったのですか?」
「あぁ」
「……何枚ですか?」
「二百二十五枚だ」
「…………」
ルティナは、しばらく絶句していた。これまで、どんな状況でも動じることのなかったルティナが、口をぱくぱくさせている。
「……どうやって」
「シドーが、策を考えてくれた」
アレクシアが、さらりと言った。ルティナの視線が、今度は四堂悠太に向いた。
「……シドーさんが?」
「まぁ……色々あって」
四堂悠太が、苦笑しながら答えた。
ルティナは、四堂悠太とアレクシアを交互に見てから、静かに息を吐いた。
「……詳しくは、聞かない方が良さそうですね」
「うん、その方がいいと思う」
四堂悠太が、すかさず答えた。
リデルが、肉を頬張りながら言った。
「にしても、アレクシアが賭けで勝つとは‼ 我も驚いたぞ‼」
「……私も、驚いている」
アレクシアが、真顔で言った。
食堂に、小さな笑いが起きた。
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