第百八話 お釜戦隊スイハンジャー、参上‼
四堂悠太は、その一連の動きを呆然と見つめていた。
(……すごい)
スターサラマンダーの力を正面から受けず、進む方向を変え、足場を崩して隙を作った。
誰か一人の力ではない。五人の動きが、次々につながっている。
(僕も……早く、タイトルを思い出さなきゃ)
頭の中を、必死に探る。
(稲作……田んぼ……コンバイン……お釜……ご飯……戦隊……五人……赤……)
そこまで浮かんでいるのに、肝心の名前が出てこない。
(何でだよ……! あと少しなのに‼)
「へぇ……やるじゃん」
スターサラマンダーが、先ほど砕かれた岩へ目を向けた。
「前回の戦い方とは、ずいぶん違うね」
「同じ手を、二度も使うつもりはありません」
「そっか。……じゃあ、あたしも同じ手には乗らないよ‼」
スターサラマンダーが地面を蹴った。
今度は真っ直ぐ突っ込んでこない。
岩壁を蹴って跳び上がり、頭上からアレクシアへ迫る。
「上だ‼」
アレクシアが盾を掲げる。
しかし、スターサラマンダーの狙いは盾ではなかった。
「フレアタックル‼」
炎を纏った体が、盾の脇をかすめるように急降下する。
「くっ……‼」
アレクシアは身をよじって直撃を避けた。それでも熱風に煽られ、地面を転がる。
「アレクシア‼」
リデルが駆け寄ろうとした。
「そっちは行かせないよ!」
スターサラマンダーが着地と同時に振り向き、炎の拳を繰り出す。
リデルはハンマーの柄で受け止めた。
衝撃に足が滑る。
「ぐぬっ……‼」
「前みたいに、数で押してくるならともかくさ!」
スターサラマンダーは、さらに踏み込んだ。
「一人ずつ動きを見れば、ちゃんと対応できるんだよ‼」
連続する拳。
リデルはハンマーで必死に防ぐが、攻撃のたびに後ろへ押し込まれていく。
「リデル、下がってください!」
ストームが横風を放つ。
だがスターサラマンダーは、その瞬間を待っていた。
「……また、それだね!」
風に逆らわず、横へ跳ぶ。
ストームの攻撃をかわし、そのままルティナへ向き直った。
「次は、あんた‼」
「……っ!」
ルティナが咄嗟に結界を展開した。
炎の拳が結界に突き刺さる。
甲高い音とともに、表面へ亀裂が走った。
「くっ……!」
「ルティナ‼」
アレクシアが立ち上がり、盾を構えて駆ける。
だが、間に合わない。
「もう一発‼」
スターサラマンダーが拳を振りかぶった。
「……ぬんっ‼」
横合いから、サンダーの拳が割って入った。
炎の拳と激突し、衝撃が周囲の砂を吹き飛ばす。
「この娘ばかり狙わせはせんぞ‼」
「くっ……! ほんっと、しつこいね‼」
スターサラマンダーが舌打ちし、再び距離を取る。
五人はどうにか態勢を立て直した。
だが、最初の連携で作った余裕は、もうない。
アレクシアは片膝をつき、盾を持つ腕を押さえている。
リデルは肩で息をし、サンダーも拳を開いたり閉じたりしながら、痛みを確かめていた。
ストームの額には汗が浮かんでいる。
ルティナは亀裂の入った結界を維持しながら、杖を握り直した。
(……まずい)
四堂悠太の胸が、ぎゅっと締め付けられる。
(みんな、僕のために時間を稼いでくれてるのに……)
もう一度、頭の中を探る。
(二作目……中一のとき……ワークギアーの次に書いた……。田舎の青年が……五人で……お米を守って……)
視界の端で、スターサラマンダーが両拳に炎を集め始めた。
「……そろそろ、終わりにしようか」
先ほどまでとは違う熱気が、荒野を包む。
「全員まとめて、相手してあげるよ‼」
「散ってください‼」
ストームの声が響いた。
炎が弾ける。
五人はそれぞれ別の方向へ跳んだが、広がった熱風までは避けきれない。
「きゃっ……‼」
ルティナが吹き飛ばされ、膝をついた。
「ルティナ‼」
「……大丈夫、です。まだ、戦えます……」
立ち上がろうとする彼女の手が、震えている。
四堂悠太は、拳を握り締めた。
(くそっ……! お釜……ご飯……田んぼ……戦隊……。子どもの頃、好きだった戦隊ものを書こうとして……)
そのときだった。
脳裏に、一つの光景が浮かんだ。
中学一年生の自分が、パソコンに向かって夢中でキーボードを叩いている。
窓の外には、田んぼが広がっていた。
大好きだった戦隊ものの主題歌を口ずさみながら、タイトルを何度も打ち直している。
戦隊ものだから、名前の最後は「ジャー」。
お釜で炊くご飯。
炊飯。
(……そうだ)
あのとき、ひらめいた瞬間のことを覚えている。
(「スイハン」だ‼ あの名前を思いついたとき、これだって思ったんだ‼)
四堂悠太は、顔を上げた。
「——お釜戦隊スイハンジャー‼」
叫んだ瞬間、体の奥からごっそりと何かが抜け落ち、足元が僅かにふらついた。
(この感覚……召喚できた!)
同時に、空が暗く染まった。
荒野の上空に、きらきらと光る円陣が現れる。
その中心から、一人の青年が勢いよく降り立った。
どすん‼
砂埃が舞い上がる。
年の頃は二十代前半。日焼けした肌に、がっしりとした体格。麦わら帽子を被り、泥のついた作業着を着ている。
腰には、農具のようなものを差していた。
どう見ても、農家の青年だった。
「よーし、着いたぞ‼」
青年は周囲を見渡し、首を傾げた。
「……あれ? ここ、田んぼじゃないな。荒野だな。まぁいいか‼」
四堂悠太は、思わず力が抜けた。
(相変わらず、呑気だ……でも、ありがとう。レッド)
「シドー……あの者が、召喚キャラか?」
リデルが目を丸くする。
「うん。……お釜戦隊スイハンジャー、レッドだ」
「……お釜戦隊、スイハンジャー?」
スターサラマンダーは聞き慣れない名前を繰り返し、首を傾げた。
「……なんか、戦隊ものみたいな名前だね」
「そうだ‼」
レッドが胸を張った。
「俺たちスイハンジャーは、五人の仲間で悪の組織『コメクイダー』と戦ってきたんだ‼」
「五人……?」
スターサラマンダーが、少しだけ目を見開く。
「うちも五人なんだよね。魔法少女スターナイツっていうんだけど」
「おおっ‼ お前も五人組か‼」
「う、うん……」
「じゃあ、仲間じゃないか‼」
「仲間じゃない‼」
四堂悠太とスターサラマンダーの声が、見事に重なった。
レッドは二人のツッコミを受けても、全く動じなかった。
「でも、五人組なんだろ? 俺たちと同じじゃないか」
「同じじゃない‼ あたしは魔法少女で、あんたたちは戦隊で——」
「でも、悪い奴らと戦ってるんだろ?」
「それは……まぁ、そうだけど」
「じゃあ、やっぱり仲間じゃないか‼」
スターサラマンダーが、頭を抱えた。
「なんでそうなるんだよ……‼」
リデルが腕を組みながら、感心したように呟いた。
「……あの男、ある意味すごいのぅ。言い負かされておるぞ、サラマンダーが」
「言い負かされているというより、ペースを乱されている感じがします」
ルティナが、静かに補足した。
レッドは、スターサラマンダーをまじまじと見つめた。それから、ふと気づいたように言った。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
昨日は「小説家志望、異世界に転生する」が1000PVを超え、本日は完結済みの「転生したらまた悪役令嬢でした」も1000PVを超えました。さらに、ヘレナ編には新たにブックマークもいただいております。
本編だけでなく、完結後のヘレナ編までこうして読んでいただけることが、本当に嬉しいです。いつも応援してくださり、ありがとうございます!
本編・ヘレナ編ともに、これからも楽しんでいただけましたら幸いです。
もし小説を気に入っていただけましたら、ブックマークや、↓の⭐から評価をいただけると、さらに励みになります。




