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もう一つの楽園  作者: 村野夜市


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ようやく起きられるようになったころ。

僕は、そのことに気付いて呆然となった。


ルクスたちとずっと一緒にいるものだとばかり思っていたのに。

僕は、チビ勇者と、あとは、僕らの身の回りの世話をする、ほんの数人の人たちだけで、むしろ、本陣からは、遠く遠くへと、連れて行かれていたんだ。


なんで、こんなことを?


これも多分、ルクスの命じたことなんだろうけど。

それにしたって。


「よくもまあ、君は、このことを、僕に、隠し通せたもんだ。」


僕が、チビ勇者にむかって、恨みがましく言うと、チビ勇者は、けろっと答えた。


「何も聞かれなかったから。

 聞かれたらどうしよう、って、ずっと心配だった。」


そうか。

僕もずっと、本陣にいる、って思い込んでたからさ。

それについては、何も尋ねなかったかも。

つくづく、思い込みって恐ろしいよね。

いや、してやられたよ。


「ルクスもよくやるよね。

 ときどき会いに来てくれてただろう?

 あれで、すっかり騙されたんだ。」


ルクスも一緒にいる、ってさ。


よく考えたら、ルクスは、魔法通路を使えば、僕に会いに来られるんだ。

往復、二日かければ。

忙しいのに、そのためだけに二日かけるなんて、ルクスにとっちゃ、ものすごく犠牲を払うってことだろうけど。


「あ、あれはね?」


言いかけて、チビ勇者は慌てて口を抑えたけど、僕は見逃さなかった。

じろっと睨んだら、自分から、白状した。


「ごめん。

 ルクス王は、これだった。」


チビ勇者の取り出したのは、小さな箱のような装置だった。


その箱を寝台の枕元に置くと、ひょいっ、と等身大のルクスがそこに現れた。

ルクスは、枕元に座って、誰もいない寝台を覗き込みながら、優しく尋ねた。


「具合はどうだ?

 腹、減ってないか?」


は、い?


「君が、寝起きでぼんやりしているときに、これを使えって、命令されて…」


確かに、僕は寝起きはあまりよくない。

そして、幼馴染のルクスは、それを、ようっく、知っている。


しかし、命令されて、なんて、わざわざ付け加えるなんて、チビ勇者も、なんかそれは、まずい、って、分かっててやってたわけね?

まあ、本当に、命令されて、なんだろうけど。

いいよ、責任転嫁しなくても。

ルクスならやりかねないって、誰より、僕はよく知っている。


「これって、記憶装置?」


道理で、いつもいつも、同じ顔して、同じこと尋ねるはずだよ!

あれって、僕がぼんやりしてたからだ、って思ってたけど。

こんなもの、使ってたなんて!


チビ勇者は、言い訳みたいに付け足した。


「ちゃんと目を覚ましたら、本当に会いにくる、ってルクス王は言ってた。

 …あなたの様子は、王には、全部、報告してある。

 一緒に来てる人たちが、通信の魔法、使えるから。」


!!!

なんてこったい、だよ。


「ここのところ、だいぶ、調子もよくなってきたみたいだ、って伝えたから。

 近いうちに、会いにきてくれる、と思うよ?」


会いたいわけじゃないよ。

いや、会いたいか。

直接会って、いろいろ文句言ってやりたい。


いやさ。

分かってるよ。

それもこれも、僕のこと、危ないところに置いとけないから、って思ったんだろうってことは。

だけどさ。

僕は、これからは、ルクスの傍にいて、ずっとルクスのこと助けるんだ、って思ってたのに。

そりゃあ、足手まといになるのかもしれないけど。

こんなふうに、騙すみたいに、遠ざけること、ないじゃないか。


悔しい、って、思ったら、涙が出てきた。

いや、僕は、何に悔しいんだろう。

僕を騙したルクスに?

けど、それは、僕のためだって分かってる。

なら、じゃあ…


そっか。

僕に、だ。

力になれない僕、に。

失敗ばっかりやらかす僕、に。

足手まといにしかなれない僕、に、だ。


くそっ。


「いたっ。」


心の中で悪態を吐いたのと同時だった。

チビ勇者は、小さく叫ぶと、肩のところをもう片方の手で抑えた。


?


どうした?


僕はチビ勇者の近くへ寄ると、抑えている手をどかせて、肩を見た。

すると、そこに、小さな火傷の後があった。


「なにこれ?どうした?」


チビ勇者は、涙目になって、僕を見上げた。


「急に、ぱちっ、って。熱かった。」


確かに、この近くで、火が燃えた、みたいな火傷だ。

治癒術を使えば、すぐに傷は癒えたけど。

チビ勇者は、まだべそをかいていた。


「…僕のこと、怒ってる?」


「怒ってないよ。」


「でもさっき、あなたの目が、ちかって光って、そのとき、熱っ、ってなった。」


「???

 まさか、これ、僕がやった、って思ってるの?」


「…違うの?」


「確かに、僕は、君のこと、嫌いだけど。

 傷つけたいとは思ってない。」


思わず声が大きくなってしまって、あっ、と思った。

僕を見上げるチビ勇者の目には、いっぱい涙がたまってて、でも、ぎゅって唇を噛んで、必死に涙を零すまいと、堪えている。


こんな小さな子どもに、面とむかって嫌いだとか言うなんて、僕も、かなりひどい。


「…ごめん。」


目を逸らせて謝ったら、首を振るチビ勇者が、視界の端に映った。


首を振るついでに、涙も振り飛ばして、それで、泣いたのをごまかしている。

そんなのも、全部見ちゃって、そうしたら、胸が、ずきってなった。


「僕は、君を傷つけたりはしないよ。」


僕は、確かめるみたいに、もう一度言った。


そうだ。

僕はそんなことは、しない。

チビ勇者を傷つけたいなんて思ってないし。

そもそも、誰かを傷つけるとか、そういうのは、嫌いなんだ。


だけど。

心の端っこに引っかかっている。

さっき、なにか、ちりっ、としたのを感じた。

それと同時に、チビ勇者の、熱っ、と言ったのが聞こえた。


まさか。

まさか…


それは、小さな、始まり、だった。










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