第百十七話 漆黒の闇と、世界を救い隊と、美意識の話
「そういえば、シドーとアレクシアはどうした? 姿が見えんが」
「リューベックの街に来る途中、迷子の女の子に会いました。二人は女の子を、フィーネの街まで送り届けにいきました」
「……そうか。元気ならいい。相変わらず人助けまでやって、感心なことだ」
「二人とも変わりありませんよ。それはそうとヴィクター隊長」
ルティナが、一歩前に出た。
「この方々は、私たちの仲間です。リューベックの街を守るために、力を貸してくださいます。……信じてもらえるかどうかは、これからの行動で示していただくことになりますが」
ヴィクターは、しばらくブリザードを睨みつけていた。それから、ゆっくりと息を吐いた。
「……コレット。お前が信じるなら、俺も信じる。だが、もし何かあったら——」
「何もありません」
コレットが、きっぱりと言った。
「……分かった」
ヴィクターは、渋々といった様子で頷いた。
「そこまで言うなら、俺も腹をくくろう。おまえたちを、正式に世界を救い隊の隊員として迎え入れる」
「……え?」
ブリザードが、露骨に嫌そうな顔をした。
「その、センスのかけらもない名前の組織に、私たちが入るのかい?」
「何だと⁉」
「いや、だって『世界を救い隊』だよ? 目的をそのまま名前にしただけじゃないか。もう少し、ひねりというものが欲しいね」
ブリザードは、大げさにため息をついた。
「それに比べて、ダークキング様が率いる『漆黒の闇』。響きも、字面も、実に美しい。名前を聞いただけで、どんな組織なのか想像が膨らむだろう?」
「真っ黒な組織だってことしか分からんわ‼」
ヴィクターが怒鳴った。
「……どちらも、もう少し考える余地はあると思いますけど」
コレットが、小さく呟いた。
「ん? 何か言ったか、コレット?」
「いえ、何も。……ただ、『世界を救い隊』という名前を初めて聞いたとき、私も少し、間がありましたので」
「コレット⁉ お前まで‼」
「でも今は、慣れました」
「慣れたって言い方も、なんか釈然としないな‼ 世界を救い隊の何が悪い⁉ 何をする組織なのか、一発で分かるだろうが‼」
「それが問題なんだよ。名前には、もう少し神秘性が必要なのさ」
「いらん‼ そんなもん‼」
「せめて『救世の暁』とか、『希望を紡ぐ者たち』とか……」
「勝手に改名するな‼ 嫌なら入らんでいい‼」
「……隊長」
ストームが、口を挟んだ。
「名称に関する議論は、後にしませんか。今は、リューベックの防衛と復興に協力することが先決かと」
「そうだぞ。わしは、強い敵と戦えるなら、名前など何でも構わん」
サンダーも、腕を組んで頷いた。
「ほら見ろ‼ お前だけだぞ、文句を言ってるのは‼」
「……まったく。美意識というものを理解しない連中ばかりだねぇ」
ブリザードは肩をすくめた。
「まあ、仕方ない。入隊はしてあげるよ。ただし、私がその名前を気に入ったわけじゃないからね」
「こっちだって、お前に気に入ってもらうためにつけた名前じゃねぇ‼」
ヴィクターは、深いため息をついた。
「……いいか。正式に迎え入れる以上、俺はお前たちを隊員として扱う。だが、過去のことまで水に流したわけじゃない。信頼できるかどうかは、これからの働きで判断させてもらうぞ」
「承知しました」
ストームが、頷いた。
「うむ。異存はない」
サンダーも、それに続く。
「はいはい。分かったよ、隊長」
ブリザードだけは、最後まで不満そうだった。
こうして、かつて世界を侵略していた三幹部は、正式に世界を救い隊の隊員となった。
——ただし、一名だけは、組織名に納得していなかった。
ひとしきり騒がしいやり取りが落ち着いたところで、ルティナが口を開いた。
「……あ、それと、ヴィクター隊長。もう一つお願いがあるんです」
「なんだ?」
「私たちが北の山の城で借りた馬車を、返しておいていただきたいんです。場所は、この辺りです」
そう言って、地図を広げた。
「馬車を返すんだな。分かった。この先はどうするんだ? サランセルゴ共和国に行って、さらに南下してアルブリー王国まで行くんだろう。徒歩じゃ時間がかかるし、移動が大変だ。リューベックの街にある馬車を使ったらどうだ?」
「そうですね……。そうさせて頂きます。良いですか、コレット副隊長?」
「えぇ、もちろん」
ふと、考え込んでいたヴィクターが呟いた。
「サランセルゴ共和国騎士団に、ヴィンラント連合魔導部隊、アルブリー王側近の用心棒に、世界を救い隊リューベック支部、そこへ魔王軍幹部まで加わって、リューベックの街に十分すぎる戦力が集まったな。これで街の防衛も、復興も、盤石のはずだ」
「……はずだ、という言い方が気になります」
ルティナが首を傾げた。
「ああ、ありがたい話なんだがな。なんでか知らんが、これだけ戦力が揃うと、逆に不安になってくる。俺の長年の勘が、嫌な予感しかしねえと言ってる」
「……統計的に見ても、戦力の集中と大規模な脅威の到来には、相関があります」
ストームが淡々と言った。
ルティナは、しばらく無言でいた。ヴィクターの勘なら、外れることもある。だが、ストームのデータが同じ結論を示しているなら、話は別だった。
「……備えておいた方が、良さそうですね」
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完結済みのヘレナ編も、今でもたくさんの方に読んでいただけていて、本当に嬉しいです。
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