第十一話 魔王軍三幹部
この章も、主人公視点ではありません。魔王軍幹部が視点になっています。少し読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いします。
黒い城があった。
元はエルフの国ヴィンラント連合の北西部に建つ、優美な白亜の城だったらしい。今は外装から内装、調度品にいたるまで、ことごとく漆黒に塗り替えられている。魔王軍の組織名「漆黒の闇」に相応しく ——というより、ただそれだけの理由で。
その城の一室で、魔王軍の三幹部が向かい合っていた。
「このままじゃ美しくない‼」
長い銀髪の美青年が、テーブルを叩いた。三幹部の一人、ブリザード。眉目秀麗な美貌の持ち主で、美しさこそがこの世で最も価値のあるものだと信じている。戦うときも常に美しい戦い方を心掛け、ときには勝敗より優先してしまうこともある男だ。
「美しくなくても構わんが、張り合いのある強敵がいなくてつまらん。世界の隅々まで探せば、俺に匹敵する強さを持つ者も、いるんじゃなかろうか」
腕を組んで唸るのはサンダー。筋骨隆々の中年男性で、その剛腕で、立ちはだかる敵を薙ぎ払ってきた。強さこそこの世で最も価値があると信じていて、美しさにこだわるブリザードとは諍いが絶えなかった。戦いに美しさなんていらない。圧倒的な力でねじ伏せ、確実に勝利することこそが、サンダーにとって至上だ。
「また二人の悪い癖が出始めましたね」
三人目のストームは、静かに溜息をついた。三幹部の中で、一番頭が切れる、冷静沈着な女性だ。美しさにこだわるブリザードも、強さにこだわるサンダーも、ストームの目には指令達成に無駄が多く映った。
——つまり、バカだ。
世界の半分を滅ぼした今日この頃。このまま続ければ、一年もかからず残りの半分を破壊できるだろう。魔王ダークキングの宿願達成まで、あと一歩。——なのに、何故か三人とも、その先へ進むことをためらっていた。
ストームたちは、ダークエナジーを注いで怪物を作ることができた。注がれた生物は「クライナー」と名を変え、元の姿とは比較にならないほど強大になる。細かい命令はできないが、生み出しておけば、力尽きるまで暴れて周囲を破壊し続ける。どれほど弱い生物であっても、クライナーになれば、並の戦士では歯が立たない。
この世界を滅ぼすには、それで十分だった。幹部自ら出撃せねばならないほど、強い敵がいない。実際もうここ数年、幹部の誰も戦場に出ていない。
バカ二人の言い分は分かる。では自分はどうなのだろう。
ストームには、気になっていることがあった。
少し前から単独で、黒いローブをまとって魔王軍幹部の姿を隠し、この世界の各地に潜入して情報収集をしていた。そこで、妙な少年と出会った。冒険者ギルドだったと記憶している。この世界の住人とは異なる服を着て、場に慣れていない様子で、周囲への警戒を怠らず、——まるでストームと同じように、情報を集めているように見えた。
掲示板に張り出された依頼を見る目が、やけに鋭かった。我々のことを、気にしていた。
つい、声をかけていた。
——近いうちにまたお会いするかもしれませんね、と。
確かなことでなければ信じないストームが、単なる勘でそう思ってしまっていた。
(計算できない存在って、不愉快ね……)
おかしな話だ。これまで何度この世界の住人と戦っても、互角に渡り合えた者は一人もいなかった。弱すぎた。だから、危惧することなんて、何もないはずなのに。
「今回レインボーランドを滅ぼすという御命令は、その後ダークキング様が、この地を統治なさるための布石のはず。それなのに、私たちが最速で世界を滅ぼしてしまったために、レインボーランドの情報があまり得られませんでした。世界を手中に収めた後に、勝手が分からず困るかもしれません。よって今後は、もう少し慎重に、原住民との交戦も積極的にこなし、情報を収集しながら、侵略していくべきでしょう」
ストームは一抹の不安を払拭するために、ブリザードやサンダーにも、情報収集を持ちかけた。多くの情報から、完璧な答えを導き出すのだ。そうすれば、計画に何の支障もないはずだ。
「ん? まさか、効率至上主義のストームが、ゆっくりやっていこうと言ったのか?」
サンダーが目を丸くした。
「効率至上主義だからこそ、丹念に情報を収集すべきだと言っているのです」
ストームは淡々と続けた。
「地形、天候、資源——レインボーランドのことが分かっていないようでは、統治に差し障りがありましょう。原住民と交戦するのは時間の無駄と判断してきましたが、情報を得るなら、一から調査するより、彼らに尋問して聞き出した方が確実で早い。美しい戦い方でも、強い奴を探しに行くでも何でも構いません。世界の情報も、きっちりもらってきてくださいね」
「とすると……長い間放置しておいた、境界の街か」
ブリザードの目が細くなった。
「リューベックとかいう街にある壊れた時計塔——美しいからこそ壊すのもまた美しい。私が行って壊してきても良いだろう?」
「原住民たちが勝手に膠着状態にあると思い込んで、守りを固めている街か。攻勢に転じようという気概のある奴もおらんようだし、わしは興味が沸かん」
「では、ブリザードのお手並み拝見といきましょう。有益な情報を期待していますよ」
サンダーとストームの了承を得て、ブリザードは不敵な笑みを浮かべた。
——次の瞬間、その姿は消えていた。
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