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小説家志望、異世界に転生する ~僕の黒歴史キャラが異世界を救う~  作者: 赤いたぬき
第三章 魔法少女たちの正義と、僕の大切なもの
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第百二十二話 頼む——と、全部、分かった

 アレクシアは、もう一度自分の手札を見た。


「……見ての通りだ。私は、こういう状況に慣れていないわけではないが……今回は、少し、負けたときの規模が違う」


 アレクシアが、珍しく声を落とした。


(赤が三枚……。最悪のスタートだ)


「うん。そうだね」

「負けた場合、参加費を合わせて金貨二百枚。……手持ちは、足りるのか?」

「……足りない」

「……そうか」


 アレクシアが、覚悟を決めたように言った。


「足りない分は……装備で、それでも足りなければ労働で返すしかないな」


(労働……)


 嫌な未来が、四堂悠太の脳裏に浮かんだ。

 皿洗い。

 薪割り。

 荷運び。

 そして、宿場町で待ち続けるリデルとルティナ。


『シドーとアレクシアは、いつになったら来るのじゃ』

『さあ……賭博で負けて、借金返済のために働いているのでは』

『……いつまでじゃ?』

『さあ……』


(駄目だ。絶対に駄目だ)


 そんなことで旅の日程を何週間、下手をすれば何か月も狂わせるわけにはいかない。

 アレクシアも同じことを考えたのだろう。

 しばらく三枚の赤いカードを見つめたあと、四堂悠太へ顔を向けた。


「シドー」

「なに?」

「頼む」


 短い一言だった。

 ——その瞬間。

 四堂悠太の中で、何かが切り替わった。


 ※四堂悠太の特殊能力「魂の記憶(レコーディング・メモリー)」。七年間のワナビ生活によって独自に会得した能力。ただし本人に自覚はなく、発動条件も不明。なお、本人が必要とするときに発動するとは限らない。発動頻度は諸般の事情により制限されている。


(……こんな使えない能力、いらないと思うんだけど)


 四堂悠太は、心の中でそっとそう思った。


(さて……。まず状況を整理する)


 四堂悠太は、室内をゆっくりと見渡した。


(参加者は十人。一人三枚で、合計三十枚のカードが配られた。賭け主は五色のカードを一枚ずつ見せてからシャッフルした。……参加者はみんな、五色が均等に入っていると思い込んでいる。でも、均等に配ると言ったか? 言っていない。見せただけだ)


 四堂悠太は、賭け主の説明を頭の中で繰り返した。


(五色のカードが三十枚ある、とは言った。でも、何色が何枚入っているかは、一切言っていない)


 ゲームが始まると、参加者たちは一斉にカードの交換を始めた。


「一枚交換しませんか?」

「お願いします!」

「こちらも交換してくれ!」


 互いにカードを裏向きにし、一枚ずつ交換していく。

 もちろん、赤三枚のアレクシアも積極的に動いた。

 今より悪くなることはない。

 そう思っていたはずだった。


「……赤だ」


 一枚交換して、赤。

 もう一度交換する。


「……また赤だ」


 さらに交換。


「どうしてまた赤なんだ⁉」

「すごいね、アレクシア」

「何がだ!」

「……これだけ引き続けられるって、ある意味すごくない? 確率的に、普通じゃないと思う」

「そんな才能はいらん!」


 しかし、妙なのはアレクシアだけではなかった。

 ほかの参加者たちも、やけに赤いカードばかりを持っている。

 その中で、突然一人の中年男性が声を上げた。


「青だ!」


 周囲の視線が、一斉に男へ集まる。

 男の手札は、赤、赤、青。


「本当に赤以外のカードが入っていたのか!」

「だったら、まだ勝てるぞ!」


 参加者たちの空気が変わった。

 さらに、先ほどから積極的に交換を繰り返していた女も、青いカードを持っていることが分かった。


「私も青よ。あと一色なのに、なかなか来ないわね」


 その女も、周囲の参加者と同じように困った顔をしている。

 少なくとも、この時点では、四堂悠太にも普通の参加者にしか見えなかった。

 青いカードは二枚。

 ならば、緑や黄色、紫も誰かが持っているはずだ。

 そう思ったのだろう。参加者たちは、それまで以上に積極的に交換を始めた。


「残り四十分です!」


 賭け主が、よく通る声で叫ぶ。


「三色揃えれば金貨七百枚! まだまだ十分に間に合いますよ!」


 赤いカードが、次々とテーブルの上を行き交っていく。

 四堂悠太は、その光景を眺めながら、わずかな違和感を覚えていた。


(……赤が多すぎないか?)


 赤は、危険や警告を知らせるためによく使われる色だ。

 もちろん、赤いものを見れば必ず冷静さを失う、などという単純な話ではない。

 ただ、すでに参加費の五十枚を支払っているうえ、負ければさらに百五十枚。

 時間も刻一刻と減っている。

 そんな状況で、目に入るカードまで赤ばかりなら、焦りを強める材料にはなるかもしれない。


(……なんか、頭が勝手に動いてる。これ、僕が考えてるんだよな……?)


「残り三十分です!」


 再び、賭け主の声が響く。


「賞金は金貨七百枚ですよ! 七百枚!」


(……七百枚、か)


 四堂悠太は、中央に置かれた大きな看板を見る。

 最初に参加者へ見せられたのは、七百という大きな数字。

 その後になって、敗北時の追加負担は百五十枚だと知らされた。


(……なんか、これ、やり口が見えてきた気がする)


 最初から「負ければ合計二百枚失う」と言われれば警戒する者でも、先に七百枚という大きな利益を見せられれば、百五十枚という損失が相対的に小さく感じられることはある。

 しかも、すでに五十枚を支払っている。

 今さら引き返しても、その五十枚は戻らない。

 だから、続ける。

 さらに一般参加者の中には、青を持っている者が二人いる。

 赤、赤、青。

 必要なのは、あと一色だけ。


(あと一枚。もう少し交換すれば、勝てるかもしれない……)


 そう思わせるには、十分だった。

 そこで、四堂悠太の中に一つの疑問が浮かぶ。


(いや……もしかして逆なのか?)


 青は、一般参加者を勝たせるために入っているのではない。

 最後まで諦めさせないために——。

 四堂悠太は、参加者たちの動きを改めて観察した。

 その中に、やけに積極的に交換を続けている男女がいる。


「また駄目か……」

「私も。なかなか揃わないわね」


 二人とも困った顔をしながら、一般参加者と何度もカードを交換している。

 男と女同士で交換することもあるが、それだけではない。

 ほかの参加者とも普通に交換している。

 一見すれば、何もおかしくない。


(……でも)


 カードは、確かに動いている。

 参加者から参加者へ、何度も。

 それなのに——。


「残り十五分です!」


 その声を聞いた参加者たちの動きが、さらに慌ただしくなった。


「シドー!」


 アレクシアが四堂悠太のところへ戻ってくる。


「駄目だ。何度交換しても、赤から逃げられない!」

「アレクシア、一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「緑のカード、一度でも見た?」

「いや」

「黄色は?」

「見ていない」

「紫は?」

「それもない」

「……やっぱり」


 四堂悠太は、青を持っていた中年男性のところへ向かった。


「すみません。その青いカードって、誰かと交換して手に入れたんですか?」

「いや、最初から持っていたぞ」

「緑、黄色、紫のどれかを、一度でも持ったことは?」

「ないな」


 もう一人、青を持っていた女性にも確認する。

 答えは同じだった。

 青は最初から持っていた。

 そして、緑、黄色、紫は一度も見ていない。

 さらに残りの参加者たちにも聞いて回ると、全員が同じ答えを返した。

 誰一人として、ゲーム開始から今まで一度も、緑、黄、紫のカードを手にしていない。


「……そういうことか」


 四堂悠太は、ようやく仕組みに気づいた。

 さっきまで複雑に見えていたカードの流れが、一気に単純なものへ変わる。


「シドー?」

「アレクシア。もう無理に交換しなくていい」

「なに?」

「多分、何回交換しても勝てない」

「どういう意味だ?」

「あとで説明する。今は、このまま最後まで見ていよう」


 四堂悠太は、参加者たちの動きをじっと追った。

 まだ、決定的な証拠が欲しかった。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


ブクマ登録や評価、リアクションなどをしてくださって、本当に嬉しいです。

皆様のあたたかい応援のお陰で、書くスピードが上がり、ストックも貯まりましたので、今日は朝、昼、夜と、3回投稿できそうです。

引き続き、これからもよろしくお願いします。

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