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第328話 山城国の鬼退治

───笠置山中


左兵衛佐さひょうえのすけは武具や狩衣を脱ぎ、直衣へと着替えて牛車に乗り込んだ。


その牛車の護衛のように、惟成と兼成が牛を引きながら歩いていた。


「おい、源。本当に大丈夫なのであろうな? 鬼が出たら、本当に儂を護れるのであろうな!?」


牛車の中から左兵衛佐が不安げに聞いた。


「大丈夫です。お護りしますよ。着替えで直衣を持っているのは左兵衛佐様だけしかいなかったのですから、裕福な貴族の雰囲気を出しておいてください。」


惟成が淡々と言った。


(直衣を着ただけで牛車の中から雰囲気を出せとは……。惟成も意外とめちゃくちゃだな……。)


兼成は横目で惟成を呆れながら見た。


笠置の集落の者達には、『都へ続く街道を貴族が私財を隠すために通るらしい』という話を、あちこちで噂してもらっていた。


「噂は流したばかりで、すぐに鬼が動くとは限りませんが……参りましょう。」


牛車はゆっくりと動き出した。


一往復。


二往復。


三往復……。


街道を牛車が目的地もなく、ただ往復するだけ。


淡々と、それが続いた。


七往復。


「………やはり、出ないか……。」


兼成が空を仰いでため息をついた。


──その時。


「止まってください。」


惟成の声が低く落ちた。


惟成の動きが止まった。


「なんだ? 居るのか!?」


兼成が小声で惟成に尋ねた。


「………います。」


兼成は周りを見渡したが、気配すら感じない。


「本当におるのか? 気配すら感じんが……。」


「間違いなく居ます。ただ、まだ近くにはいないだけです。……一人……二人……? こちらへ向かってきています。」


「近くにいないのに、何故二人と分かるのだ!?」


牛車の中の左兵衛佐が声を上げた。


左兵衛佐の質問には答えず、惟成は生い茂る木々を見つめていた。


「………いきます!」


そう言うやいなや、惟成は大きく踏み出した。


そして、虚空に向かって大きく刀を振った。


すると、その振られた刀の軌道へ吸い寄せられるかのように、二人の男が木々の上から飛び降りてきた。


「────っな──!!!??」


男達は、刀が振られている場所へ自分達が飛び込んでいくという状況に困惑していた。


だが、全てが遅かった──。


───ッドッ!


───バキッ!!


二人に惟成の刀が叩き込まれた。


「……っ……。」


二人は街道に前のめりに倒れた。


「な、何だ、今のは!? 惟成!!」


兼成が聞いた。


「……気配を感じ、次は木々の上からそこに飛び降りてくるだろうと分かったので、先手を打ったまでです。」


そう言いながら、惟成は二人を捕縛した。


「分かったのでって……お前、どうやって……。」


兼成は唖然とした表情で言った。


(左兵衛佐の前で天狗に武術を教わったことは言わない方が良さそうだ……。兼成様は紗世からは聞いてないか。説明は後だな。)


「峰打ちだったので、じきに目を覚まします。早く牛車に入れて運びますよ!」


そう言って惟成は男達を担ぎ上げ、牛車へと放り込んでいく。


ドサッ!!


バサッ!!!


「ひぃやああああ!!! 何だ!! こやつらは!!!」


外での戦闘に震え上がっていた左兵衛佐は、突然積み込まれてきた気絶した男達に、武官の上官とは思えぬ驚きの声を上げた。


「左兵衛佐様、牛車に乗ったままになさいますか? それとも歩くしかありませんが、牛車を降りますか?」


惟成が聞くと、


「お……お、お、降りる! 降りるし歩く!!」


左兵衛佐は転がるように牛車から出てきた。



────笠置の集落


体が大きく、顔や体に泥を塗り付けて黒くなった肌。


髪には蔦や葉が編み込まれ、異様な頭をしている。


「お前達が見た鬼はこいつらか?」


捕縛され、跪かされた男達の顔が上げられた。


集落の民達は恐る恐る男達を見た。


「でっけぇ身体だ……肌も黒い……ギョロ目……。多分、そうだと思います。」


惟成が男達の首筋に刀を当てた。


「お前達は何者だ。」


「ひっ……。」


「答えろ。」


「さ、山賊です……。」


「集落の者を襲い、荷を奪ったか?」


「は、はい……。」


「牛車の牛を切り殺したのは?」


「お、お、俺たちです!!」


「何故殺した。」


「……荷だけ奪おうとしたのに暴れたので……。」


「切り殺した牛はどうした?」


「は、腹が減ってたので焼いて食いました!!」


「………なんと野蛮な……。」


左兵衛佐が顔を顰めた。


惟成は構わず続けた。


「木の上から現れ、鬼のふりをしていたな?」


男達は顔を見合わせた。


「ち、違っ……。」


惟成の刀がわずかに首筋へ食い込む。


「正直に答えろ。」


「ひっ!! は、はい!! 鬼の噂があれば皆逃げるので……。」


「女を寄越せ、置いてけ。さもなければ村人を殺すと言ったか?」


「い、言いました!!」


「人を喰らうとも言ったな?」


「お、脅しただけです!! 本当に喰ってはいません!!」


惟成は兼成を見た。


兼成も静かに頷く。


「つまり、人を喰った事実はないのだな?」


「な、ないです!!」


兼成が村人達を見た。


「他に鬼に遭遇し、被害に遭った者、脅された者はいるか?」


村人達は顔を見合わせ、首を横に振った。


「左兵衛佐様。この者達は都にて詳しい話を聞き、相応の処罰を下すとして……山城国での鬼討伐は、これにて終了でよろしいでしょうか?」


「な、何!? 終わり? もうか!?」


「何か問題でも?」


惟成と兼成は同時に左兵衛佐を見据えた。


「え? あ? いや! ほ……本当に鬼はこやつらなのか? 鬼には見えぬが?」


兼成が呆れるように言った。


「ですから、鬼の仕業に見せるように、こやつらがこうして肌に泥を塗ったり、頭に植物をくっつけていたのでしょう。鬼の仕業に見せかけた人間の仕業です。」


「鬼討伐、終了です。」


惟成は有無を言わさぬ圧で言い切った。

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