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小説家志望、異世界に転生する ~僕の黒歴史キャラが異世界を救う~  作者: 赤いたぬき
第三章 魔法少女たちの正義と、僕の大切なもの
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第百十話 五穀豊穣・天地収穫斬と、ご飯は笑顔

 二人の間で、再び炎が弾けた。

 レッドは炎の拳を農具で受け流し、間合いを詰める。

 だが、スターサラマンダーも退かない。踏み込んでくるレッドを迎え撃ち、炎を纏った拳を次々と繰り出した。


「はあああっ‼」

「ぬおおおおっ‼」


 激しい攻防が続く。

 レッドのバトルスーツには、幾つもの焦げ跡が残っていた。それでも、彼の足は止まらない。

 やがて、レッドは大きく後方へ跳び、スターサラマンダーとの距離を取った。


「……よし。そろそろ決めるか!」


 レッドが、収穫鎌を思わせる農具を構え直した。


「創造主‼ 必殺技、見せてやる‼」

「うん、頼む‼」


 四堂悠太が拳を握り締める。

 レッドは大きく頷くと、農具を天高く掲げた。


「よし‼ コンバイン、合体‼」


 叫んだ瞬間、荒野に巨大な影が落ちた。

 どこからともなく、黄緑色のコンバインが現れたのだ。

 荒野には似つかわしくない農業機械が、地響きを立てて着地する。


「な、なんじゃ……あれは‼」


 リデルが、目を丸くした。


「……農業機械です」


 ストームが、珍しく困惑した様子で言った。

 その間にも、コンバインが変形を始めていた。


 アームが展開し、幾つもの刃が組み替わっていく。巨大な車体は光に包まれ、レッドの掲げた農具へと吸い込まれるように合体した。


「……農業機械ですか。また何だかよく分からないものが、武器に……」


 ルティナが、呆然とそう呟いた。


「なぜ、農業機械が武器に変形するのじゃ?」

「……私にも分かりません」


(僕にも分からない。書いたのは僕だけど……)


 四堂悠太は、思わず目を逸らした。


「地球のコンバインか。……懐かしいものを見るな」


 サンダーは腕を組んだまま、興味深そうに眺めていた。

 合体が完了したレッドの手には、巨大な収穫鎌が握られていた。

 コンバインの刃を組み込んだ、異形の武器。

 鋭い刃が陽光を受け、きらりと輝く。


「これが、俺たちスイハンジャーの力だ‼」


 レッドは収穫鎌を両手で構え、腰を落とした。

 先ほどまでの粘り強い戦い方とは違う。

 大きな一撃を放つため、全身の力を一点に集中させている。


(……来る)


 四堂悠太は、息を呑んだ。

 あの収穫鎌は、レッドの切り札だ。

 スターサラマンダーも、その力を感じ取ったのだろう。両拳に炎を凝縮させ、真っ直ぐにレッドを見据えた。


「……いいよ。全力で受けてみせる‼」


 炎が、激しく燃え上がる。


「フレアバースト‼」


 サラマンダーの両拳から、灼熱の奔流が放たれた。

 先ほどまでとは比べ物にならない炎が、荒野を焼きながらレッドへ迫る。

 レッドは退かなかった。

 収穫鎌を大きく振りかぶり、地面を踏み締める。


「行くぞおおおおっ‼」


 全身の力を刃に込めた。


「スイハンジャー・五穀豊穣・天地収穫斬‼‼‼」


 巨大な刃が、振り下ろされた。

 炎の奔流を、真っ向から斬り裂く。

 轟音とともに、炎が左右へ割れた。


「なっ……⁉」


 スターサラマンダーが目を見開く。

 レッドは勢いを殺さず、地面を蹴った。

 炎の間を駆け抜け、一気に間合いを詰める。


「……っ‼」


 スターサラマンダーは咄嗟に両腕を交差させた。

 だが、間に合わない。

 振り抜かれた収穫鎌が、彼女の身を包む炎を根元から刈り取るように薙いだ。

 光が、弾けた。

 荒野を覆っていた熱気が、静かに薄れていく。

 スターサラマンダーの両拳から、炎が消えた。


「……あぁ」


 彼女は、ほっとしたように息を吐いた。

 その体を、柔らかな浄化の光が包み込んでいく。


「この感じ……シルフが言ってたとおりだ」


 スターサラマンダーは自分の手を見つめ、小さく笑った。


「少しも、嫌じゃないな」


 やがて、顔を上げる。

 その視線は、四堂悠太へと向けられていた。


「……ねえ、四堂悠太」

「……何?」

「あたしさ。料理人になりたいって言ったら、笑われたんだ」


 スターサラマンダーは、静かに語り始めた。


「お前みたいにがさつで大雑把な奴が、料理なんかできるわけないって」


 少しだけ、困ったように笑う。


「……まぁ、否定はできないんだけどね。あたし、実際にがさつだし、大雑把だし」


 四堂悠太は、黙って耳を傾けていた。


「でも、料理は好きだったんだ。おいしいものを作って、誰かに食べてもらうのがさ」


 スターサラマンダーの表情が、柔らかくなる。


「エレメントだけは、笑わなかった」

「……エレメントが?」

「うん。あたしが初めて作ったご飯、ひどい出来だったんだよ」


 スターサラマンダーは、思い出したように苦笑した。


「焦げてるところもあれば、べちゃべちゃなところもあってさ。もう、見るからに失敗作」


 それでも、と彼女は続けた。


「エレメントは、全部食べてくれたんだ。ひと口も残さずに」


 スターサラマンダーの目が、遠くを見る。


「それで、笑って言ってくれたんだよ」


 彼女は、あの日の声を思い出すように、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「『ご飯がおいしいって、最高だね! 幸せになれる! きっとサラマンダーは、これからたくさんおいしいご飯を作って、食べた人を幸せにするんだね! ご飯は笑顔!』って」


 そこで、声が少し震えた。


「……あのときのエレメントの顔、忘れられないんだよね」


 浄化の光が、静かに揺れる。


「あたし、自分でも失敗したって分かってたんだ。でも、あの子は本当に嬉しそうに食べてくれた」


 スターサラマンダーは、そっと目を細めた。


「それが、嬉しくてさ……」


 四堂悠太は、何も言わずに聞いていた。


「あの顔を見たとき、思ったんだ。もっとおいしいご飯を作りたい。また、あの子に笑ってほしいって」


 スターサラマンダーは、自分の胸に手を当てた。


「……それが、あたしの本当の夢だったんだと思う」


(エレメント……)


 四堂悠太は、胸の奥が熱くなるのを感じた。


(君は、サラマンダーの夢も、ちゃんと信じていたんだ)


 スターサラマンダーは、ゆっくりと顔を上げた。


「だから、あたしは戦った。エレメントのためなら、世界を壊すことになっても……負けられなかった。……ねえ、四堂悠太」

「……うん」

「いつか、エレメントと一緒にご飯を食べてみてよ」


 スターサラマンダーは、いつもの明るい笑顔を浮かべた。


「あの子と一緒に食べるとさ、笑顔になれるんだ。きっと、最高においしいよ」

「……うん」


 四堂悠太は、小さく頷いた。


「エレメントは、あたしの夢を一番信じてくれた子だから」


 スターサラマンダーの体を包む光が、少しずつ強くなる。


「あんたにも、いる? 自分のことを信じてくれる奴」


 四堂悠太は、すぐには答えられなかった。

 脳裏に、仲間たちの顔が浮かぶ。

 リデル。

 アレクシア。

 ルティナ。

 ストーム。

 そして——エレメント。

 みんな、何度も自分を支えてくれた。

 自分が何もできないと落ち込んでいたときも、もう戦えないと思っていたときも。

 それでも、信じてくれた。


「……うん」


 四堂悠太は、スターサラマンダーを真っ直ぐに見た。


「いるよ。……僕のことを、信じてくれる人たちが」

「そっか。……なら、頑張りな」


 スターサラマンダーは、満足そうに笑った。

 彼女を包んでいた浄化の光が、ゆっくりと薄れていく。

 やがて、光は完全に消えた。

 スターサラマンダーはその場に立ったまま、四堂悠太を見つめていた。


「……エレメントのこと、頼んだよ」


 そう言って、いつものように明るく笑う。

 次の瞬間、彼女の体が、淡い炎に包まれた。

 赤みがかったピンク色の髪が、ゆらゆらと、炎のように揺れる。


「じゃあね、四堂悠太!」


 スターサラマンダーは軽く手を振ると、自らを包む炎とともに、まるで陽炎に溶けるように、荒野の彼方へと消えていった。

 炎が収まり、辺りに静寂が戻る。

 勝った。

 スターサラマンダーを浄化することもできた。

 それなのに、胸の奥に残っているのは、勝利の喜びとは少し違う感情だった。

 スターシルフも、スターサラマンダーも、本心から自分たちと戦いたがっていたようには思えない。

 それは、四堂悠太自身も同じだった。

 できることなら、戦いたくなかった。

 そして二人とも、最後にはスターエレメントのことを自分へ託していった。


(……どうして、僕たちはスターナイツと戦わなきゃいけないんだ)


 どちらも、誰かを救うために戦っていたはずなのに。

 今は、その少女たちと自分が、敵として向かい合っている。

 戦いには勝った。

 負けずに済んだことにも、みんなが無事だったことにも、心から安堵している。

 ——けれど。

 四堂悠太は、自分がこの勝利を、手放しでは喜べないことに気づいた。

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