第百六話 炎の魔法少女を目指して
翌朝、七人は再び広間に集まった。
スターシルフから託された言葉について、改めて確認するためだった。
『私たち全員と決着をつけたら、エレメントが直接会って、すべてを話すって。……それまでは、光の精霊エレメントの祠には来ないでほしいって、伝言を頼まれていた』
エレメントが、なぜそのような条件を出したのかは分からない。
それでも今は、その言葉に従うしかなかった。
七人は相談の末、現在地から近い順に、スターサラマンダー、スターウンディーネ、スターノーム、そして最後にスターエレメントと決着をつけることにした。
「では、出発しましょう」
ストームが、静かに告げた。
「以前、スターサラマンダーと戦う直前に、火の精霊の祠を転移先として登録しました。私は、登録した場所へ瞬時に移動できます。人だけでなく、馬車や荷物も一緒に運べます」
「ああ。そういえば、そんな話をしていたな」
アレクシアが、思い出したように頷いた。
「ルーラみたいなものか……」
四堂悠太が、思わず呟いた。
「……何ですか、それは?」
「あ、元の世界のゲームに、一瞬で遠くまで移動できる魔法があるんだ。ストームが完全にそれだなって」
「私の能力は、建物の天井に頭をぶつけるような不具合は起こしません」
「そこまで知ってるの⁉」
「地球にいた頃にプレイしました。瞬間移動の魔法を覚えてからは、徒歩での移動を原則として廃止しました。最短ルートで攻略した結果、想定プレイ時間よりも大幅に早くエンディングを迎えられました」
「寄り道とか、しなかったの?」
「攻略には不要でしたので」
ストームは、何事もなかったように答えた。
「ゲームの楽しみ方が、僕とは根本的に違う。遊びにまで一切の無駄がないな……」
「合理的ですね」
ルティナが、感心したように頷いた。
「それじゃあ、三幹部は今日もここで——」
「いえ」
ストームが、四堂悠太の言葉を遮った。
「……少し、考えていたことがあります」
ストームは懐から、一枚の紙を取り出した。
丁寧に折り畳まれていた紙を広げると、そこにはリューベックの街の地図が、細部まで手書きで描かれていた。
「以前から、考えていました。……私たちの力では、魔法少女たちには及ばない。ならば、私たちにしかできないことをすべきだと」
「リューベックの地図……」
ルティナが、息を呑んだ。
「はい。万一、あの街が襲われた場合を想定して、防衛線を考えていました。今のところ、その可能性は低いかもしれません。ですが、備えておくに越したことはありません」
「ストーム……」
四堂悠太は、地図を見つめた。
あの街で出会った人たちの顔が、次々と脳裏に浮かぶ。
ヴィクター、コレット、ブルーム公、ガルダ、ヘンリル。
「スターサラマンダーとの決着がついたら……いったん城へ戻って、それから一緒にリューベックへ行かないか?」
四堂悠太は、ストームたち三人を見た。
「コレット副隊長に伝えたいんだ。紹介したい人たちがいるって」
今、リューベックの街には、領主代行としてコレット副隊長がいる。
ストームはしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。
「……はい。それが良いと思います」
「わしらも、異論はない」
サンダーが答え、ブリザードも微笑みながら頷いた。
「では、スターサラマンダーとの戦いには、ブリザードかサンダーのどちらかに同行してもらえませんか?」
ストームが、二人へ目を向けた。
「私は火の精霊の祠を転移先として登録しています。そのため、皆さんを祠へ送ることはできますが、戦闘後にこの城へ戻るには、この城を転移先として登録している方の力が必要です」
「四堂悠太が戦えるのなら、私は行かないよ」
ブリザードが、迷うことなく答えた。
「戦力が足りているところへ私が加わっても、あまり意味はない。無意味なことはしない主義でね。私はこの城に残って、詩集でも読んでいるよ」
「それなら、わしが行こう」
サンダーが、一歩前へ出た。
「帰りの転移役くらい、務めてやる」
「ありがとうございます」
ストームが、小さく頭を下げた。
「では、そろそろ出発しましょう」
出発する六人は、改めて顔を見合わせた。
昨夜は同じテーブルを囲み、笑い合った。
しかし、これから向かう先に待っているのは、スターサラマンダーとの戦いだ。
穏やかだった広間の空気が、僅かに引き締まる。
ストームが静かに片手を掲げると、六人の足元から黒い靄が立ち昇った。
「登録した火の精霊の祠へ転移します。戦闘が終わったら、サンダーの力でこの城へ帰還してください」
「行きも帰りも一瞬か。改めて考えると、すごい力だな……」
四堂悠太が感心していると、リデルが広間の隅へ顔を向けた。
「……行ってくるぞ、シドー人形」
そこには、いつの間に運び込まれたのか、椅子の上にシドー人形が鎮座していた。
「まだいたのか、その人形……」
「当然じゃ。我らの帰りを待つという、大切な役目があるからな」
「人形に留守番を任せる必要、ある?」
「帰ってきたとき、誰も待っておらぬと寂しいじゃろう」
「ブリザードが残ってるけど」
「それとこれとは別じゃ」
「何が違うんだろう……」
最後まで答えは分からないまま、四堂悠太は苦笑した。
黒い靄が、六人の姿を包み込んでいく。
「では、行きます」
ストームの声が響いた。
次の瞬間、視界が暗転する。
六人の姿は、広間から跡形もなく消えていた。
***
静けさを取り戻した室内には、椅子に鎮座するシドー人形と、その隣に立つブリザードだけが残された。
ブリザードは、シドー人形の顔をしばらく眺めた後、手にしていた詩集を静かに開いた。
「さて。二人きりになったことだし、続きを読んであげよう」
シドー人形は、何も答えなかった。
「沈黙は、了承と受け取るよ」
そう言って、ブリザードは満足そうに詩を読み始めた。
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