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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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僕はまず、僕自身のしてしまったことを、ちゃんと知るべきだ。

チビ勇者という聞き手を得て、僕は、とりとめもない僕の考えを話した。


「僕は、まず、あの悲劇の現場に、行こう、って思うんだ。

 きっと、そこには、たくさんの魂が、さ迷っていると思う。

 僕は彼らの言葉をちゃんと聞かなくちゃならない。

 そうして、彼らの望む通り、なんだってしようって思う。」


たくさんの魂?とチビ勇者は呟いた。


「怖く、ないの?」


「怖いよ。とっても。

 だけど、魂たちの怒りを、僕は受け止めるべきだ。

 もしかしたら、そのために、僕は、僕自身を消せないのかもしれない。」


一緒に来てもらえるかな?と聞いたら、チビ勇者は、小さく頷いた。


「怖く、ない?」


「怖いよ、とっても。

 だけど、あなたにどこまでもついて行くのが、僕の償いだから。

 あなたが魂に怒られに行くなら、一緒に行くよ。」


怒られに行く、というチビ勇者の言い方に、ちょっと笑ってしまった。

それだと、子どもがちょっとしたことを叱られて、反省する、みたいだ。


僕を叱ってくれた人たちのことを、思い出す。

郷の大人たち。ピサンリ。アルテミシア…

叱られるとちょっと怖いときもあったけど、みんな優しく教え諭してくれたんだな、って思う。

少なくとも、怒りをぶつけられるとか、痛いのや苦しいのを覚悟するとか、そういうんじゃなかった。


だけど、今は違う。

僕は叱られるんじゃない。

ぶつけられるのは、彼らの怒り。

攻撃されるかもしれない。

だけど、それも、僕は、逃げずに受け止めなくちゃいけない。


もしかしたら。

いや。多分、きっと。

無事に帰っては、こられないだろうな…


ちらっと、チビ勇者を見た。


「…ごめん、あんなこと言ったけど…

 やっぱり、君は来なくていいよ。

 いや、来ちゃだめだ。」


僕と一緒にいれば、チビ勇者も傷つけられてしまう。

それにつき合わせてはいけないと思った。


チビ勇者は、少し唇を尖らせて、僕を睨んだ。

それから、行く、と、だけ言った。


「…う…

 ごめん。

 やっぱり、君に話すべきじゃなかった。」


そう言ったら、ますます、むっと、唇がとんがった。


「行く。」


僕は、しまったなあ、と彼を見た。

余計なことを言ってしまった。


「魂たちは、僕を攻撃するかもしれない。

 そのときに一緒にいたら、君まで攻撃されてしまう。」


「いいよ。」


「反撃はしてはいけないんだ。

 甘んじて、すべて受け止めなくては。」


「頑張る。」


「痛くて、苦しいかもしれない。

 もしかしたら、命を落とすかも…」


チビ勇者は目を丸くして僕を見る。

僕はそのチビ勇者に言い聞かせるように言った。


「脅しじゃないよ。

 だけど、僕も、正直、どうなるか分からない。

 それでも、理不尽に消滅させられた彼らの怒りを、僕は、受け止めようと思うから。」


「なら、僕も、一緒に受け止める。」


チビ勇者は、力を込めて言った。

僕はそんな彼の頭を、思わず撫でていた。


「もういいよ。

 無理しなくて。

 君の気持はもうじゅうぶんに伝わった。

 それでも、君のこと、僕は好きじゃないけど。

 ごめんね。

 きっと、僕は、君のこと、好きになれないと思うんだ。」


「好きじゃなくてもいいよ。嫌いでいい。

 だから、一緒に連れて行って。」


チビ勇者は、ちょっと泣きそうになった。


幼いんだと思った。

この子はとっても幼いんだ。

幼くて真っ直ぐで、だけど、その彼の真っ直ぐさは、アルテミシアを傷つけた。


僕は。

いつまで経っても、僕が彼を受け容れられないのは。

彼が僕からアルテミシアを奪った、って思っているから。

そのことを、ずっとずっと、忘れられないから。

もしかしたら、これが、恨む、っていう気持ちなんだろうか。


恨みや憎しみは、エエルを消滅させる。

だから、そういう気持ちは持たないようにしたほうがいい。

それでも。

どうしたって、アルテミシアを失ったことは、忘れられない。認められない。

そうして、その原因をチビ勇者が作ったんだ、ってことを、忘れられない。


「ごめんね。」


僕は彼の頭を撫で続けた。


「もう、いいよ。

 多分ね、僕は、それでも、君を許せない。

 だから、君は、僕の償いに付き合わなくていい。」


反撃もできずに、ただ、受け止めるなんて、そんなことに、こんな小さい子をつきあわせちゃいけない。


チビ勇者のことを、僕がどうしたって、許せないように。

僕が何をしたって、僕も、許されないだろう。

それでも、僕は償い続けるしかない。

そのお手本を、僕は、こうして見せてもらった。


「君は立派だ。

 本当に、立派だ。

 もっと違う出会い方をしていれば。

 僕は、きっと、君のことを、とてもとても好きになれただろうって、思うよ。」


もっと違う出会い方をしていれば。

僕が消滅させてしまった人たちも。

もっと、違う状況にあったなら。


一緒に笑い合えたかもしれない。

美味しいものを分け合えたかもしれない。

同じものを見て、同時に、きれいだ、って思えたかもしれない。


そのすべての可能性を、ほんの一瞬で消滅させた。

僕の罪はとても重いんだ。








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